フィンランド通信大手Nokiaの日本法人であるノキアソリューションズ&ネットワークス(ノキア)は7月11日、東京都内で「Nokia Amplify Japan」を開催し、3月にスペインで開催されたモバイル関連の総合展示会「MWC2024」で発表した最新技術をデモで公開するとともに、「6G(第6世代移動通信システム)」に向けての同社の取り組みや考えなどについて説明した。

  • 「Nokia Amplify Japan」に登壇した技術戦略本部長 ストラテジー&テクノロジー 高岡春生氏

    「Nokia Amplify Japan」に登壇した技術戦略本部長 ストラテジー&テクノロジー 高岡春生氏

6Gが実現する世界とは?

2030年の実用化をめどに開発が進められている6Gは「Beyond 5G」とも呼ばれ、現在普及が進んでいる5Gの性能をさらに進化させた次世代の移動通信システムのことを指す。

音声の周波数の強弱を利用して情報を伝送していた1G、音声を数字のデータに変換して伝送していた2G、撮影した画像をメールに添付して送信できるようになった3G、通信速度が向上し、大容量の画像や動画コンテンツでも快適に閲覧できるようになった4G、そして4Gのおよそ20倍の高速通信を可能にした5Gと、通信の技術は急速に進化し続けてきた。

  • 6Gの時代では人間、フィジカルそしてデジタルの世界がシームレスに統合されるという

    6Gの時代では人間、フィジカルそしてデジタルの世界がシームレスに統合されるという

そして5Gからさらに進化した6Gでは、100Gbps以上のスピードでデータの伝送が行えるようになり、宇宙空間からの衛星通信にも実装されるといわれている。また手術用ロボットの遠隔操作などの用途で利用が進むとされている。

ノキア 技術戦略本部長 ストラテジー&テクノロジーの高岡春生氏は「6Gの時代では人間とフィジカル、そしてデジタルの世界がシームレスに統合され、人間の可能性が広がる」と説明した。

デジタルツインによって物理的な世界をデジタル世界内で複製してシミュレートや自動化したり、VR(仮想現実)技術によって人間がデジタル世界に没入したりするとことが6Gの時代では当たり前のようにできるようになると高岡氏は予測する。

  • 6G時代はデジタル・物理的世界の融合と人間拡張で定義されるという

    6G時代はデジタル・物理的世界の融合と人間拡張で定義されるという

6Gが重要視される理由

なぜ、6Gは重要視されているのだろうか。高岡氏は5G時代が抱えるいくつかの課題を紹介した。

課題の1つは、5G導入の拡大に伴い、より高いネットワークパフォーマンスが求められるようになっていることだ。

人との接触が制限された新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大は、テレワークやオンライン通話などのICTインフラの活用を加速させた。ネットワーク通信量は増加しており、通信関連の業界団体「GSMA」の最新レポートによると、2030年時点のデータトラフィックは、現在と比較して4倍以上、1デバイスあたりの月間使用量は50GBを超えるだろうと予想されている。

「現状の予測でこのレベル。新しいデバイスやアプリケーションが次々に出てきている状況を踏まえると、GSMAの予測以上に伸びていく可能性は十分にある」(高岡氏)

  • 5G導入の拡大に伴いより高いネットワークパフォーマンスが求められるようになる

    5G導入の拡大に伴いより高いネットワークパフォーマンスが求められるようになる

もう1つの課題は、デバイスエコシステムの拡大で、ネットワークに与える影響が大きくなっていることだ。VRゴーグルやドローン、IoTデバイスといった特殊なデバイスは今後さらに増えるとともに、AIやクラウドといった新たな技術の採用が進むことで、ネットワークに及ぼす影響も大きくなる。

米調査会社のABI Researchは、AIは2030年までにさまざまな分野で約4500億ドルの価値をもたらすと予測しており、アクセンチュアは企業の86%がクラウドへの取り組みが増加していると報告している。

「新たな技術により、ネットワークにどれだけの影響が出るのかということについては詳しくは見えていないが、現状の5Gのネットワークでは対応しきれなくなるのは間違いないだろう。6Gでなければ世の中の変化に対応していけない」と高岡氏は説明した。

  • デバイスエコシステムの拡大や新たな技術の採用がネットワークに影響を及ぼしている

    デバイスエコシステムの拡大や新たな技術の採用がネットワークに影響を及ぼしている

6G実現に向けたシナリオと課題

また高岡氏は、6Gの世界に至るまでには、5Gをベースに段階的に成長していくものだと説明した。

「6Gは5Gの成功を基に、より効率的、経済的、拡張可能、持続可能な方法で実現していくことが重要。例えば、Massive MIMO(Multi Input Multi Output)を応用することでカバレッジとキャパシティを確保することや、高い電力効率のフレームワークに向けた取り組み、非地上系ネットワーク(NTN)などが6Gの初期段階で実現できる技術だろう」(高岡氏)

一方、6Gで利用できる周波数帯について、全世界で使える周波数が確保しづらいのが現状だと同氏は指摘する。例えば、日本では6GHz帯の利用が想定されているが、Wi-Fiとの干渉問題があり、「全世界で使える周波数がなく、課題が多い。6Gの成功は世界規模の統一されたアプローチにかかっている」(高岡氏)

  • 6Gで利用できる周波数帯について、全世界で使える周波数が確保しづらいのが現状

    6Gで利用できる周波数帯について、全世界で使える周波数が確保しづらいのが現状

ノキアは世界中の官民パートナーシップへ積極的に参加している。欧州(6G-IA)および北米(Next G Alliance)のエコシステム構築に向けた取り組みでリーダーシップの地位を占めているといい、インド、韓国、日本でも積極的に活動しているとのこと。

加えて、テキサス大学やオウル大学、東京大学など世界中の主要な学術機関や研究機関と連携し、6Gの実現に向けた取り組みを進めている。2023年10月にはインドのバンガロールにあるグローバルR&Dセンターに6Gラボを設立した。

「6Gは通信の未来を形作る上で不可欠で、進化的かつ革命的な技術である。ノキアは6Gの実現への道をこれからもリードしていく」(高岡氏)