今年4月の働き方改革関連法の改正により、トラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制が始まり、さまざまな業界に影響を与えている「物流2024年問題」。トラックドライバーの労働時間が短くなることで輸送能力が不足し、「モノが運べなくなる」可能性が懸念されている。
全国に1万6000店舗以上のコンビニエンスストアを展開しているファミリーマートにとっても、物流2024年問題は他人事ではない。ドライバーの不足により、いつ行っても欲しい商品が買えるという状況を継続できなくなる可能性がある。
今回、ファミリーマート 物流本部 物流企画部 部長 根本健一朗氏、 物流本部 物流企画部 副部長 松田裕司氏に、同社の物流2024年問題への取り組みについて聞いた。
AIを活用した配送シミュレーターで配送時間を短縮
根本氏は、「これまでは、決められた時間枠の中で商品をお店に運んでいましたが、ドライバーさんの労働時間が短くなると、当然、運べるものも減ってしまいます。当社としては、配送店舗数を変えずに現在の配送状況を実現するために、手を打つ必要がありました」と語る。
これまでは、例えば1日12時間働けたところ、法改正後の労働時間は10時間と2時間減ることになる。そのため、1万6000店舗の商品配送を効率化しなければならなくなった。
そこで、同社はAIを活用した配送シミュレーターの開発に着手した。配送シミュレーターにより、配送ルートを効率化しようというわけだ。2019年から検討が始まり、2022年の下期に活用を開始した。
当時、配送ルートは物流センターの管理者が経験と勘で作っていた。もちろん、長年の経験と勘は大切だが、人間のできることには限界がある。根本氏も「店舗によって荷下ろしの条件が異なるなど、さまざまな条件があり、人間がすべての配送ルートを最適に調整するのは難しいです」と話す。
配送シミュレーターを独自で開発しようとした理由は、既存のツールではトラック専用のルートを作成できないからだ。例えば、既存のシミュレーターでは、大型トラックではUターンできない場所をUターンしてしまったり、大型トラックでは通過できない高架を通ってしまったりしてしまうという。
蓄積されたデータに基づき、こうしたトラックの運転には適さない条件を除外するような形で、最適な経路を作成するようにした。人手により経路を作成していたときは数時間かかっていたところ、シミュレーターにより最短30分程度で案が作成されるようになり、配送コース数とトラック台数をそれぞれ約1割削減できたとのことだ。
また松田氏は、「その他にも大きな台車を使ったり、かご車を使ったり、小さな施策の積み重ねにより配送の効率化を進めております。。こうした取り組みは、加盟店様の協力あってのものです。商品の安定供給を期待されている加盟店様からさまざまなアイデアをいただいており、コミュニケーションを図ってブラッシュアップしています」と話す。
東北でローソンと共同配送を開始
ファミリーマートの物流改革は配送シミュレーターの開発にとどまらない。例えば、競合であるローソンと共同配送にも取り組んでいる。この取り組みは、2020年に経済産業省の支援の下、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマート物流サービス」プロジェクトに、セブン-イレブン・ジャパン、ローソンと共に、チェーン横断的な共同配送物流の実証実験に参加したことに端を発する。
この実証実験では、江東区の物流倉庫に共同物流センターを設置し、各社の常温配送の商品をそれぞれのセンターから商品移送を行い、チェーン横断的に効率化した配送ルートで配送した。
根本氏は、「豊洲付近は3チェーンの店舗が散らばっているので、政府から配送をまとめられないかという提案を受けました。物流センターから店舗までの共同配送を行いましたが、何とかできました」と振り返る。
そして、2024年に入って、同社とローソンは東北地方の一部地域において、アイスクリームや冷凍食品などを対象とした両社の物流拠点間の輸送を行っている。
輸送車両は10トントラック1台で、「ファミリーマートの物流拠点(多賀城市)からファミリーマート用商品を積載して出発」→「ローソンの物流拠点(岩手県盛岡市)でローソン用商品を積載」→「ローソンの物流拠点(秋田県秋田市)でローソン用商品を降ろす」→「ファミリーマートの物流拠点(秋田県市)でファミリーマート用商品を降ろす」といった輸送ルートがとられている。
根本氏は、「2022年に実施した函館の実証実験から、実現可能な時間と量がわかったことから、東北で本格的に共同配送することにしました」と語る。開始から数カ月たつがうまくいっており、他の地域でも検討しているそうだ。
加盟店に商品を安定供給するため、さらなる一手を
ローソンに加えて、異業種であるコカ・コーラ ボトラーズジャパンとも、物流面で協業を開始している。両社は、神奈川県海老名市・厚木市を中心としたエリアにおける配送で、コカ・コーラ ボトラーズジャパンの店舗配送トラックの共同活用のスキームを構築した。
松田氏によると、このスキームでは、配送車が足りなくなった時にコカ・コーラが契約しているトラック会社に依頼しており、新たにシステムを構築せずに対応できているという。
現在、免許制度が変わり、4トントラックを運転できる人が減っているそうだ。そのため、普通免許で乗れるトラックの開発も進んでいる一方、積載量が減っている。根本氏は「ドライバーが減少することは目に見えています」と指摘する。
したがって、同社は現状に甘んじることなく、次の一手を打とうとしている。「物流2024年問題は、継続的に取り組んでいかなければならない問題です。われわれは加盟店様に安定的に商品を供給することをミッションとしており、加盟店様への影響を考慮しながら、2024年問題に対応すべく、さらなる策を検討しています」と話す根本氏。
日本国民のニーズを満たすだけでなく、海外の人からも称賛を集めている日本のコンビニエンスストア。今の便利さをこれからも提供し続けるため、ファミリーマートの取り組みに期待したい。