【論考】セブン&アイがカナダ企業から買収提案 本来あるべき企業経営のかじ取りとは?

セブンも外資規制の対象に当てはまる⁈

「コーポレート・ガバナンス(企業統治)の浸透や株主を意識した経営が進む中、10年前であれば重要視しなくても良かったような潜在的なイベントリスクが、国内にも存在することを意識させられるものになった」

 こう語るのは、ある証券会社の関係者。

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 セブン&アイ・ホールディングスが、カナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けて約2週間。株式市場では様々な反応が出ている。

 今回の提案が注目されるのは、買収が成立すれば、外資による過去最大の日本企業買収になるから。報道のあった8月19日時点で、セブンの時価総額は約4.6兆円。買収金額は少なくともそれ以上となるため、これまで過去最大だった米投資ファンドによる旧東芝メモリ(現キオクシアホールディングス)の約2兆円を大幅に上回る計算だ。

 アリマンタシォンはカナダや米国で、ガソリンスタンド併設型のコンビニを運営。売上高は約10兆円だが、その約7割はガソリン販売によるもの。将来的な脱炭素対応でガソリン販売事業を巡る経営環境が不透明感を増す中、小売り事業の強化を図るため、近年、米国でコンビニ事業を強化するセブンに買収提案したものとみられる。

 今後、セブンは社外取締役のみによって構成される特別委員会で、同社の提案を受け入れるかどうか検討する。ただ、現状では、セブンが「提案を受け入れるとは思いにくい」(小売関係者)との見方が多く、実現の可能性は低い。

 経済産業省は昨年8月に策定した「企業買収における行動指針」で、「真摯な買収提案」に対しては 「真摯な検討」をすることが基本としており、今回、セブンが特別委員会を設置したのは、経産省の行動指針に沿った対応だ。

弁護士 久保利英明「本来は株主も企業も目指すべき方向は同じはず。いい経営をやれば業績も株価もよくなる」

 一昔前であれば、買収提案を受けても、経営陣は公表せずにやりすごすこともできた。冒頭の証券会社関係者のコメントは、そうした環境変化を踏まえての感想である。

 政府は2020年に、外為法(外国為替及び外国貿易法)を改正し、外資による日本企業への出資基準を厳格化。軍事転用などを避けるため、最先端の半導体や電子部品などの業種を対象にしているが、セブンも規制の対象に当てはまるという。

 ただ、あまり規制対象企業(業種)を増やしすぎると、海外の投資家から「保護主義」と批判されかねず、今回のセブンへの買収提案問題は外為法そのものの意義も問われてくるのではないか。

 M&A(合併・買収)に詳しい森・濱田松本法律事務所の弁護士・藤原総一郎氏は「対象業種を広げれば広げるほど、国も外資だからNOだと言えるだけの理由を説明できるのかは不明だし、外為法の適用は牽制にはなるが、これだけで日本企業を守れるものでもないと思う。経営者はあらかじめリスクをシミュレーションし、先手を打っておくべきというだけで、正しいことをやっていれば、過度に恐れる必要はない」と語る。

 一方、セブンが提案に応じないと回答した場合、回答理由によっては、アリマンタシォンが同意なき敵対的買収に踏み切る可能性も考えられる。

 米格付け大手・S&Pグローバル・レーティングは、セブンが買収提案に応じない場合、「成長投資や資本効率の改善、株主還元への圧力がこれまで以上に高まることで、同社の信用力への下方圧力が強まる可能性が高い」と指摘する。

外国法人による日本株の保有比率は過去最高を更新

 昨今、日本の上場企業を巡る経営環境は変わりつつある。

 東京証券取引所が2015年に定めた「コーポレートガバナンス・コード」で、政策保有株(持ち合い株)の縮減を求めた。この結果、企業や金融機関などによる日本企業の株式持ち合いは徐々に解消傾向。

 そうした背景もあるのか、外国法人による日本株の保有比率は23年度に31.8%と過去最高を更新した。近年、日本企業に対して〝物言う株主(アクティビスト)〟が配当などを強く求めたりする事例が増えているが、こうした株主構造の変化も背景にあるのかもしれない。

 セブンはこれまでも、〝物言う株主〟で知られるバリューアクト・キャピタルから、総合スーパーや百貨店などの低収益事業を切り離し、コンビニ事業に経営資源を集中することで、株式価値を向上させるよう求められてきた。結果的に、セブンは昨年9月に百貨店事業を米ファンドに売却、総合スーパーも将来的に上場を目指して、本体から遠ざける方針を決めた。

 とかく、PBR(株価純資産倍率)が低く、割安感があるとされる日本企業。今後はセブン以外にも買収提案を受ける日本企業が出てくることだろう。国境を越えた外資による買収リスクにどう対応するか。経営者の覚悟が問われている。

冨山和彦の「わたしの一冊」『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』