愛媛大学、国立天文台(NAOJ)、東京大学(東大)の3者は6月18日、NAOJのすばる望遠鏡の観測により、「宇宙の夜明け」の時代において、地球からの距離が最遠記録となる129億光年の彼方に合体が進行中の2つのクェーサーを初めて発見したと発表した。
同成果は、愛媛大 宇宙進化研究センターの松岡良樹准教授、東大大学院 理学系研究科 天文学教育研究センターの河野孝太郎教授、同・理学系研究科 天文学専攻の柏川伸成教授、東大 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構の尾上匡房特任研究員、同・ジョン・シルバーマン教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
宇宙が始まっておよそ1万分の1秒が経ったころ、対消滅を生き残ったクォークが集まって陽子や中性子が誕生したが、あまりにも高温のため、しばらくは陽子(水素原子核)やヘリウム原子核などは電子を捉えることができず、宇宙はプラズマ状態だった。そしておよそ38万年が過ぎて宇宙が十分に冷えると、陽子やヘリウム原子核が電子を捉え、「宇宙の晴れ上がり」イベントが発生し、光が直進できるようになる。しかし、星がまだ1つも存在しないことから、それは「暗黒時代」の始まりでもあった。
その後、1~2億年ほどの時間が経ったころ、水素やヘリウム(極めてわずかだがリチウムも存在したとされる)が集まって宇宙で第一世代の星(ファーストスター)が輝き出し、またそれらが集まって最初の銀河が形成されていった。これにより宇宙は光で照らされるようになり、暗黒時代は終わり、「宇宙の夜明け」が訪れたのである。そして、ファーストスターは強い紫外光によって宇宙を漂っていた大量の水素から電子をはぎ取るプラズマ化、つまり「宇宙の再電離」を進行させ、今では宇宙を漂う水素ガスの大半はプラズマ化している。
この宇宙の夜明けと呼ばれる初期の時代は、現在の銀河や銀河団による宇宙の大規模構造の形成にもつながる重要な時期と目されている。現在、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の活躍により、観測史上最も古いとされる銀河の記録が更新されており、134~135億年前のものが確認されている。つまり、この宇宙が誕生してから3~4億年のころは宇宙の夜明けの時代に含まれる。
ファーストスターが仮に宇宙の始まりから1億年後に誕生したのだとすると、現在確認されているそうした最古の銀河は2~3億年で形成されたことになる。そして、その中心にある超大質量ブラックホール(SMBH)も、それだけの期間で進化・成長してきたことになるが、銀河とSMBHの進化・成長はまだ謎が多い。また宇宙の再電離に対し、銀河やSMBHの進化はどのような影響を与えたのかということもよくわかっていない。
そうした中、研究チームは10年以上の時間をかけ、超遠方宇宙に存在するクェーサーの探索を行ってきた。クェーサーとは、銀河中心のSMBHが周囲の物質を活発に飲み込んでおり、非常に明るく輝いている中心核を持つ銀河のことをいう(銀河全体よりも中心核の方が明るい)。すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」による大規模な撮像探査「HSC-SSP」により、これまで約200個の超遠方クェーサーが発見済みだ。しかし、研究チーム以外による観測を含めても、これまでにペアになっているクェーサーは確認されたことがなかったという。
そうした中、今回の研究における、すばる望遠鏡で撮影されたクェーサー候補の画像をスクリーニング(目視による見直し)作業の際に、とても赤く、似通っている2つの天体が隣り合っているのが偶然発見された。そのペアが本当にクェーサーなのかどうかを確認するため、次にすばる望遠鏡の分光器「FOCAS」と、すばる望遠鏡と同じハワイ・マウナケア山頂にあるジェミニ北望遠鏡の赤外線分光器「GNIRS」を用いた追観測が行われた。
FOCASで検出された「水素ライマンα輝線」から、2つの天体が129億光年先(赤方偏移z=6.05)にあるクェーサーであることが判明。また、2つのクェーサーの本体であるSMBHがほぼ同じ質量をもつ「双子」であることも確かめられた。さらに、2つのクェーサーをつなぐガスの構造も検出されたことにより、両者の合体が起こっていることが推測されたとする。また、アルマ望遠鏡による追観測も行われ、周囲のガスが非常に興味深い構造をしていることも突き止められたという。
今回の研究成果は、衝突と合体を繰り返しながら成長する銀河の中で、SMBHがどのように進化するのかを知るための重要な発見としている。