新興食中毒の原因となる大腸菌「E.アルバーティー」を約2時間で迅速に検出する手法を大阪公立大学などの研究グループが確立した。菌の培養に適した専用の寒天培地も作った。同菌は1991年にバングラデシュで見つかり、日本でも集団食中毒の感染報告がある。強力な毒素を産生するが、これまで他の腸管出血性大腸菌と誤認されていた可能性があった。今回の手法を用いることで、早期に投薬して患者の命を救うことが期待できるという。

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    今回確立した検出手法。菌の数は10個あれば良く、約2時間で特定が可能になった(大阪公立大学提供)

E.アルバーティーは日本では2003年に初めて感染が報告された。鳥の大量死の原因ともされ、ヒトと動物が共通して感染する「人獣共通感染症」であるという脅威に加え、ヒトの腸内で「志賀毒素」と呼ばれる強い毒素を出すため、小児や高齢者では命に関わる。

2016年には陸上自衛隊東富士演習場(静岡県)で10~50代の154人が野営訓練中の食事により感染し、うち48人が入院するなど、比較的体力があると考えられる成人でも発症のリスクがある。感染すると吐き気や水のような下痢を起こし、たまに血便が出る。ホスホマイシン系の抗生物質を投薬すると治療可能だ。

同菌の他に志賀毒素を出す大腸菌には、例えば腸管出血性大腸菌のO-157がある。食中毒の原因物質の特定や、大腸菌類の分離や同定には時間がかかるため、患者が病院に行くと、E.アルバーティーという確定を待たずに食中毒として治療が始まる。迅速に同菌だと分かれば、効かない抗生物質などをむやみに投薬せずに済む。

大阪公立大学大学院獣医学研究科の山﨑伸二教授(細菌学・感染症学)らは、水島中央病院(岡山県倉敷市)小児科の協力を得て、週に一度、約20年間にわたり子どもの水様便の検体を送ってもらい、E.アルバーティーの検出手法の確立に取り組んだ。従来のPCR法では電気泳動を使うため、菌数がある一定の数なければ検出できず、時間もかかるという欠点があり、適切な投薬開始が遅れる問題があった。

そこで山﨑教授は、まずE.アルバーティーが乳糖の一部を分解して酸を出す特徴に着目し、同菌と他の大腸菌を見分けられる寒天培地を作った。その一方でPCR法に改良を重ね、電気泳動ではなく蛍光物質によって「見える化」するリアルタイムPCR法を確立した。寒天培地による培養と新PCR法を組み合わせ、約2時間で特定が可能になった。さらに、新PCR法では菌の数が10個でも検出できる高感度になったという。

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    E.アルバーティー(薄い色)と他の大腸菌(濃い色)を見分けられる寒天培地(大阪公立大学提供)

水島中央病院の外来患者に協力を仰ぎ、症状が消えたあとでも新PCR法で追跡調査のための検便を行ったところ、症状がなくなった発症35日後でも菌を検出できた。つまり、症状が治まった後でも他の患者にうつす可能性が否定できないことが分かった。山﨑教授は「今回の手法を応用すれば、不顕性(保菌しているが発症していない)の患者を検出するのにも役立つ」と語る。

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    約4週間排菌した患者のコロニー性状と新PCR法によるE.アルバーティーの検出状況。通常のPCRでは陰性だった35日後でも検出できていることが分かる(大阪公立大学提供)

今回は有症状の患者の便中の菌検出法について研究したが、今後は不顕性の患者の検出法について検討すると共に、食中毒の原因となる物質を特定できるような食品別の寒天培地の開発を続けたいという。

山﨑教授は「食品には多種多様な菌が付着しているため、食中毒の原因菌を特定するのは非常に難しい。肉用、野菜用、魚用といった食品分類ごとの培地を作りたい。E.アルバーティーの過去の集団感染例を見ると、水が関与しているのではないかと考えている。今後は、同菌の発生原因や自然界での動態についても調べたい」と話している。

研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業などにより行った。E.アルバーティーの株は熊本県保健環境科学研究所(熊本県宇土市)などからも提供を受けた。成果は米科学誌「ヘリヨン」電子版に4月26日に掲載され、5月2日に大阪公立大学が発表した。

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