Broadcom傘下のVMwareがプライベートAI(人工知能)を推している。VMware Explore 2024(関連記事)ではプライベートクラウドに特化した統合プラットフォーム「VMware Cloud Foundation(以下、VCF) 9」を発表した。同社CEOのHock Tan(ホック タン)氏は「企業が本当に必要なのは「『プライベートクラウド』『プライベートデータ』『プライベートAI』」と訴えた。

  • ビジネス利益と組織のプライバシー、コンプライアンスなどのバランスを鑑みればプライベートAIが最善であるというのがBroadcomのスタンスだ

VMwareはBroadcomに買収される前から、プライベートAIの開発に注力している。8月28日に実施したメディア向けセッションでは、同社のVCF部門プライベートAIグローバル責任者のChris Wolf(クリス・ウルフ)氏と、同社バイスプレジデントでコアスイッチング部門ゼネラルマネージャーのRam Velega(ラム・ヴェレガ)氏が登壇。

両氏は「企業のプライベートAI活用」をテーマに、プライベートAIの導入やワークフローの管理、将来的にネットワーキングが果たす役割について、その戦略を語った。

VMwareがプライベートAIを開発する理由

冒頭、ウルフ氏はプライベートAIという概念が誕生した背景と、VMwareが提供するプライベートAI技術の優位性について説明した。

  • Broadcom VCF部門プライベートAIグローバル責任者、Chris Wolf(クリス・ウルフ)氏

「VMwareがAIの独自開発に着手したのは、AI支援によるコード生成などが主な目的でした」と語ったウルフ氏。同社はすでに顧客サービスとサポートにAIを組み込む作業を行っており、これらの機能を包含した形でVCFのポートフォリオを構想していたという。

「AI開発の過程における顧客のニーズを分析すると、企業が切望しているのは『アーキテクチャの将来性確保と柔軟性の維持』『データ管理とプライバシーの維持』『コンプライアンス観点でのAI関連の決定リスクを軽減』でした。つまり企業は、競合他社に利益をもたらす可能性のある(パブリックな)AIモデル利用のリスクを避け、データを自社の管理下に置くことを望んでいたのです。AIを取り巻く状況が急速に変化していることを考えると、統合化されたプラットフォームアプローチでインフラストラクチャを集約する必要があると考えました」(ウルフ氏)

このような背景から、VMwareは独自のアプローチを採用している。VMwareは単一のAIサービスやモデルに依存せず、多様なAIモデルやサービスを柔軟に導入できるプラットフォームアプローチを採用している。例えば、Hugging Faceでは新たなAIモデルが毎日のように登場しているが、こうした状況では最新モデルを容易に採用できる柔軟性が重要だ。

ウルフ氏は「単一のAIサービスに依存するのではなく、複数のオプションを持つことで、技術の陳腐化や特定のサービスの問題によるリスクを軽減できます。VCF 9のようにインフラストラクチャを集約した環境であれば、より優れたモデルが登場した場合でも容易に実装することが可能です」と説明した。

プライベートAIの実用例:コード生成からコンタクトセンターまで

プライベートAIはすでにAI支援によるコード生成や高度な情報検索、コンタクトセンターといった現場で活用されている。特に外部共有できない内部文書や関連する膨大な非公開データを所有し、複雑な検索を瞬時に実行する必要があるコンタクトセンターでは、プライベートAIが必須だ。

  • プライベートAIの活用領域。コード生成や高度な情報検索、ITの最適化、コンタクトセンターといった現場で活用されている

「われわれのプライベートAIは、長年のソフトウェア開発で培った信頼性と顧客データのプライバシー保護を重視しています。分散リソーススケジューラを用いたAIサービス向けのリソースオーケストレーションとインテリジェントなスケジューリングが特徴で、パブリックAIサービスと比較して最大3分の1から5分の1のコストで導入可能です。これらの要素が、従来ベアメタルでAIサービスを運用していた顧客にも評価され、VCFの導入につながっています」(ウルフ氏)

具体的には、企業が自社のデータセンター内でAIワークロードを実行できるようにし、データのプライバシーとセキュリティを確保している。また、AIインフラストラクチャの簡素化の観点からはAIモデルの開発やトレーニング、デプロイメントを簡素化する統合環境を提供している。

  • ポリシー管理、リソース配分、CTO削減、集中管理といった観点からもプライベートAIのほうがよいという

なお、VMwareは2024年5月よりVMwareとNVIDIAが共同で開発した企業向けプライベートAIソリューション「VMware Private AI Foundation with NVIDIA」を提供している。これは生成AI向けに最適化されたNVIDIAのLLM(大規模言語モデル)開発用プラットフォーム「NVIDIA NeMo」と生成AIを、VCF上に統合したソリューションだ。ウルフ氏は「インフラストラクチャパートナーはNVIDIAにとどまらず、IntelやAMDとも協業し、オープンなエコシステムを構築していきます」と述べた。

  • VMware Private AIのオープンエコシステム