【日中韓のEコマース市場を調査】3カ国で世界の40%占める 共通して売れるジャンル、異なるジャンルは?

英国の市場調査会社ユーロモニターインターナショナルはこのほど、日本、中国、韓国の3カ国のEコマース市場に関する最新調査結果を発表した。日中韓3カ国は、2023年の世界のEコマース小売市場全体の実に40%を占めていること、オンライン購入の割合が高いのは、美容・パーソナルケア、OTC・ヘルスケア、ペットケアカテゴリであることなどがわかった。

ユーロモニターインターナショナルは、英国ロンドンに本社を置くグローバル市場調査会社。世界16カ国にオフィス、100カ国に現地アナリストを配置し、市場分析レポートやデータベース、カスタマイズ化されたコンサルティング調査を実施している。このほど、日中韓3カ国のEコマース市場に関する最新調査結果を公開した。

同調査結果によると、日中韓3カ国は、世界のEコマース小売市場全体の実に40%、アジア太平洋地域のEコマース小売市場全体の87%を占めていることがわかった。今後数年間、新興国におけるEコマース市場の強い成長が予想されるが、日中韓3カ国はデジタルインフラが十分整備されていることもあり、2028年時点でもアジア太平洋地域全体の85%を占める主要Eコマース市場でい続けることが予測されている。

各産業カテゴリーごとのEコマース比率(総小売販売規模にEコマースが占める割合/販売額ベース))を見ると、日中韓の3カ国は共通して、美容・パーソナルケア、OTC・ヘルスケア、ペットケアのカテゴリーのオンライン購入の割合が高いことがわかった。また、日本では2022年から2023年にかけ、ソフトドリンク、家庭紙・衛生紙、ペットケアのカテゴリーでEコマース比率の高まりが見られた。

Eコマース比率の高い業界の特徴について、ユーロモニターインターナショナルのコンサルタント木村幸氏は、「美容・パーソナルケア、OTC・ヘルスケア、ペットケア製品等、オンラインで購入される傾向が高い産業カテゴリーに共通して言えることは、購入頻度がそれほど高くないことに加え、個人の嗜好に基づき、好みやこだわりが商品選択に大きく反映される傾向の強いカテゴリーであるということだ」と話す。

「このようなカテゴリーは、都合の良いタイミングで注文でき、選択肢を多く提供するEコマースとの親和性が高い。 TikTok中国版である『Douyin(抖音)』が、消費者のSNS上での行動に基づいて興味や関心に沿った商品を提案し購入させるInterest-based E-Commerceという手法を用いて急成長を続けているが、この手法と相性が良いのも、こういった個人の嗜好が強く反映されるカテゴリーである」と述べた。

実際に、2024年に実施したライフスタイルサーベイにおいて、Eコマースで購入する理由を日中韓の消費者に聞いたところ、「オンライン上での豊富な品揃え、実店舗にないブランドもあるから」という理由が上位に挙がっている。

これらについて木村氏は、「Eコマースで購入するか否かについては、利便性という側面も強く、特にペットケア製品については、まとめ買いをして配達してもらった方が実店舗よりも安い上に、便利で楽という理由でオンライン比率が上昇している。逆に、食品、飲料のEコマース比率が低いのは、購入頻度も高く、近くの実店舗ですぐに購入したほうが便利と感じられるためと考えられる」と述べた。

業界の主要企業によるEコマース市場の支配力の程度を示すユーロモニターインターナショナルのデジタル支配力指数を見ると、日本では、ホームケア、ペットケア、アルコール飲料業界で指数が高くなっており、これらの製品を購入するにあたり、日本の消費者は、実店舗でもオンラインでも同じブランドを選択している可能性が高く、企業側もこれら業界の主要企業がEコマースにも注力し、オフライン、オンラインの双方での成長を実現させているということがわかった。

逆に、日本でデジタル支配力指数の低い主食類・その他加工食品業界においては、業界の主要企業のEコマース売上が伸びていない、あるいはEコマース参入が進んでおらず、オンラインでしか買えないブランドやEコマースに力を入れているブランドが存在感を高めていることがわかった。

この結果を受け、木村氏は企業へのアドバイスとして、「産業により濃淡はあるものの、今後も3か国におけるEコマース比率は上昇していくと考えられる。 Eコマース市場における事業戦略を考えるときは、デジタル支配力指数、すなわち、Eコマース市場が、実店舗販売を加えた全体市場と似ているのか、それともEコマース特有の競合環境なのかを考慮する必要がある」との見解を示した。

「デジタル支配力指数が高い産業では、主要企業にとっては、今後も新興ブランドが上位に入り込んでこないよう、『守り』や『現状維持』のための戦略が有効であり、新興ブランドにとっては、この状況を打破するため、SNSやEコマースプラットフォームとのパートナーシップなどをうまく活用し、消費者に注目されるようなユニークなアプローチを考えていくことが重要。他方、デジタル支配力指数の低い産業では、全体市場の主要企業にとっては、どのようなブランドがEコマース市場で成長しているのか、小さなプレーヤーまで追って戦略を考え、成長するEコマース市場においても強いプレゼンスを獲得する必要がある。新興ブランドにとって、このような競合環境はチャンスであり、成長を続けるEコマースチャネルでの成功は将来全体市場においてもプレゼンスを高めることにつながる」と述べた。

Eコマース戦略成功例として、「お~いお茶」ラベルレス商品についても言及した。2022年から2023年にかけて、日本でEコマース成長率が最も高かったのはソフトドリンク業界(7%)だった。そのリーディングプレイヤーである伊藤園は、Eコマースのみで購入可能な「お~いお茶」ブランドのラベルレス商品を2023年第3四半期に売り出した。飲食店提供分を除いたRTD茶の国内小売市場全体が数量ベースで前年比マイナス4%、金額ベースで1.1%成長と低調な中、「お~いお茶」の2023年のEコマース販売は金額ベースで前年比50%の売上増に成功した。ラベルレス商品の成功には、年々高まる日本の消費者のサステイナビリティ意識が背景にあるとも考えられるとの見解を示した。