日本オラクルは7月9日、新年度事業戦略説明会を開催した。取締役 執行役 社長の三澤智光氏は、米オラクルの業績について、「2024年度の売上が530億ドルだったのに対し、前年度第4四半期の受注残は980億ドルと、高く評価されている。この受注残はクラウドによるものと聞いており、当社のクラウド事業の勢いを感じてもらえるだろう」と、その好調ぶりをアピールした。

  • 日本オラクル 取締役 執行役 社長 三澤智光氏

ちなみに、米国本社と同様、日本オラクルの業績も好調であり、2024年度の売上高は前年比7.8%増、営業利益は同7.3%増、経常利益同7.5%増と、通期で過去最高を達成したという。「米オラクル以上の成長を遂げた」と三澤氏は語っていた。

米オラクルは今年4月、今後10年間で日本に対し1.2兆円以上の投資を行うと発表した。その時、ちょうど米オラクル CEO サフラ・キャッツ氏が来日していたことから、同氏の口から投資に関する説明が行われた。

三澤氏は、この投資の状況について、次のように説明した。

「東西のデータセンターの拡張を完了し、相当数のNVIDIAのGPUを設置する予定であり、当社は今年の夏過ぎに日本有数のGPUを持つベンダーになる。日本でもサポートとオペレーションのクオリティを上げる必要があるため、日本の人材を積極的に採用している。ソブリンクラウドについても 日本で24時間×365日対応が必要となると考え、準備している」

2025年度も2024年度の重点施策を踏襲

三澤氏は昨年、2024年度の重点施策として、「日本のためのクラウドを提供」「お客様のためのAIを推進」を発表した。三澤氏は「前年度の目標はそれなりにいい成果を出せたが、根付かせるには時間が必要。今年度も同じ目標年、本格的に取り組む」と説明した。

日本のためのクラウドを提供

「日本のためのクラウドを提供」の実現に向けては、以下の4つの施策に取り組む。

  • レガシーモダナイゼーションによる基幹システムのレジリエンス向上
  • お客様、パートナー様向けのクラウドを提供
  • ガバメントクラウド移行のさらなる推進
  • クラウドネイティブSaaSの普及による経営基盤の強化

上記の施策のうち、三澤氏が特に時間を割いて説明したのが、「レガシーモダナイゼーションによる基幹システムのレジリエンス向上」についてだ。

レガシーモダナイゼーションによる基幹システムのレジリエンス向上

三澤氏は、今年6月に閣議で「レガシーシステム脱却・システムモダン化協議会(仮称)」の新設が決定したことを引き合いに出し、改めて国を挙げて「2025年の崖」に取り組む姿勢を見せていることを紹介した。

あわせて、サイバーセキュリティ、地政学のリスク、自然災害の観点から、企業は事業継続性を高めることが必須となっているという。三澤氏は、「レジリエンスにおける最大の課題はセキュリティへの対応だが、ほとんどの脅威は事前の防御が可能」と述べた。

三澤氏は、大規模な基幹システムを同社のクラウドプラットフォーム「Oracle Cloud Infrastructure 」によって刷新した顧客として、日立建機を紹介した。

同社はVMwareによる仮想化環境上の約500のアプリケーションサーバと約100のデータベースを「Oracle Cloud VMware Solutions」と「Oracle Exadata Cloud Service」に移行した。

三澤氏は日立建機のプロジェクトについて「われわれはいい仕事ができた」と述べ、成功のポイントとして、テストにおいてクラウドのメリットを最大限生かせたことを挙げた。

「通常、オンプレミスからオンプレミスの移行においては、テストに時間とコストがかかる。しかし、クラウドならオンデマンドで環境を構築し、何度もテストをしてリスクを抑えられる。これまでのオンプレからオンプレへの移行では考えられなかったクオリティのテスト環境を実現できた」

また、三澤氏は「クラウドへの移行により、日本の基幹システムの“塩漬け問題”からも解放され、インフラ更改という概念がなくせる。インフラのインテグレーションというビジネスが縮小され、最後はなくなるだろう。クラウド移行により、これだけのメリットが出ることに顧客が気づいてしまった。こうした動きはIT業界を変えるだろう」と、基幹システムのクラウド移行がもたらすインパクトを語った。

さらにここでさらに注目すべきは、VMware環境のクラウド移行だ。先般のBroadcomがVMwareを買収したことで、永久ライセンスの販売終了が発表され、市場は混乱している。

三澤氏は、「Oracle Cloud VMware Solutionsは、オンプレミスのVMware環境をそのままクラウドに移行し、オンプレミスと同じ運用が可能。価格も複数年にわたり固定。他のハイパースケーラーのソリューションとの違いは管理者権限をユーザーが持てること。メンテナンスウィンドウをユーザーとパートナーがコントロールできるので、基幹システムと相性がよいことをわかってもらえる」と述べ、同社のVMwareソリューションのアドバンテージを示した。

「脱VMwareという話が出ているが、基幹システムで利用されているVMware製品から脱却することは簡単なことではない。これまで脱オラクルという話もあったが 多くの顧客がオラクルを使い続けている。われわれは続VMwareを支援する」と、三澤氏はVMwareユーザーを支援する姿勢を明らかにした。

お客様のためのAIを推進

一方、「お客様のためのAIを推進」の実現に向けては、以下3点に取り組む。

  • 圧倒的なGPU環境を日本のAIに提供
  • エンタープライズ向け生成AIソリューションの展開
  • SaaSに組み込まれたAI活用を推進

GPU環境

同社は、NVIDIAのH100 Tensor コア GPUを1万6384まで拡張可能であり、NVIDIA B200 TensorCore GPUは6万5536まで拡張可能の予定としている。三澤氏は、「GPUを提供している企業は多いが、GPUにより1万、2万の巨大なクラスタを組める企業はマイクロソフトとオラクルしかいない」と述べた。

さらに、三澤氏は、同社がマイクロソフトに対するアドバンテージを持っていることを示した。「巨大なクラスタを組むとき、マイクロソフトはInfiniBandを使うが、われわれはEthernetで組める技術を持っている。そのため、われわれのGPUクラスタはコストが安く、多くの生成AI企業に選ばれている」と語った。

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エンタープライズ向け生成AIソリューションの展開

三澤氏は、企業が生成AIを活用するにあたっては、「生成AIがあればいいという話ではない。顧客が持っている固有のデータを活用するためにRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)を作る必要がある」と述べた。

こうした企業が生成AIを活用する上での課題を解決するため、同社は、あらゆるデータを一つのデータベースで管理するマルチモーダルプラットフォーム「Oracle Database 23ai AI Vector Search」を提供している

「AI Vector Search」により、特定の単語、ピクセル、データ値ではなく、概念的内容に基づいてドキュメント、画像、リレーショナル・データを検索することができる。

三澤氏は「生成AIのエンジンが使われるようになると、パフォーマンスの問題が出てくる。すでに多くの企業がRAGのパフォーマンスの問題に直面しているが、オラクルはRAGのパフォーマンスの課題に応えられる」と語った。

  • オラクルが提供している生成AIソリューションの例