ガートナー ジャパンは6月18日~19日、年次カンファレンス「ガートナー アプリケーション・イノベーション & ビジネス・ソリューション サミット 2024」を開催した。本稿では、「日清食品グループが推進する”デジタル・リスキリング”全社戦略」の内容をレポートする。
登壇者は、日清食品ホールディングス 執行役員 CIO グループ情報責任者の成田敏博氏と、同 データサイエンス室の粟野志穂氏。
“デジタルを武装”するため、デジタル・リスキリングを推進
講演の冒頭、成田氏は日清食品グループが約3カ月前から、デジタル・リスキリングの全社的な強化を図っていることを説明した。そこには非IT企業ではあるものの、今後の成長にデジタルが欠かせないという考えがあるという。
「食品メーカーもデジタルを最大限活用しなければグローバルカンパニーとして生きていけないと考えています」(成田氏)
この考えから生まれたのが、2018年に全社員に向けて打ち出したメッセージ「DIGITIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」である。同メッセージの下、2019年を「脱・紙文化元年」とし、2020年に「エブリデイテレワーク」を、2023年に「ルーチンワークの50%減」を、2025年には「完全無人ラインの成立」を目標として掲げた。
このように変革のカルチャーを持つ日清食品グループだが、デジタル・リスキリングの取り組みについては、断片的なデジタル教育にとどまり、横断的、包括的ではなかったと成田氏は振り返る。
そこで2024年4月、「NISSIN DIGITAL ACADEMY」を立ち上げた。併せて、メッセージに「自己研鑽なき者に未来はない」という言葉を加えると共に、デジタルリテラシー、アプリ活用、システム開発、生成AI、デザイン思考など、7つの強化領域を設定した。
7つの強化領域は、NISSIN DIGITAL ACADEMYの講座の軸にもなっている。それぞれの領域で基礎、初級、中級、上級を設け、2024年度中に38の講座を展開する予定だ。成田氏は「アカデミーの最大の特長は迅速なフィードバックサイクル」だと話す。現段階で正解が見えていないプロジェクトのため、毎四半期を目途に見直しを実施し、改廃もいとわない構えだ。
「我々としての答えを探していく進め方をしています」(成田氏)
一方で、成田氏のチーム内からは「講座を開催しても、応募がないのでは」という懸念もあったという。ところが、2023年2月から先行して講座をいくつか始めたところ、募集人数に対して7倍程度の応募があった講座もあり、「懸念は全くの杞憂であった」(成田氏)そうだ。
リスキリング講座の講師は新卒社員が担当
NISSIN DIGITAL ACADEMYで30名の募集に対し、214名が応募し、ニーズの高さをうかがわせたのがIT部門以外の人を対象にした講座「Pythonで学ぶ初めてのデータ分析」である。この講座で講師を務めるのが、2023年の新卒入社メンバーの粟野氏だ。
粟野氏は講座受講のゴールを、プログラムが書けるようになることではなく、Pythonが業務で使えそうというイメージや感覚を持ってもらうことに設定している。講座では社内の分析事例を紹介し、自部署で具体的に使用するイメージに落とし込めるよう、工夫しているそうだ。
また、講座では「知る、行動する、調べるという3つを意識してくださいと伝えている」と言う。実際、粟野氏自身がPythonを使用する上での疑問点を「NISSIN AI-Chat」で調べる様子を受講者に見せ、「Pythonを学ぶ際のヒントやきっかけが得られるようにしている」と話した。
今後を見据えた、インキュベーション機能とは
後半、再び登壇した成田氏は、日清食品グループが取り組む「デジタル人材のインキュベーション機能」について説明を行った。インキュベーションとは、卵を温めて孵化させることを指す。日清食品ホールディングスでは昨年、15年ぶりに情シス部門での新卒採用を行った。そのうちの1人が、先ほど登壇した粟野氏である。成田氏は新卒採用を行った意図を次のように語る。
「我々は、2000年以降に生まれたデジタルネイティブ世代に着目しています。新卒社員をIT部門で3年間育てた後、各事業部門に配属し活躍してもらうことで、会社全体のITの底上げにつながる、インキュベーション機能をIT部門内に持たせる取り組みです」(成田氏)
この背景には、中途採用市場でのデジタル人材の獲得が難しくなっているという事情もある。もちろん中途採用も継続するものの、今後6名ずつ新卒を獲得する計画だ。デジタル・リスキリングで個々人の、インキュベーション機能で組織全体のデジタルリテラシー向上を図りたいのだという。
「(これらの取り組みは)一朝一夕で成果が出るものではありません。早くて5年、あるいは10年と時間がかかる取り組みであり、だからこそ早く始めるべき、今始めるべきだと考えました」(成田氏)
最後に成田氏は、「『デジタルを武装せよ』をキーメッセージとして、これまで以上にデジタルを武器にしていくための取り組みを進めていく」と語り、講演を結んだ。