Adecco Groupで、総合人事・人材サービスを日本で展開するアデコは8月22日、「AI時代の経営層のリスキリング」をテーマとしたメディアラウンドテーブルを開催した。ラウンドテーブルには、アデコ 代表取締役社長の平野健二氏が登壇し、同社が実施したAIに関する調査をもとに、経営層向けのトレーニングやポイントを解説した。

  • 左からアデコ 代表取締役社長の平野健二氏とAI研究者の 今井翔太氏

    左からアデコ 代表取締役社長の平野健二氏とAI研究者の 今井翔太氏

経営層の多くはAIを「大きな変革をもたらす」と見ている

今回発表されたのは、Adecco Groupが世界の経営層を対象に実施した意識調査の報告書「Leading through the Great Disruption」の日本語版である「AIによるディスラプションを乗り切るには」。日本を含む世界9か国の経営幹部層2000人を対象に調査を行った調査で、日本では全国266人が調査対象となっている。

この調査報告書においては、ビジネスの多くの分野で生成AIをはじめとするAIが浸透し活用が広がる一方、企業における実装が進まず、さまざまなところでAI格差が生まれている現状に着目して調査を行い、その要因の1つとして「経営幹部層のAI格差」があることが明らかになった。

まず最初の調査では、経営層の多くがAIを「大きな変革をもたらすゲームチェンジャー」と見ていることが分かった。特にテクノロジーのインダストリーにおいては、82%の経営者が「AIは業界に大きな変革をもたらす」と考えているという。全体平均で見ても61%がAIが変革の要因になりえると考えており、経営層にとってAIの存在は大きなものであることが分かる結果となっている。

  • 「AIは自身の企業が所属する業界のゲームチェンジャーである」 引用:AIによるディスラプションを乗り切るには(アデコ)

    「AIは自身の企業が所属する業界のゲームチェンジャーである」 引用:AIによるディスラプションを乗り切るには(アデコ)

役職別に見てみると、COO(最高業務執行責任者)やCHRO(最高人事責任者)の約60%が「AIは自社のゲームチェンジャーである」と考えている一方で、CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)の半数は、AIが自社にもたらすチャンスに確信を持てていないという結果となっている。

AI時代に取るべき人材戦略の5つのポイント

続いての「AIのリスクやチャンスを理解するのに十分なAIスキルと知識を持っているか」という質問においては、経営層の約6割が自社の経営チームのAIスキルや知識に自信がないと回答した。

  • 「自社の経営チームはAIのリスクやチャンスを理解するのに十分なAIスキルと知識を持っている」 引用:AIによるディスラプションを乗り切るには(アデコ)

    「自社の経営チームはAIのリスクやチャンスを理解するのに十分なAIスキルと知識を持っている」 引用:AIによるディスラプションを乗り切るには(アデコ)

「経営陣のAIスキルや知識に自信がない」という場合と「経営陣が十分なAIスキルと知識を有している」場合では、「スキルアップの機会の提供」や「AIに関するガイダンスを提供」という面において、従業員に対するスキル機会の提供も遅れがちになるということも調査から分かっている。

このような背景から、日本の企業は他国と比べてリスキリングへの取り組みが遅れていることが指摘されており、1001人以上の大企業であってもリスキリングの取り組み状況で「すでに取り組んでいる」と回答した企業は過半数以下の47%、300人以下の企業においては19%のみに留まる結果となっている。

  • 日本のリスキリングの取り組み状況 引用:AIによるディスラプションを乗り切るには(アデコ)

    日本のリスキリングの取り組み状況 引用:AIによるディスラプションを乗り切るには(アデコ)

経営層がAI時代に取り組むべきポイントについて平野氏は、「変化に適応できるチームの構築と組織風土の醸成が鍵」と語り、以下のような人材戦略の5つのポイントを挙げた。

