〝究極のマイノリティー〟ハリス氏登場の意義
─ 11月の米大統領選挙まで、あと2カ月となったわけですが、民主党候補で現副大統領のハリス氏と共和党候補で前大統領のトランプ氏の支持率は拮抗しています。寺島さんは米大統領選をどのように見ていますか。
寺島 今回の米大統領選は非常に複雑な状況になっていて、本当に直前まで、どちらが勝つか、分からない状況になると思います。
大和総研副理事長・熊谷亮丸の視点「岸田政権の成果と積み残された課題」
7月にトランプ氏が銃撃されて、直後にバンス上院議員を共和党の副大統領候補に選んだ時点で、トランプ氏はおそらく勝ったと思ったはずです。
なぜなら、バンス氏はある意味で、トランプ氏以上にトランプ主義者のような思想を持っていて、まさに「MAGA(Make America Great Again、米国を再び偉大に)」だと。トランプ氏は中間層の支持を取り込むためというよりも、自分のスローガンを推し進める方向に持っていったわけです。
ところが、7月下旬にバイデン大統領が選挙戦から撤退を表明すると、この1カ月でパラダイムが完全に変わってしまった。バイデン氏に代わって登場したハリス氏が決して有利になっているとは思いませんが、ものすごく微妙な戦いになったということは間違いありません。
─ どちらが勝つか分からない、難しい情勢になったということですね。
寺島 今、世間では、バイデン氏が自ら身を引かず最後まで粘っていたから、副大統領のハリス氏という選択肢しか残っていなかったが、もっと早くバイデン氏が撤退していれば、もっと強い候補者を選ぶことができたという人がいます。
しかし、わたしがつくづく思うのは、世の中の皮肉というのは、こういう時に起きるものだと。仮に早々とバイデン氏が撤退して、一から候補者をノミネートして候補を争った場合、ハリス氏はほぼ大統領候補になれなかっただろうと思います。もっと白人のセンターラインにいる人たちを選ぶ流れになったはずだからです。
それが結果的に、ハリス氏しかいないという状況に追い込まれて、ジャマイカ出身の父とインド出身の母のもとに生まれたハリス氏が出てきた。〝(少数派)〟と言ってもいいハリス氏が出てきたことで、一気にハリスというカードを際立たせることになったのです。
─ アジア系であり、黒人のハリス氏は、当選すれば、米国初の女性大統領となります。
寺島 そこなのです。注意深く見ている人はお気づきかもしれませんが、民主党大会ではクリントン氏やオバマ氏といった大統領経験者が出てきましたが、オバマ氏だけはハリス氏への支持表明がワンポイント遅れたのです。
わたしには、このことが非常に興味深く映りました。なぜなら、オバマ氏ほど、この選挙の壁をよく理解できている人はいないからです。