dentsu Japanは8月5日、「AI戦略説明会」を実施し、電通デジタルと電通のコピーライターたちが長年培ってきた思考プロセスをAIに学習させた広告コピー生成ツール「AICO2(AI Copy Writer 2)」を開発したことを発表した。

説明会には、dentsu Japan データ&テクノロジー プレジデント 事業会社担当の山口修治氏、電通 CXクリエーティブ・センター センター長 エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター 主席AIマスターの並河進氏らが登壇し、同社のAI戦略と新サービスであるAICO2について説明した。

  • AICO2のイメージ

    AICO2のイメージ

ビジネスと提供価値をAIでアップデートする「AI For Growth」

同社では、dentsu Japanが提供するサービスのすべてにAIを適応し、アップデートするための戦略的かつ包括的な活動として「AI For Growth」という取り組みを行っている。

「AI For Growthは、単なるサービスやブランド名ではありません。dentsu Japanのビジネスと提供価値をAIでアップデートするための、さまざまなレイヤーでの取り組みを総称して『AI For Growth』と名付けられています」(山口氏)

  • AI For Growthについて説明する山口氏

    AI For Growthについて説明する山口氏

AI For Growthでは、「マーケティング支援」「トランスフォーメーション支援」「プロダクト開発」の3つから成り立つクライアントサービス領域、「データインフラ拡充」「AI人財育成」「技術研究・開発」の3つから構成されるAIアセット領域、「AIガバナンス整備」「組織構築・経営」から成るコーポレート機能という、3つの領域で8つの取り組みが行われている。

  • AI For Growthの8つの取り組み

    AI For Growthの8つの取り組み

特にプロダクト開発においては、デジタル広告の運用型広告において、広告クリエイティブ制作をAIで革新するソリューションである「∞AI Ads」を2023年10月に発表するなど、新しい取り組みも多い。

今回の説明会で新たに発表された、AICO2に関してもAI For Growthのプロダクト開発内の取り組みとなっている。

「AICO2」の概要

AICO2は、コピーライターの思考のプロセスを学習させた独自AIにより、印象的なコピーを生成するソリューション。2015~17年に開発された「AICO」がリニューアルされた新しいモデルだ。

「ChatGPTに代表される生成AIの登場によってさまざまな体験が可能になり、広告コミュニケーション領域においても生成AIは欠かせない技術になりつつあります。国内電通グループにおいては、初代のAICOの開発をはじめ、2015年から広告制作における生成AI活用について研究開発を続けてきました」(並河氏)

  • AICO2の説明を行う並河氏

    AICO2の説明を行う並河氏

電通のコピーライターが考案したコピー約1万作品を学習した初代のAICOは、人間のコピーライターに多くの発想をもたらしてくれる一方で、利用を繰り返すと過去のコピーと類似したものを出力したり、テーマとかけ離れたコピーを生み出したりする傾向があるなど、表現力に限界があったという。

近年では、ChatGPTに代表されるような、膨大なテキストデータを学習したLLM(大規模言語モデル)を活用したコピー生成も一般的に行われるようになってきた。しかし、「心の琴線に響くコピー」を生み出すには、生成AIをそのまま利用するのでは不十分で、コピーライターの知恵や経験によるさらなる進化が必要であると考えた結果、AICO2の開発に結び付いたという。

なお、思考回路を学習させるためには、「新人研修の課題として提出されたキャッチコピー」「人権スローガンの応募作」「SDGsスローガンの応募作」という、電通の試算に帰属する3つのキャッチコピーを題材としたという。

AICO2の操作方法

AICO2に、キャッチコピーとして「伝えたいこと」や「商品名」「解決したい課題」などを入力すると、「伝えるべきこと」と「表現方法」が理由とともに表示される。認知・共感を目的としたブランディング領域のキャッチコピーを高い品質で瞬時に生成できるだけではなく、より心を動かすコピーの生成が可能になるという。

  • AICOのモデルの比較

    AICOのモデルの比較

AICO2には、電通のコピーライターが培ってきた、心の琴線に触れるコピーを生み出すための思考プロセスや推論能力を高めるべくファインチューニングしたGPT-3.5 Turboモデルが実装されている。

  • 「AICO2」が実際に生成したコピー例

    「AICO2」が実際に生成したコピー例

コピーライターが考えたコピーだけではなく、コピーライターの意図や思考プロセスも学習させており、同社ではこれを「創造的思考モデル」と呼び、さまざまなAIソリューションに導入し検証しているという。

  • 「AICO2」が実際に生成したコピー例

    「AICO2」が実際に生成したコピー例

またAICO2は、AICO2が作成したコピーを自動で採点し、一定の基準に達したもののみ出力する機能も実装している。単に数多くのコピーを生成するだけではなく、質の高いコピー案から人間のコピーライターがさらに高い次元の発想作業に取りかかる手助けをしてくれるという。

説明会の最後に、電通 CXクリエーティブ・センター エクスペリエンスニュートラルデザイン3部 クリエーティブ・ディレクター コピーライターの川田琢磨氏は「AICO2を活用することで、人間とAIの強みを掛け合わしていきたいと考えています。AICO2を通して、電通のクリエーター、プランナーの創造性をより拡張し、高めていきます」と今後の展望を語った。

  • 電通 CXクリエーティブ・センター エクスペリエンスニュートラルデザイン3部 クリエーティブ・ディレクター コピーライターの川田琢磨氏

    電通 CXクリエーティブ・センター エクスペリエンスニュートラルデザイン3部 クリエーティブ・ディレクター コピーライターの川田琢磨氏

国内の電通グループでは、AICO2をクリエイティブ人財の良きパートナーとしてともに高め合う存在と位置づけ、顧客のブランディング領域における高品質な広告制作を支援していきたい構え。