銀河系(天の川銀河)の周りにある小さな銀河「衛星銀河」が、従来の理論に基づく推定より多いことが分かったと、国立天文台、東北大学などの国際研究グループが発表した。すばる望遠鏡(米ハワイ州)の観測で、新たに複数の衛星銀河を発見し判明した。宇宙には正体不明の暗黒物質(ダークマター)が網目状に偏在。そこに星の材料物質が引き寄せられ、銀河ができて大規模構造を形成している。成果は、星や銀河の形成過程、暗黒物質の理解につながる可能性があるという。
衛星銀河は、銀河系などの大きな銀河の重力に捉えられて運動している小さな銀河で、伴(ばん)銀河とも呼ばれる。銀河系では、発見済みの衛星銀河は大マゼラン雲、小マゼラン雲以外の全てが、暗く小さな「矮小(わいしょう)銀河」という。衛星銀河の数は暗黒物質の正体や性質にも関わるため、研究者の関心を集めてきた。
最近の理論では、銀河系の周りには1000超個の暗黒物質の塊があり、そのうち220個程度に衛星銀河ができていると推定されていた。一方、これまでに見つかった衛星銀河はわずか60個ほどといい、この食い違いは「ミッシングサテライト(見つからない衛星)問題」と呼ばれる。原因は、暗黒物質の正体が理論の想定と異なるため塊がもっと少ないこと、または塊の中で星が生まれる過程の理解が不十分であること、観測の及ばなかった遠くに未発見の暗い衛星銀河が多く存在すること――などが考えられている。
研究グループは解明を目指し、広い視野と高感度を持つ「超広視野主焦点カメラ」を搭載したすばる望遠鏡により、空の特定範囲を観測したデータを分析した。この範囲にはもともと4個の衛星銀河が知られ、また研究グループがおとめ座とくじら座、うしかい座に各1個、計3個を見つけていた。新たな公開データからさらにおとめ座、ろくぶんぎ座に計2個を発見した。計9個のうち、グループが発見した5個は地球から30万光年以上離れており、同カメラならではの成果という。
観測性能や理論を勘案した上で、この範囲には衛星銀河が3~5個あると想定されたのに対し、実際には既に9個発見された。これを銀河系全体に換算すると、少なくとも500個あることになり、推定されてきた220個程度を上回る。こうしてミッシングサテライト問題から一転し、逆に衛星銀河が“多過ぎる”問題に直面することとなった。
宇宙の質量のうち星や生物の体、身の回りの物などを構成する通常の物質はわずか4.9%。26.8%が光などの電磁波で観測できない暗黒物質で、宇宙の成り立ちや構造の鍵を握る重要物質とされ、正体の解明が一大課題となっている。
研究グループの東北大学大学院理学研究科の千葉柾司(まさし)教授(天文学)は「ドイツのグループも、別の銀河で衛星銀河が多いことを見いだしている。従来の理論は、星の形成に“ブレーキ”をかけ過ぎて理解していたことになり、計算の精度や物理過程の理解を再検討する必要がある。ただ、少なくとも当初のミッシングサテライト問題は解決できそうだ。さらに発見数を増やし、統計的な精度を上げていく必要がある」と話している。特に米国が南米チリに建設中のベラ・ルービン天文台による南半球の空の観測に対し、期待が高まっているという。
研究グループは国立天文台、東北大学、法政大学、仙台高等専門学校、米プリンストン大学、台湾中央研究院天文及天体物理研究所、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構で構成。成果は日本天文学会の欧文研究報告に6月8日掲載され、東北大学などが同28日に発表した。
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