人工知能(AI)など大量の情報処理が求められる先端半導体の製造に欠かせない「EUVリソグラフィー(極端紫外線露光装置)」の大幅な省エネやコスト削減を図る技術を、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の新竹積教授(物理工学)が開発した。装置で使用する反射鏡を従来の10枚から4枚に減らし、消費電力を10分の1に抑えた。実用化できれば1社独占の技術に一石を投じ、先端半導体製造分野で日本勢が巻き返す可能性も秘めているという。

先端半導体は、AIのサーバーやスマートフォン、パソコンのメモリなどに使われる小型のチップ。高密度の論理回路をシリコンウエハー上に書き込む必要があり、EUV露光装置を使う。従来はEUV光源から出た波長の短い光を10枚の鏡に反射させながら、フォトマスクと呼ばれる原版の回路パターンを、プロジェクターを使って1辺10ミリメートルのシリコンウエハーに転写している。オランダの半導体製造装置大手ASMLホールディングだけがこの技術を持っており、各半導体メーカーに独占販売する状況が続く。

ただ、鏡は1回反射するごとにEUVのエネルギーが40パーセント減衰するため、10枚の鏡を通過して最終的にシリコンウエハーに届くのは1パーセントにとどまる。炭酸ガスのレーザーでプラズマを発生させて、必要なEUV光を作るためには、1000キロワットという大量の電力消費が必要で、冷却水の量も膨大となる。鏡は希少金属のモリブデンとシリコンからできているため、設備投資もかかる。精密機械や半導体を作る大手グローバル企業からは「工場での電気代が高すぎる」など不満の声が上がっていた。

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    従来型(左)と、新竹教授が考案した手法の比較図。用いる鏡の枚数が減り、消費電力も削減できることが分かる(沖縄科学技術大学院大学提供)

光学分野では、光は光軸の中心を進む方が性能は良いことが「常識」とされていたが、新竹教授はASMLの反射鏡の設計が複雑で、光をジグザクに通過させる形をとっているために中心を大きく外しており、「性能は低いはずだ」と直感していた。そこで、中心に穴が開いた鏡を直線状に並べ、フォトマスクからの光を鏡の中央の穴に透過させた後、拡大し、収束させる仕組みをとった。この方法は大きな天体望遠鏡にも用いられている。

すると、光源からフォトマスクまでは2枚、フォトマスクからウエハーまでは2枚の鏡で収めることに成功した。消費電力も100キロワットと従来の10分の1まで抑える省エネ性能だった。なお、EUV光源では、スズの液滴を炭酸ガスレーザーで加熱して、プラズマを作り、EUV光を発生させているが、残ったスズ液滴がデブリとしてあらゆる方向に飛散し、マスクやプロジェクター、ウエハーに混入するという問題もあった。

今回発表した技術は、EUV光のパワーが非常に低いため、新竹教授は光源の近くにデブリを除去するための透明なフィルターを入れることを可能にした。これにより、プロジェクター側にきれいな真空の空間を確保出来る。

また、回路パターンを描いたフォトマスクに光を当てる際に、従来のように入射角と反射角が同じようになる1本の光ではなく、2方向から光を当ててより光が透過するように工夫した。新竹教授の手法では、露光面積を20ミリメートル四方まで大きくすることができ、携帯電話のチップやメモリの生産にそのまま用いることができるという。

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    従来の光の当て方(左)と、新竹教授が用いた2つの光源でフォトマスクを照らす比較図。二重露光フィールドと名付けた手法は、光同士が衝突せずに取り出せる(沖縄科学技術大学院大学提供)

国内では半導体検査装置で小電力のEUV光源が用いられているケースはあるが、露光装置ではまだ使われていない。新竹教授は「国産化できると思う。日本の半導体メーカーが再び黄金期を迎えられればいい」と展望を語る。今後は研究と並行して産学連携で光学機器メーカーや半導体メーカーに実用化の協力を仰ぎ、これまで日本が得意としていた半導体製造技術の巻き返しを図りたいという。社会実装できれば、世界中の半導体メーカーに販売でき、現在の一社独占市場を切り崩すことができると考えている。

 EUV露光装置の市場は2024年の1兆3000億円から、6年後の2030年には2兆5000億円に成長する見込み。今回の成果はすでに特許の出願を終了し、今年4月に開かれた国際会議「フォトマスクジャパン2024」で発表した。

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