日本初の月面着陸を果たした実証機「スリム」について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は「今後通信できる可能性は低い」とし、活動を終了したとの見方を明らかにした。今年1月に着陸後、機体の太陽電池で発電できない夜に3回耐えるなどして、4度もの復活を繰り返してきた。既に目的としていた観測は終えている。

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    着陸直前に分離した小型ロボットが撮影したスリム。姿勢が計画から外れて転倒し、太陽電池を上でなく西(右)に向けて静止した。中央部の横線はノイズ(JAXA、タカラトミー、ソニーグループ、同志社大学提供)

JAXAによると、スリムの着陸地点の夜が明け、十分な電力が発生しているはずの6月21日夜から27日朝にかけて通信を試みたが、応答が確認できなかった。5月中旬頃に発生した太陽表面の大規模な爆発現象「太陽フレア」によって、搭載したプログラムが書き換わった可能性も考慮。正しいプログラムを送るなどして通信の確立に努めたものの、実らなかった。スリムチームが27日、X(旧ツイッター)への投稿や公式サイトで明らかにした。

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    スリム搭載のカメラで3月末に撮影した月面の様子(JAXA提供)

スリムは1月20日に低緯度の平原「神酒(みき)の海」に着陸。主エンジン1基が異常停止し、計画通りの着陸ができず間もなく休止したものの、日照の向きが変わって発電できるようになり、同28日に最初の復活を果たした。その後、夜を迎える度に活動を休止し、2月25日と3月27日、4月23日に復活。5月下旬にも通信を試みたが、応答がなかった。さらに夜をまたぎ今回、再び復活を試みた。今後の予定は未定だが、復活の可能性は低いと判断。スリムチームは公式サイトの運用状況報告を「ここまでの応援、ありがとうございました」と結んだ。

日本はスリムにより、旧ソ連、米国、中国、インドに続く月面着陸国となった。当初目標から約55メートルずれた場所に着陸し、100メートル級の誤差を目指した世界初の「ピンポイント着陸」を達成したほか、分光カメラでの科学観測、上空で分離した小型ロボットの活動にも成功した。搭載機器類はもともと、月面の夜の零下170度に及ぶ寒さに耐える設計になっていない。目標としていた観測などは1月末までに終えており、「今回の状況がスリムの成果に悪影響を与えることはない」としている。

月は地球から38万キロという至近にあり、観測や探査が繰り返されてきたが、起源や歴史に謎が残されている。今後はスリムの取得したデータの解析が進む。

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    月面に向かうスリムの想像図(JAXA提供)

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