双日は8月29日、前中期経営計画での取り組みを振り返り、また2024年5月に公表された中期経営計画での重点領域および新たなデジタル実装の事例を紹介するため、DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略説明会を開催した。

説明会には、双日 取締役 専務執行役員CDO兼CIO兼デジタル推進担当本部長の荒川朋美氏が登壇した。

「Digital開拓期」から「Digital-in-All」

双日は、2021年4月に「中期経営計画2023」を発表。全社デジタル変革に向けた取り組みを開始し、同月からはDX推進委員会を設置した。

加えて、この3年間の中期経営計画の中で「デジタルに対する全社意識改革」「デジタル人材育成」「CDO(Chief Digital Officer)をトップに据えたデジタル案件の推進」といった内容に取り組んできた。

  • 「中期経営計画2023」での取り組み

    「中期経営計画2023」での取り組み

この「Digital開拓期」を経て、2024年5月に公表した「中期経営計画2026」では、新たに「Digital-in-All(全ての事業にデジタルを)」による価値創造を図ることを掲げた。

今後は、「デジタル(データ・テクノロジー)による既存ビジネスの価値向上、競争力強化」「デジタルビジネスの収益化」を目指す方針。

「中期経営計画2026では、Digital-in-Allを目指し、営業本部と共同でデジタルビジネスによる収益化、価値向上を推進していきます。加えて、AI活用によるDX事業創出も始動しています」(荒川氏)

  • 中期経営計画2026を説明する双日 取締役 専務執行役員CDO兼CIO兼デジタル推進担当本部長の荒川朋美氏

    中期経営計画2026を説明する双日 取締役 専務執行役員CDO兼CIO兼デジタル推進担当本部長の荒川朋美氏

その他にも、AIやクラウド領域での事業領域での事業強化の一環として、さくらインターネットとの戦略的業務提携を提携や、テクノロジーでイノベーションを実現する事業会社として、日商エレクトロニクスを改称し、双日テックイノベーションとしてスタートするなど、さまざまな改変を行っている。

生け簀のマグロをデジタルで再現?

双日では、中期経営計画2026で掲げられているDigital-in-Allの達成に向けて、同社のマグロ養殖事業子会社である双日ツナファーム鷹島にて「スマート水産プロジェクト」を開始している。

このスマート水産プロジェクトは、養殖事業における共通課題である、生け簀内の魚の尾数カウント実現に向け、生け簀を丸ごとデジタル空間で再現するデジタルツインでアプローチするという取り組み。

仕組みとしては、教師データ作成のため、遊泳状態をデジタル上に再現し、エコーを当ててエコー画像を作ることでデジタルツインを作成。エコー画像を見て尾数を判定できるようにするため、さまざまな分布・尾数パターンのデジタルツインのエコー画像を機械学習させることで、生け簀でエコー観測し、作成されたエコー画像をもとにAIで尾数を判定することができる。

  • 「スマート水産プロジェクト」の仕組み

    「スマート水産プロジェクト」の仕組み

「この取り組みは、魚群探知機を駆使する点が特徴です。魚群探知機は超音波を海中に発射して、その音の反射の強さを捉えることによって、魚群の位置を捉えます。しかし、可視光線のカメラとは異なって、ハッキリと魚群を捉えられるわけではないため、一尾ずつ数える際は活用が難しいと考えられていました。しかし、生け簀の中の尾数が異なるとエコー画像も異なるはずだと考えて、画像判別に強みを持つ機械学習技術を導入し、魚群探知機での尾数把握を可能にしました」(荒川氏)

農業DXを推進するDegasに出資

中期経営計画2026の取り組みとして双日はAI活用に向けた業務提携や協業にも積極的だ。 2024年3月21日には、デジタルインフラ企業であるさくらインターネットとの業務提携契約を締結。AIサービス開発の基盤(GPU計算震源での連携)を強化した。

また同社は8月29日に、AIスタートアップのDegasへの出資とともに業務提携契約を締結したことも発表している。

Degasは、農業DXを推進し、ノウハウや開発したAIを他分野に展開することで飛躍が期待されている企業で、ガーナ共和国で、小規模農家向けに肥料などの農業資材を提供し、生産物の一部で現物返済される農家ファイナンス事業を展開している。

今回の業務提携契約は、Degasが開発した衛星画像の分析に特化した生成AI基盤モデルをタイ王国のアグリ(農業)プラットフォーム事業に活用するための共同研究を行うためのもの。

  • Degasが農家ファイナンス事業で利用しているアプリイメージ

    Degasが農家ファイナンス事業で利用しているアプリイメージ

今後、[さくらインターネットが提供するGPUクラウドサービスを利用し、衛星画像の分析による気候予測や災害予測、農業に関するデータを掛け合わることによる穀物収穫量予測などへの活用を目指していく。

なお、今回の契約は、さくらインターネットとの業務提携に基づくビジネスモデル開発の第1号案件となっており、今後も複数パートナーとのエコシステムを拡大し、AI・DXの共創ビジネスを増やす方針としている。

最後に荒川氏は以下のように今後の展望を述べた。

「今後はAIを活用して、商社のフットプリントの中からたくさんの価値創造と新しい事業創出ができると考えております。デジタル関連の収益は今年で約30億円でしたが、中期経営計画2026中には少なくとも倍にはしたいと思っています。最終的には、100億円規模の収益の塊にしていくことで、弊社もデジタルでしっかり稼いでいけるような体制を整えていく方針です」