サイボウズは6月11日、 プライベートイベント「クラウドガーデン in 大阪」を大阪市内で開催した。クラウドガーデンは、kintoneをはじめとするさまざまなクラウドサービスについて直接相談できる展示ブースと、DX(デジタルトランスフォーメーション)の事例やトレンドが聞けるセッションを用意したイベントだ。

同イベントにおいて、京セラ DX推進部の木下順氏が、事業部内の2割をDX人財にするという高い目標を掲げて取り組んだ、独自性の高い人財育成について講演したので、その模様をお届けしよう。

  • 京セラ 機械工具事業本部 DX推進部 DX推進課 責任者 木下順氏

    京セラ 機械工具事業本部 DX推進部 DX推進課 責任者 木下順氏

なぜ、DX人財の育成に取り組んだのか?

木下氏は現在、DX戦略の作成、DXシステムの構築・導入およびDX人財の育成を行っている。同氏が、DX人財の育成に取り組んだきっかけは、「2025年のDXの崖」だったという。

ご存じの方も多いだろうが、「2025年のDXの崖」とは経済産業省DXレポートで言及した問題で、国内の企業がDXを推進しなければ、2025年以降、年間で現在の約3倍、約12兆円の経済損失が発生すると予測されている。

木下氏は、2025年のDXの崖の正体はレガシーシステムであり、その崖を越えるために、SIerに委託するか、業務を熟知している現場で対応するかを自問自答した結果、現場で解決することを選択したという。その一環として、DX人財の育成を行うことになった。

その理由は、SIerに委託したら当面の対処はできるが、新しいレガシーシステムを生むのではないかという懸念があったためとのこと。また、現場のITリテラシーが低い一方で、ITなしでの業務改善に行き詰まっていたため、現場発のDXを遂行することが既成概念の壁を越えるための最良の方法と考えたこともあるという。

エバンジェリストを育てることからスタート

機械工具事業本部におけるDX人財の育成は、2023年1月から12月まで、1年をかけて行われた。会社に対しては、事業部全体の20%を2年間でDX人財とすることをコミットした。

木下氏が短期間でDX人財を大量に育成するためにとった手法は、以下の4つだった。

  • DXエバンジェリストを育成する
  • 現場が求める、誰でも使えるデジタルツールを選択する
  • DXエバンジェリストにデジタルツールの徹底した教育を行う
  • DXエバンジェリストによるDXエンジニア育成の社内教育および作成したツールの横展開を図る
  • 京セラのDX人財育成の概要(出典:京セラ)

    京セラのDX人財育成の概要(出典:京セラ)

DXエバンジェリストは事業部内で公募した。1年間はDX推進部でDX活動に専念し、1年後に元の職場に戻ることを条件とし、システム構築経験は不問とした。

「一番重要なのは、1年間はDX推進部でDX活動に専念することだと思っています。優秀な人財は仕事がプロジェクト化され、任されがちです。ただこうした場合、現場の業務が忙しすぎて、その人の仕事がなかなかはかどらないことがあります。そういった意味で、私の組織で徹底的にDXに取り組んでもらったところが、大きなポイントだと思っています」(木下氏)

そして、育ったエバンジェリストを講師にして、戻った組織でデジタルツールの教育を行い、さらなるDXエバンジェリストやDX人財の育成を行うという計画だ。

木下氏は、DX人財育成で重要なことは、現場が求める、誰でもアプリを作れるツールを選択することだと指摘した。また、そのツールの利用料が安価で、すぐに利用開始できることもポイントだという。これらのニーズを満たすには、クラウドサービスやSaaSを使うことがカギとなる。さらに、社内のシステムとの連携や拡張性を求める必要があるという。

「いろいろなツールを購入する人がいます。その場合、各ツールがつながっていないので、管理者を別々に立てないといけない。これは、将来、またレガシーシステムを生むことになります。そういうことがないように、ツールを選んでいく必要があるでしょう」(木下氏)

こうしたコンセプトの下、同社が選んだツールはkintone、WinActor(RPA)、ASTERIA Warp(ETL:データの抽出(Extraction)、加工(Transformation)、ロード(Loading))、Unifinityなどだった。

  • 選択したDXツールと育成したDX人財(出典:京セラ)

    選択したDXツールと育成したDX人財(出典:京セラ)