枠組み作りから始める

  • 人を中心としたアプローチを導入する。従業員の「仕事」ではなく、「エンプロイアビリティ(雇用されるための能力)」を保護する。
  • AI関連の方針や人員計画を練る際には、包括性、安全性、透明性、プライバシー、説明責任を考慮する。
  • リーダーは、より多くの信頼、開放性、支援を生み出すために、課題・懸念に対して透明性を保ちながら積極的に対処する必要がある。

適応型リーダーシップを導入する

  • 経営層や管理職には、AIスキルのトレーニングが急務。変化のスピードに対応するため、情報をアップデートしながらAIの知識を深める。
  • 経営層や管理職に定期的なコーチングの機会を提供し、適応的な考え方を根付かせる。
  • 複雑な変化と不確実性の管理に焦点を当てた、リーダーシップ開発プログラムを強化する。

社内流動性を促進する

  • 人材戦略は、ジョブベースからスキルベースへの根本的な転換を行う。
  • 人材に次のキャリアに必要なスキルについてのガイダンスを提供するとともに、非直線的なキャリアパスを実現できるよう支援する。
  • 可能な限り多くの配置転換の機会を確保するために、既存の従業員がトランスファラブルスキルを身に付けられるよう支援する。

従業員全員にAIの教育を行う

  • 管理職を含むすべての従業員に対し、AIの影響、業務との関連性、AIの活用が生み出す機会に関する教育を行う。
  • 全社において、責任を持ってAIを活用するためのトレーニングとガイダンスを提供する。
  • 管理職がより切迫感を持ってAIによるディスラプションに対応するよう、意識改革を行う。

人ならではのヒューマンスキルを指導する

  • 自社におけるヒューマンスキルの必要性を認識し、採用から昇進までの人材ライフサイクルの中核とする。
  • 管理職はロールモデルとして、コーチング、トレーニング、リーダーシップ開発によって自らのヒューマンスキルを向上させる。
  • 従業員の時間を解放し、ヒューマンスキルを必要とするコア業務に集中できるようにすることを、業務フローにAIを融合する際のゴールとする。
  • 人材戦略の5つのポイントを語る平野氏

    人材戦略の5つのポイントを語る平野氏

また上記の5つのポイントに加えて、「現場の従業員には、ただリスキリングを促すのはNGであり、変革の必要性の理解促進とリスキリングに向けた内発的動機を醸成することが鍵」「自らも学び、変革をドライブする」といったポイントも挙げられていた。

アデコの経営層向けリスキリングプログラム

同社では「変化に適応できるチームと風土を実現できるリーダーを育成する経営層向けリスキリングプログラム」を提供している。

具体的には、「経営者・リーダーのリーダーシップ開発」「強い経営チーム構築」「変化に適応できる組織風土の醸成」という3つのポイントをもとに、4つのフェーズが用意されている。

フェーズ1となる「現在地を知る」プログラムでは、これまでの人生を振り返り自分の現在地を発見・意味づけするワークショップやフィードバックをもらう/フィードバックを受け止めるプログラムが用意されている。

またフェーズ2の「目指したい姿を描く」プログラムでは、「ビジョン策定/バリュー策定プログラム」「ビジョン浸透化/バリュー浸透化プログラム」、フェーズ3の「経営者・リーダーとしての能力開発」では、「リーダー開発プログラム(コーチングプログラム)」「次の経営層・リーダーを育成・開発するスキル向上プログラム」が行われる。

そして最後の「組織風土変革」のフェーズでは、「対話による組織ビジョンと個人ビジョン一体化プログラム」や「組織と個人の主体性(アカウンタビリティ)を高めるプログラム」が実施される。

  • 経営層向けリスキリングプログラムの4つのフェーズ

    経営層向けリスキリングプログラムの4つのフェーズ

アデコは、「『人財躍動化』を通じて、社会を変える。」をビジョンに掲げ、仕事を通じて躍動する人材と、人材が躍動できる環境の創出により、社会へ変革をもたらすことを目指してる。今後もさまざまな取り組みを通じて、ビジョンの実現を目指していく構え。