ポリエステル製の生地に放射線を当てると発光することを発見した、と早稲田大学などの研究グループが発表した。がんの陽子線治療で、体に密着するポリエステル製のシャツを着用して照射位置を正確に確認するなど、応用が期待できるという。

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    ポリエステル製の生地が放射線(実験ではアルファ線や陽子線)で発光することを発見した。がん治療などへの応用に期待がある(早稲田大学提供)

放射線治療はエックス線や電子線、ガンマ線、陽子線などの放射線をがん細胞に照射し、遺伝子に損傷を与えて細胞を壊す治療法。特に陽子線は、狙いのがん細胞にピンポイントで照射できる利点がある。放射線治療は正確な位置への照射が重要で、体を固定するよう工夫されている。精度を高めるため、放射線が当たる体表面の位置をリアルタイムで計測する方法が研究されている。

治療に使うエックス線や電子線は、光より高速で物質を通過して「チェレンコフ光」を発するため、これを画像に捉えて役立てる研究がある。一方、陽子線ではチェレンコフ光をほとんど出さない。水や体の組織が放射線を受けると光を出すが、ごくわずか。放射線で光る「シンチレーター」の従来品は、プラスチックに蛍光物質を混ぜ込んだものなどで一般に硬く、患者の体表面に沿って密着させにくい。

そこで研究グループは、体表面に密着できて利用しやすいシンチレーターを検討。衣類に多用されているポリエステルの生地に、陽子線と同じ粒子線の一種であるアルファ線を照射した。その結果、プラスチックのシンチレーターの10~20%の強度で発光することが分かった。綿では発光しなかったという。さらに、暗い部屋で陽子線をポリエステル生地に照射し、生じた光を0.1秒間隔でリアルタイムの画像として得ることに成功。発光を積算した画像も得られた。

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    マネキンにポリエステル製のTシャツを着せ、陽子線を照射。撮影し、発光の積算画像が得られた(早稲田大学提供)

さまざまな物質に放射線を照射し発光を調べてきた長い経験から、プラスチックなどの有機シンチレーターと化学構造に類似性を持つポリエステルに着目。生地が発光する可能性があると着想し、実験に至ったという。

ポリエステル生地は柔らかく、縫い合わせることで形も自在、しかも低コストだ。患者の体にぴったり合うシャツを使い、目印を付けるなどして、放射線の照射位置の確認などに役立つ可能性がある。従来の多くのシンチレーターと違い柔らかいので、用途の広がりが期待されるという。

研究グループの早稲田大学理工学術院の山本誠一上級研究員・研究院教授(放射線計測学)は「シンチレーターは硬くて変形しないのが常識だった。廉価で柔らかい生地が発光することを発見できたのは、大変な幸運。さらに発光の多い材料の開発が必要だ。陽子線以外にもエックス線や電子線の照射位置のリアルタイム計測にも応用できる可能性があり、実験を進めたい」としている。

研究グループは早稲田大学、兵庫県立粒子線医療センター付属神戸陽子線センター、東北大学、大阪大学で構成。成果は英科学誌「サイエンティフィックリポーツ」に6月12日掲載され、早稲田大学などが7月3日に発表した。研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造推進事業、日本学術振興会科学研究費補助金の支援を受けた。

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