採用試験の面接官がAIだったら、あなたはどう思うだろうか? 2024年5月、VARIETASは書類選考・一次面接をAIが行う「AI面接官」をリリースした。リリースから3カ月程度で、検討中も含め、すでに数多くの会社から引き合いがあるという。多くの企業が注目する背景には「求職者、企業ともに疲弊する既存の採用システムの問題がある」と同社 代表取締役の木下隆太朗氏は話す。
AIによる面接は採用試験の新しいスタンダードになり得るのか。同氏に伺った。
企業、求職者双方にある採用の課題とは
木下氏が言う採用システムの問題とは何なのか。
「企業は本音を言えば、求職者全員に会いたいと考えています。しかしそれができないから、求職者をスクリーニングする方法として書類選考が生まれました」(木下氏)
書類選考をフェーズ1.0だとすると、2.0は適性検査だ。さらにコロナ禍を経て、フェーズ3.0に当たる動画提出を採り入れる企業も増えている。このように初期選考の手段は発展してきたが、理想の状態、つまり全員に会うことは叶っていない。そこには企業側の人手不足がある。
一方で求職者も、本音を言えば、自分の言葉で話す場を欲している。動画は話せているようにみえるが、実際は決まったフォーマットに応じて答えているだけで、「インタラクションではない」と木下氏は言う。だが求職者も忙しさや物理的な距離、移動に伴う金銭面の負担などが障壁となり、全ての企業に直接出向くことは難しい。
「両者ともこのかたちを望んでいないのに、マンパワーの問題で仕方なくやっているのです。常に妥協点を探し続けてきたのが初期選考の在り方なのではないでしょうか」(木下氏)
学生向けサービスから、企業向けに転換
VARIETASでは2023年10月から学生向けに「就活共通テスト」というサービスを提供している。これは言ってみれば、「就活版の模試」だと同氏は説明する。高校や大学入試の場合、多くの人が模試を受けた記憶があるだろう。しかし、就活には模試に相当するものがなく、自分の現在地が分からない。また、エントリーシートや面接の何が評価され、どこがダメだったのかフィードバックをもらえる機会はあまりない。そこで学生向けに、就活のための模試をという考えから生まれたサービスが就活共通テストなのだ。この中で学生はAIの面接官と本番さながらの面接を行う。
同社が2024年5月に開催されたHR EXPOに出展したところ、来場者たちから「面接官の質が良いので、企業(採用側)として使いたい」という声が多数集まった。それを受け、その翌週には「AI面接官」のリリースを行ったそうだ。
このスピード感を実現できた裏側には、就活共通テストで得たデータの存在がある。就活共通テストでは、学生たちが志望企業や業種、職種などを選択し、AIの面接官との模擬面接を行う。AI面接官は、この就活共通テストのAIモデルをベースに改良しているのだ。
同モデルの作成は、VARIETASが約100社にヒアリングをし、企業が求める新卒採用における人材像を30の評価項目にまとめるところからスタートした。その上で、各評価項目に対し、有識者が回答内容を見ながらレベル付けを実施。最後に有識者によるバイアスを考慮し、出現率などを微調整して完成にこぎ着けたものだ。これがベースとなっているため、「(AI面接官のための)新たなデータ収集は必要なかった」と木下氏は振り返った。
もちろん、各企業で求める人材像は異なるため、AI面接官には企業が独自に重み付けをする仕組みが備わっている。30項目の中で、バランスを取るのか、いくつかを重視するのかを選ぶことが可能だ。また、面接の時間やエントリーシートの文字量などのチューニングもできる。
AIと人、それぞれの強みを生かす採用システムへ
AI面接官のメリットは、さまざまだ。求職者にとっては面接に赴く必要がなく、24時間好きな場所から選考に参加できるという点が挙げられる。企業にとっても、スケジュール調整にマンパワーを割く必要がないことは大きな利点だろう。
さらに、人による面接では、面接官の力量が大きく問われる。通常面接官は求職者に質問をしつつ、その回答を記録し、評価する。それと同時に、回答に応じた次の質問を考え、投げかける。質問、記録、評価、次の質問の準備という4つを毎回完璧に、全ての求職者に対して公平にできる人は多くはないが、AIであればそれも可能だ。
また、「リアルな面接では絶対にできない」と同氏が話すのが、人材要件の見直しと評価の再算出である。AI面接官では重み付けを調整することで、例えばコミュニケーション能力を重視した評価をした後、同じ求職者に対して、主体性を重視した評価をすることが可能だ。リアルな面接の場で、今回はコミュニケーション能力を見る面接、次は主体性を……と、何度も同じ求職者を面接し直すことはほぼ不可能だろう。1回の面接に対し、重み付けの変更でさまざまな切り口から評価を再算出できるのは、AIならではの利点だと言える。
一方、「AIに人を評価できるのか」という懸念を持つ人もいるだろう。この点について木下氏は、「確かにAI面接官を単体で見ると、『AIに面接をさせていいのか』という問いが出てくる」と話す。だが、AI面接官が受け持つのは、あくまでも構造化面接(固定の質問項目や評価基準に沿って評価を行う面接手法)の部分なのだ。だからこそ「人がすべきことと、人ではなくてもできることを分業することで、人にしかできないところにマンパワーを充てられる」と続けた。人がすべきこととは二次面接以降の自由面接や、個別の座談会や説明会の開催といった求職者に対するコミュニケーションなどがある。これらの人手をかけるべきところにかけることができるよう、「機械で良いところは機械に任せる」(木下氏)というわけだ。
「人をAIがジャッジするのはどうなのかという論調が日本で大半を占めてしまうと、そもそも採用システムが持つ問題は解決されません。すでに経済界では、生成AIは人と敵対するものではなく、人の能力を拡張するものであると捉えられ始めています。また、米国のフォーチュン500の企業の99%が、採用にAIを活用しているデータもあります」(木下氏)
木下氏は中長期的なビジョンとして、AI面接官を大学入試などの教育現場でも活用できるようにしたいと考えている。すでに韓国では大学入試における総合型選抜のようなシーンでAIによる面接が導入されていると言い、「このトレンドは日本でも起こる」とみているそうだ。高校や大学入試には模試があるのに、就活には存在しないことに着目してリリースした就活共通テストの着眼点もそうだが、「教育の現場と、実際の社会には少しずれている部分も多い」ことから、「学生がリアルタイムで企業との接点を持つ仕組みをつくり、教育の現場と社会を繋げる一助になれたら」と力を込めた。
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近い将来、AIによる面接が当たり前になる世界は大いに想像できる。確かに、AIが人を評価することへのわだかまりや、その評価を信じて良いのかという疑念が全くないわけでもない。しかし、「AIが人を評価する」と考えるのではなく、「AIの力を借りる」と考えたらどうだろう。結果的に、企業はよりじっくりと求職者に向き合う採用活動ができるようになるはずだ。そう考えられる企業が増えれば、AIによる面接は当たり前になるのかもしれないと感じたインタビューだった。