Qualtrics(クアルトリクス)は5月1日~3日の期間、米ソルトレークシティで年次イベント「X4 Summit 2024」を開催した。イベントの主役は生成AI。生成AIの機能を、2023年のX4で導入したフロントライン向けに加え、従業員とリサーチなどの領域にも拡大した。差別化は「クアルトリクスにしかない体験データ」だ。新しい機能と戦略の発表の場となった5月2日の基調講演を紹介する。

「CRMとERPでは差別化は図れない」 - XMが必要な理由

クアルトリクスは大学でのリサーチからスタートし、2002年に創業した体験管理(Experience Management:XM)のソフトウェアベンダーだ。

サーベイを取るだけではなく、そこから得たデータをXiDと呼ばれるIDに紐づけて蓄積し、インテリジェンスのXiQ、アクションエンジンxFlowでフローを作成するなど、体験全体の管理を行うことで、従業員と顧客の満足度改善に繋げていくというものだ。現在の顧客は2万社以上。その中には、Delta Airline、Hiltonなどがあり、日本でも500社以上の顧客を持つ。

基調講演を行った同社のプロダクト、UX、エンジニアリング担当プレジデントのBrad Anderson氏は、XMの重要性について次のように語る。

「CRM、ERPは素晴らしい技術だが、どの企業も導入しており、もはや差別化にはつながらない。CRMとERPは人とプロセスの効率性にフォーカスしたものだが、それが顧客、見込み顧客、従業員にどのようなインパクトを与えているのかは測定できない。体験の重要性は高まっており、自社の取り組みを顧客、見込み顧客、従業員の観点で評価する必要がある。XMはそれを実現する。XMを使って顧客、見込み顧客、従業員に何が起こっているのかを理解することは、市場のゲームを変える」(Anderson氏)

  • Qualtrics プロダクト、UX、エンジニアリング担当プレジデントのBrad Anderson氏

    Qualtrics プロダクト、UX、エンジニアリング担当プレジデントのBrad Anderson氏

そのXMも、生成AIの活用が始まっている。同社もこの1年で多数の発表を行った。2023年3月に開催したX4では、コールセンターなど顧客と直接接するフロントライン向けの生成AI機能、同7月には生成AIを組み込んだプラットフォーム「XM/os2」をそれぞれ発表した。

2024年4月には、製品体系を顧客のXM「XM for Customer Experience」、従業員のXM「XM for Employee Experience」、XMの戦略とリサーチ「XM for Strategy & Research」と3つのスイートに変更した。

現在、AIの機能は「Qualtrics AI」と総称しており、製品すべての土台となるXM/osに組み込まれている。今後すべての生成AIの新機能は、スイートの顧客に対して提供されることになる。同社は2023年7月に、生成AIに5億ドルを投じることも発表している。

  • 「Qualtrics AI」はXM/osに組み込まれている

    「Qualtrics AI」はXM/osに組み込まれている

Anderson氏は「2017年にXMカテゴリとして体系化した当時から、AIに取り組みファインチューニングを続けてきた。2021年にはクアルトリクスの自然言語理解の成熟度が高まり、非構造データを“聞く”ことができるようになった。これにより、顧客にもたらす価値は10倍になった」と話す。

生成AIの取り込みなどにより、その価値はさらに10倍になったという。現在、20以上の言語で年間3兆5000億回以上のやりとりを分析していると述べる。

Qualtrics AIは体験について同社が蓄積してきたデータを活用した「XM固有のAI」だ。同機能について、Anderson氏は「人間のつながりや意図についての情報でトレーニングされている。スケールのある形で顧客/見込み顧客/従業員を理解し、関係を縮めることができるため、生産性やリテンションを改善したり、顧客とのあらゆる場面でのやりとりを向上させることができる」と述べる。

パーソナライズされた体験を、スケールのある形で提供することで、人間と人間のつながりをさらに強化できるとしており、GPTなど公開されている汎用のAIとは大きく異なるという。

3スイートで共通のAIエージェント「Qualtrics Assit」を導入へ

基調講演ではデモとともに新機能を発表した。クアルトリクスは生成AIエージェントを「Qualtrics Assist」とし、すべてのスイートで利用できるようにする。Qualtrics Assistを窓口に、会話しながらサマリの生成などの新しい機能を利用できるというものだ。

Qualtrics Assistを使った機能として最初に紹介したのは、Employee Experienceでのマネージャー向け機能「Manager Assist」だ。これまでなら、レポートを見てどこを改善すべきか、うまくいっている部分はどこかなどを考える必要があった。

デモでは1400人のチームを率いる責任者がQualtrics Assistに「この四半期で最も増加した指標と減少した指標を教えてください」などと入力すると、チームの構造・非構造データ、ベンチマークなどを見て、それを表示する様子を見せた。

