製造業×ゲームで目指す「人にやさしいFUNな工場」

三菱電機は、製造業とゲームを掛け合わせ、自身のアバターを成長させることで各々のスキルを可視化し、工場で働く作業者のモチベーションを向上させるシステム「Fun Factory(FFA、ファンファクトリー)」を開発している。アバターで工場作業者のモチベーション向上とはどういう取り組みなのか、実際にこのプロジェクトのシステム開発に関わっている同社 名古屋製作所 オープンイノベーション推進部の岡根正裕氏にお話を伺った。

これまで工場の現場では作業者の作業の進捗やスキル情報を計測するシステムはあるものの、露骨に数値ででるため生々しく、作業者本人に明確に伝えられることはなかったという。そのため、作業者からすると周りと比べて自分の生産性や達成度がどのくらいなのか分からず、客観的にみたスキルの現状を知ることができない状況だったとのこと。

自分の位置が見えにくいことから作業者のモチベーションが下がってしまう課題があったとのことで、三菱電機のオープンイノベーション推進部では、「人にやさしいFUNな工場」の実現を目指し、作業者がどうすればモチベーションを高く保ち楽しく作業が継続できるか思案を重ねて行ったという。

  • 三菱電機が考えるものづくり業界の将来像

    三菱電機が考えるものづくり業界の将来像 (提供:三菱電機)

そうした中、ものづくり業界に予想される変化として、人の流動性が高く、省人化ニーズが加速するのではないかという将来像と掛け合わせながらアイデアを創出していく過程において、同社が目指すところでもある「FUN」、つまり「楽しく作業ができる」ということと、「スキルの可視化」が重要なポイントだという考えに至ったという。こうした考えを、愛知県に拠点を構える企業と全国のスタートアップとのオープンイノベーションプログラムである「AICHI MATCHING」にて披露。この三菱電機の目指すところに共感したスタートアップのトランスミットと共同でFFAの開発をスタートさせたという。

  • 「人にやさしいFUNな工場」を目指す

    「人にやさしいFUNな工場」を目指すことが、作業者のモチベーションの維持につながるという (提供:三菱電機)

「Fun Factory」の仕組みと今後の展望

FFAは、主に組立作業が行われる現場で利用されることを想定しており、三菱電機の工場自動化(FA)とITの統合ソリューション「e-F@ctory(イーファクトリー)」により、1つの製品を作るのに必要な作業サイクルタイムを自動的に取得後、FFAのシステムに情報を共有する形で作業者にフィードバックがなされる。その際、それぞれの生産性に応じてアバターがレベルアップしていき、武器やコスチュームなどのアイテムを獲得できる仕組みを用意。アバターはスマートフォン(スマホ)上でも見ることができ、獲得したアイテムは自由にドレスアップなどに使うことができるなど、作業者の成長の見える化と報酬付与により、モチベーションの向上を図る仕掛けが組み込まれている。

  • 「Fun Factory」の仕組み

    「Fun Factory」の仕組み (提供:三菱電機)

同社が自社の製造ラインに試験的に導入した後、対象者にアンケートを行った結果ではゲーム要素が作業者のモチベーションを20%向上させたほか、自身の成果が可視化されることでモチベーションを40%向上させたという結果が得られたという。

ただし、現状のシステムではゲーム性や報酬などに課題があるとしており、マーケットにフィットするにはそれらを達成する価値仮説を検証する必要があるともしている。特に、「アイテムの着せ替え要素だけではモチベーションが続かない」とした声もあがっているとのことで、今後は、達成度などに応じたポイント付与、いわゆる「ポイ活」につなげてみたり、社内で使える商品券への交換なども検討していると岡根氏は語る。

「ポイント制にすることで、まだポイントが残っているからもう少し会社に残ろうといったような離職の抑止力にもなるのではないか」と岡根氏は新たな効果が発生することの期待も示し、生産性向上のみならず離職率改善などにも効果があることが検証されれば、製造業人口の減少抑制にもつながることが期待できるようになると、さらなる応用発展に向けた期待も語ってくれた。。

なお、FFAは2025年にも実用化する予定で開発を進めている最中だという。実用化に向けて、他企業の生産現場での試験導入も検討していくとするほか、他社との協業を通じたシステムの改良によって事業化へとつなげていき、ゆくゆくは外販も視野に入れたいとしている。