非上場化で次の成長のチャンスを掴めるか─。
2024年8月8日、東証プライム上場の準大手システム開発会社・富士ソフト(坂下智保社長)が株式の非公開化を決めたと発表した。
米投資ファンドのKKRが約5600億円を投じてTOB(株式公開買い付け)を行い買収する。富士ソフトは、このTOBへの賛同を表明、同社株主にも応募を推奨している。今後は9月中旬にTOBを開始、12月頃には臨時株主総会を開催して、非上場となる見通し。ただ、9月3日には同じく米投資ファンドであるベインキャピタルがKKRを上回る約6000億円での買収を提案。これを受けてKKRはTOB開始を早めるなど、先行きが読めない展開となってきている。
富士ソフトは創業者の野澤宏氏が1970年に創業、製造業向けの組み込み・制御システムを強みに成長してきた。同社に対しては22年頃から、シンガポールの投資会社・3Dインベストメント・パートナーズが株式の買い増しを進め、企業統治体制の変更や、保有不動産の効率化などに向け圧力を強めてきた。足元では21.45%を保有する筆頭株主。
これまでの間、社外取締役や監査役の選任などを巡って株主総会で対立。一方で富士ソフトは3Dの提案を検討した上で、上場子会社の完全子会社化や、保有不動産の一部流動化などの手を打ってきた。
3Dは非上場化についても提案。富士ソフトも社外取締役を中心に検討を重ね、決断したという経緯。
富士ソフトの業績自体は好調で、24年12月期も増収増益の見通し。その意味で3Dとの対立に時間を取られずに経営に集中し、企業価値を高めるのが得策と判断したということ。
海外投資ファンドの動向に詳しい関係者は「富士ソフトが次の成長を目指す意味でも悪い話ではないのではないか。創業家中心経営から脱却し切れていない日本企業に対しては、今後も同様にファンドからの圧力が強まる可能性が高い」と指摘する。
近年は業績が堅調で知名度があっても、大正製薬ホールディングスのように非上場化を選択するケースが増加。そこから再成長に向けた手を打てるかが経営者に問われている。