読者の皆さんは「DevRel(Developer Relations)」という言葉を知っているだろうか。
DevRelは、自社製品・サービスと開発者の良好な関係性を築くためのマーケティング・技術ブランディングの手法を指す。近年では、大手企業を中心に幅広いIT企業に部署やチームとして設置されており、開発者に対する情報発信などのさまざまな施策を通じてエンジニアの活躍をバックアップする仕事が行われている。
本稿では、ZOZO 技術本部 技術戦略部 DevRelブロック ブロック長である諸星一行氏に、ZOZOにおけるDevRelの仕事内容やDevRelが求められている理由などを聞いた。
「DevRel」って、なに?
DevRelという言葉は、元々は海外で生まれた言葉で、エンジニア向けのプロダクトを販売している企業が、プロダクトを使用するエンジニアに製品のことをきちんと伝えるための「橋渡し」のような役割として設置しているという。近年では「デベロッパーアドボケイト」や「テクノロジーエバンジェリスト」といった呼び方で呼ばれることもあり、注目を集めている。
一方で、日本では海外よりもDevRelの役割が拡張され、「技術広報」「エンジニア採用広報」のような役割を担うケースも多くなっているという。
「最近では、DevRelが技術広報やエンジニア採用広報の役割を担うケースも増えてきています。一般的に企業広報の担当者はエンジニアではないことが多いので、技術の深いところまではわからない部分もあります。DevRelは深い内容をエンジニアに伝えるなど、技術周りの発信をおこなうことで、技術広報としての役割を担っています」(諸星氏、以下同氏)
ZOZOがDevRelを部署として発足させたのは2023年のこと。それまでにも、継続してエンジニア支援に取り組んできていたが、本格的に組織化したことで、以前よりも効率的に支援活動を行えるようになったという。
「部署として独立したのは2023年2月のことですが、それまでにもCTO(Chief Technology Officer)直下のチームとして同じような業務を行っていました。しかしどうしても他の業務との兼ね合いで記事のレビューなどで時間が掛かってしまうことが多いという課題を抱えていました。組織化したことで、効率的に活動できるようになり、チームとしてレベルアップしたと思います」
部署として設立されてからは専任1人、兼任2人の3人体制で業務にあたっている。3人というと人数として少ない気もしてしまうが、諸星氏は「組織化したおかげでやりたいと思っていたことをできるようになった」と語っていた。
ZOZOにおけるDevRel
ZOZOにおけるDevRelの業務内容としては、「テックブログの執筆支援(約100本/年)」「ミートアップ・勉強会の企画・運営(約10回/年)」「登壇支援(約100件/年)」「カンファレンス協賛支援」「SNS運用」などと多岐にわたる。
具体的には、テックブログの発信強化のため、エンジニアが記事を書きやすいようにテンプレートを作成し、社内向けブログ「DevRelブロック通信」にライティングのTips記事を公開したり、発信ネタに悩むエンジニアに寄り添い、カンファレンスのセッション応募のネタを出す企画会議やプロポーザルの品質向上のためのレビュー会を実施したりするなど、まさに「すべてのエンジニアの活躍をバックアップする仕事」だ。
すべてのエンジニアを支援するべく、ZOZOでは「社内向け」の広報活動にも力を入れている。現在ZOZOには、iOSエンジニアやSRE(Site Reliability Engineering)、AI系のエンジニア、ウェブフロントエンドエンジニアなどさまざまな職種のエンジニアが在籍しており、総数は500人以上にもなるという。
「弊社のエンジニアは基本的にフルリモートで勤務しています。そのため、なかなか顔を合わせて話すことは難しいのですが、偶発的にうまれる会話など、横のつながりを持ちたいと感じている社員も多いです。そのため、DevRelチームが上手くエンジニア同士の関係構築をお手伝いできるような活動も行っています」
このような社内向けの取り組みとして、ZOZOでは「LT会」を行っているという。LT会とは、「ライトニングトーク会」の略称で、5分間で自分の専門分野や気になっている技術など、好きなことを気軽に話す会だ。登壇練習も兼ねて、業務で触れていない好きなものや興味のあるジャンルを発表する場を設けているという。
DevRelで社内の技術力向上を目指す
今回話を聞いた諸星氏は、2019年にZOZOに中途入社するまでずっとXR(VR, AR, MRなどの総称)領域を専門に活動してきたという。現在もDevRelと兼任でXR領域の業務を担当しているそうだが、何故DevRelのチームにもジョインしたのだろうか。
「弊社に入社する以前にも、自分自身の専門領域であるARやVRに関して色々な発信活動をしていて、私はどちらかというと『発信が得意な方』だと感じていました。しかし、やはり苦手意識がある方もいる。自分の得意なことを活かして、発信していきたいと考えるエンジニアを支える縁の下の力持ちになりたい、という想いでDevRelチームにジョインしました」
最後に諸星氏に今後のDevRelの取り組みについての意気込みを聞いた。
「DevRelという部署は直接的に売上を創出する部門ではありません。しかし、エンジニアの採用がなかなか難しい昨今の情勢の中で、いま技術広報に注力することで、エンジニア自身のレピュテーションも向上し、それがひいては会社自体の技術力の向上にもつながっていくと思っています。弊社の経営戦略にも挙げられている”MORE FASHION × FASHION TECH~ワクワクできる『似合う』を届ける~”を実現するためにも技術力は欠かせません。そのため、多くの人に『ZOZOでエンジニアとして働くことの価値やメリット』を上手く伝えていきたいと思っています」