ソラコムは7月17日、同社が2016年から毎年開催しているIoTカンファレンス「SORACOM Discovery」を開催。同カンファレンスは、生成AIの台頭を皮切りとする「テクノロジー環境の変化」に関する想いが込められた「変える、今ここから」をテーマに実施された。

基調講演では「IoTとAIで紡ぐ未来」がテーマとして掲げられ、ソラコムが新たに発表した4つのサービスについて紹介された。

同講演にはソラコム 代表取締役社長の玉川憲氏、同社 最高技術責任者である安川健太氏、同社 上級執行役員 CEO of Japanの齋藤洋徳氏らが登壇した。

  • 基調講演の様子

    基調講演の様子

生成AIとLLMのIoT分野での活用を研究する「IoTxGenAI Lab」

ソラコムは「世界中のヒトとモノをつなげ、共鳴する社会へ」というビジョンを掲げ、「IoTデバイス」「IoTコネクティビティ」「クラウド」という3つのグローバルIoTプラットフォームを展開している企業だ。

「IoTは『遠く離れたものや現場で起こっていることをデジタル化して、ビジネスや社会で活かす』仕組みを指します。一方で、現場のものとクラウドをつなげるには、ネットワークのセキュリティに関する課題や、デバイスの管理、クラウドとのデータ連携といった問題が存在します」(玉川氏)

このような課題を解決して、ソラコムは「ヒトやモノや、それらに付随するイベントが有機的につながり、連携することでより良い世界を実現する未来」を真のIoTビジョンとして設定し、顧客と「データとそこから生まれる知を共有しあう世界」「世界中のヒトとモノが共鳴する社会」の共創を目指しているという。

それに向けて、ソラコムでは生成AIに関する取り組みを進めており、2023年7月には東京大学大学院工学系研究科松尾研究室とビジョンを共有し、AI技術の社会実装に強みを持つ松尾研究所とともに、生成AIとLLM(大規模言語モデル)のIoT分野での活用を研究・推進するチーム「IoTxGenAI Lab」を設立した。

IoTxGenAI Labは、IoT分野において、生成AI、LLMという技術エリアに特化し、顧客ニーズに基づくユースケースの調査や新価値創造への探求を行う組織。生成AI、LLMの技術動向と利用方法を継続的にリサーチし、IoTサービスへ反映することで顧客課題を解決することをミッションとしている。

「IoT x GenAI Labの取り組みを通じて、『デバイスの入出力』『ドメイン知識やデータ』『生成AI』を組み合わせることによって、IoTのビジョンへの近道になるということが分かりました」(安川氏)

  • IoT x GenAI Labの取り組みについて語る安川氏

    IoT x GenAI Labの取り組みについて語る安川氏

この取り組みのほかにも、ソラコムでは社内向けに「ChatGPT活用支援」として、全従業員にChatGPT Proの費用サポートを開始したり、社内FAQを対話形式で情報提供する仕組みを運用開始したり、と社員の業務での生産性向上に生成AIの取り組みも推進している。

ソラコムの4つの新サービス

またソラコムは、今回のSORACOM Discovery 2024において、「planNT1」「SORACOM Flux」「SORACOM Query Intelligence」「Type-F2」という4つの新サービスを紹介した。

Skyloの衛星通信サービスを追加できるサブスク「planNT1」

「planNT1」は、IoTプラットフォームSORACOMのデータ通信サービス「SORACOM Air」において、Skyloの衛星通信サービスを追加できる新たなサブスクリプション。

ソラコムとSkyloは2023年7月に協業を発表し、IoTプラットフォームSORACOMにSkyloが提供するNB-IoTを用いたIoT向け衛星通信ネットワーク(NTN: Non-Terrestrial Network、非地上系ネットワーク)を統合し、シームレスに利用できるように開発を進めてきた。

齋藤氏は、同サービスについて「通信できる国の数は着実に増えてきている」と説明した上で、海上を航行する船や荒野、砂漠といった人が住んでいない場所を走るトラックを追跡するなど、セルラー回線のエリア外におけるIoTを求める声があったという。

この声を受けて、北米・ヨーロッパ・オセアニアの地域において、衛星通信サービスが利用できるサブスクリプションであるplanNT1を利用できるようになったという。これにより、顧客はセルラー通信がカバーできないエリアも、衛星通信サービスを併用してIoTシステムを活用できるようになるという。

例えば、砂漠や森林、広大な農地、僻地の鉱物採掘場やプラントなどセルラー通信のカバレッジがないエリアや、ガスや電気、鉄道や道路といったインフラの状態管理、グローバル輸送におけるコンテナの追跡をはじめ国や地域をまたがる用途での活用が想定されており、齋藤氏は「今回の取り組みであらゆる場所をつなぐことができるようになる」と自信を見せていた。