  • 「Manager Assist」の利用イメージ

    「Manager Assist」の利用イメージ

そこから「従業員エンゲージを高めるにはどのような行動を取ればいいのか」「ポーランドのエンジニアチームの一番大きな問題は?」と進めることもできる。さらには、フィードバックのメールの生成もQualtrics Assistを使って行った。

現場の分析だけでなく、予測の機能も紹介した。ポーランドのエンジニアチームの問題として離職率が高いことがわかったことから、離職に影響している要因を分析し、12カ月以内に退職する従業員が多いこと、マネージャーが仕事の優先順位付けを手伝っていないことなどが見えてきたという。

そこで、マネージャーが仕事の優先順位付けを手伝うと、どのぐらい改善するのかの予測を行った。

  • 離職率に関するシミュレートのイメージ

    離職率に関するシミュレートのイメージ

デモを披露しながらAnderson氏は「われわれには体験に関する膨大な匿名データがある。これは他のどこにもない情報で、顧客とクアルトリクスだけがアクセスして活用できる。XMプラットフォームでそれが可能となる」と力を込める。

Employee Experienceではこのほかにも、従業員のコメントの匿名化とサマリ生成、従業員フィードバックを受けてのパーソナライズされたアクションの提案などの機能も発表した。

Customer Experienceでも、さまざまな機能が加わった。デモでは、Qualtrics AIが生成したレポートから、優良顧客が最近行ったポリシー変更に不満を感じていること、キャンセルしようとしていることなどが判明した。

詳細を見てみると、優良顧客の大きな不満は体験にあることを把握した。XiDと統合されているため、新しいポリシーについて5年間の顧客、10年間の顧客がサポートチケットでどのような問い合わせを行っているのかなどの詳細も見ることができる。

  • 顧客の不満も把握できる

    顧客の不満も把握できる

カスタマーケアのマネージャーが顧客体験についてQualtrics Assistに問い合わせた結果、特定のスタッフの対応に改善の余地があることが分かった。

そこで、スタッフのコーチングプランを作成するようQualtrics Assistに指示、改善すべきところ、そのスタッフが参考に聞くことができる顧客対応例へのリンク、マネージャーはどのように改善を測定するのかなどの詳細が入ったプランを作成した。

  • カスタマーケアをサポート

    カスタマーケアをサポート

Anderson氏によると、Hiltonは世界で展開する7600の施設からゲストジャーニーに関する情報を収集しているという。それには、顧客の滞在前と後の通話、チャットボット、Eメール、メッセージング、デジタルサーベイなどが含まれており、業績の改善に寄与しているとのことだ。

Strategy & Researchでは「Research Hub」としてファーストパーティ、委託、提携関係にあるリサーチなどをクアルトリクスのプラットフォームにインポートし、すぐに利用できるリポジトリ機能が加わった。特定のグループについて横断的に調べるなどのことが可能になる。

また、このところ増えつつあるビデオフィードバックを、テーマなどに絞って分析できる機能も発表した。クアルトリクスのDNAであるサーベイでも、回答からフォローアップの質問を生成する機能を発表した。

同社の顧客全体で、サーベイのクリックは毎分5万回、多い時では毎分30万回にも及ぶという。このような膨大なサーベイデータから、どのようなフォローアップの質問をすると、良い回答が得られるのかをモデルしたもので、サーベイの精度を高めることができる。

デモでは、試乗後に体験を尋ね、「快適だった」と回答した顧客に「その体験についてもう少し詳しく教えてください」とフォローアップの質問をした。

  • フォローアップの質問にAIを利用

    フォローアップの質問にAIを利用

すでにプレビューで利用している顧客からは、AIを使って詳細な回答を求めると、40%の場合で顧客はそれに応じることがわかった。AIによりトピックを明確にして尋ねた場合の回答率は87%改善するという。

「Qualtrics Edge」を開発

Qualtrics Assistは現在、一部の顧客向けに提供を開始しており、2024年後半にパブリックプレビューとなる。そのほかにも、デモで披露した機能はすべてパブリックプレビュー、アーリーアクセスの段階にある。

デモを披露した後、Anderson氏はすべての体験データを単一のプラットフォームに集約することでQualtrics AIからのメリットを最大化できると強調。同氏は「AIの品質はデータの品質と量に左右される」とし、XM/osをプラットフォームとした3スイートを導入して、AI時代に備えるようにと、アドバイスしている。

最後に、AIを活用した新しいサービスの開発を進めることも明かした。「Qualtrics Edge」としてXMプラットフォームに加わる新しい機能で、Qualtrics AIのデータセットを含むことでインテリジェンスを得られるという。

Qualtrics AIと組み合わせることで「銀行分野で好調な競合はどこ?その理由は?」といった質問に答えることができるようになるという。

Anderson氏は「Qualtrics AIとQualtrics Edgeにより、意思決定のスピードと精度を高めると同時に価値を得るまでの時間を短縮できる。そして感情的な結びつきを持つ顧客/従業員を広げ、強化できる」と述べた。Edgeについては、次のX4イベントで詳細を披露する予定とのことだ。