生成AIを活用したIoTアプリをローコードで開発「SORACOM Flux」

「SORACOM Flux」は、デバイスから送信されたデータ、画像や外部データを元に、生成AIによる分析・意思決定を含むアクションを組み合わせたIoTアプリケーションをローコードで開発できるサービス。

同サービスは、センサやカメラなどのデバイスから数値データや画像が送信されるイベントに対して、ルールを適用し、複数のデータソースや生成AIを組み合わせてデータの分析や判断、通知ツールなどの外部アプリケーションへの連携を実行するもの。

同サービスの利用で、デバイスからクラウドにデータを連携し、クラウドからデバイスを制御するような仕組みをローコードで開発できるという。

  • 構成イメージ

    構成イメージ

例えば、工場や倉庫に既設の監視カメラを活用して異常検知を行う仕組みであれば、カメラの画像を生成AIサービスを使って解析。その上で異常を検知した場合に現地にある警報灯を鳴らす、といった連携制御を行うアプリケーションをユーザーコンソール上の操作で構築できる。

検知すべき内容や結果の出力は、生成AIに渡すプロンプトとして自然言語で記述できる。ビジネスのノウハウや現場の知識を踏まえたアプリケーションの構築も、ソフトウェア開発の専門知識がなくとも実現可能となっている。

対応する生成AIサービスは、OpenAI GPT-4o、Azure OpenAI、Amazon BedRock、Google Geminiなどの主要サービスから選択でき、これらの高度な汎用モデルの活用で、特定のユースケースに特化した機械学習モデルの構築や学習などを行うことなく、AIを活用したIoTアプリケーションを速やかに構築できるという。

SORACOMのアカウントを持つユーザーは、Freeプランを無料で利用できる。アプリ数やイベント数に制限のないProプランとEnterpriseプランは今秋提供される予定とのこと。

自然言語でプラットフォーム利用状況を分析する「SORACOM Query Intelligence」

「SORACOM Query」は、2023年7月に発表したIoTデータの分析を支援する分析基盤サービスで、顧客のデータを保存し、複雑なクエリを含む解析を可能にする分析基盤を構築・運用することなく、大量のデータを効率的に扱うことができるもの。

今回、SORACOM Queryで、SIMの通信状況(セッション)の履歴、データ通信量、課金情報など、SORACOMのプラットフォームデータをデータベースに読み込めるようになることが発表された。これに加え、SORACOMのプラットフォームデータに対して、自然言語で質問し、その結果をテキストや図表で受け取ることができる「SORACOM Query Intelligence」も同時に発表されている。

たとえば、大量のデバイスを管理しているユーザーが、接続/切断の頻度が高いSIMを一覧表示させたり、特定のキャリアに接続した履歴を地図上に表示させたりすることで、トラブルの原因の特定やキャリアの組み合わせが必要なエリアの特定などを進めることができるようになる。

  • 画像イメージ

    画像イメージ

このようにIoTシステム管理者の分析やトラブルシューティング業務をサポートするという。

IoTネットワークとパブリッククラウドを安全に閉域接続する「Type-F2」

「Type-F2」は、IoTプラットフォームSORACOMにおいて、デバイスとクラウド・顧客のシステム間の閉域網での安全なネットワーク接続を実現する新型VPG(Virtual Private Gateway:SORACOM プラットフォーム上の顧客専用のネットワークゲートウェイ)のこと。

新型のVPGであるType-F2は、デバイスとクラウド間の双方向通信に最適化した閉域網サービスで、ネットワークアドレス変換(NAT)やゲートウェイなしで、IPベースの双方向通信を実現する。

これまでのVPGサービスでは、AWSやユーザーのネットワークに専用の機器を設置する必要などがあったが、同サービスでは、複雑な設定は不要となっている。ブラウザ上の操作のみで、短期間でAWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platformなどのパブリッククラウドや、顧客のシステムをつなぐ閉域網の構築が可能だ。

加えて、信頼性が求められるエンタープライズシステムでのニーズが高いBGP(Border Gateway Protocol)での動的ルーティングのサポートに加え、Type-F2では新たに静的ルーティングも設定できる。

また、Type-F2は、これまで別の料金体系だった閉域網接続について、AWS Transit Gatewayでの接続、VPN接続、専用線接続のうちいずれか1接続分を基本使用料に含んでおり、シンプルな料金設定となっているという特徴も兼ね備えているという。