多くの企業が取り組むDXの本質は、OMO(Online Merges with Offline)、つまり「デジタルとリアルの融合」を通じていかに顧客体験を進化させ、時代に合わせるか———こう語るのは、ビービット 執行役員CCO(Chief Communication Officer)の藤井保文氏だ。生成AIの登場が完全にビジネスのフェーズを変えつつあるなか、DX、ひいてはOMOや顧客体験はどのように影響を受けるのか。4月16日に開催されたオンラインセミナー「TECH+セミナー コンタクトセンター向け 成功ストーリーを支える『顧客体験DX』」で、藤井氏が解説した。

生成AI活用の3段階と、それによる破壊的変化

藤井氏は、生成AIの登場によって、顧客体験やOMOの在り方が大きく変化すると指摘する。「生成AIは、何人もの超優秀な頭脳が何時間も仕事できるようなイメージ」と述べ、その活用方法について3段階に分類した。

第1段階は対個人での活用だ。個人でのメールの作成などが該当する。第2段階は対業務での活用で、営業プロセスやコールセンター業務への組み込みが考えられる。第3段階は対顧客での活用で、顧客に提供するサービスへの生成AI活用を意味する。藤井氏は「多くの企業では、社内の業務では活用が始まっているが、顧客に対して提供するサービスへの活用は進んでいない」と現状を分析した上で、「早期に取り組まなければ、業界の破壊的変化に追いつけなくなる可能性がある」と警鐘を鳴らす。

  • 生成AIの活用における3つの段階

教育業界を例に取ると、生成AIの登場によって、教材や教科書の制作、個別指導や質問応答の自動化、新規参入による競争激化、教育サービスの低価格化、AIによる教育の質への懸念など、大きな変化が起こり得ることが考えられる。「生成AIが個別指導や質問応答を上手く行えるようになり、人間の講師の役割が縮小、または完全に取って代わられる」「生成AIを活用した新規プレイヤーが教育市場に参入し、現存する大企業が市場シェアを失う可能性がある」と藤井氏は生成AIによる破壊的変化の具体例を提示した。他の業界でも同様の変化が生じる可能性は高い。

生成AI時代に自社サービスの価値を高めるには

こうした状況において、自社サービスの価値を高め、外から見て盗みにくい障壁をつくるためには、何が必要だろうか。

生成AIの活用方法という観点では、「指令のコントロール」「参照元のコントロール」「頭自体のチューニング」という3つをうまく組み合わせることが必要だと藤井氏はいう。指令のコントロールは、プロンプトレベルでのチューニング、参照元のコントロールはLangChain/RAGなどを組み合わせることで参照元の情報を充実させること、頭自体のチューニングはファインチューニングをかけてモデル自体をさらに学習させることを指す。独自のデータやコンテンツ、品質基準などを持つことにより、参照元のコントロールや頭自体のチューニングで大きく障壁をつくることが可能となる。

インターフェイス設計も重要だ。テキスト入力やプロンプトデザインの負荷をユーザーにかけることなく、使いやすいインターフェイスで分かりやすいアウトプットが実行されるようにすることで、いかにサービス利用のハードルを下げられるかがポイントとなる。利用ハードルを解消することにより、既存の顧客に対する付加価値だけでなく、ハードルによって現時点では使ってもらえていない潜在顧客の獲得にもつながる可能性がある。

「こういったさまざまな観点をコントロールしながら、いわゆるプロトタイピングを行い、顧客が満足するサービス、価値を感じてもらえるサービスを模索するというサイクルを回していく姿勢が非常に重要な時代になってきています」(藤井氏)

  • プロトタイピングのステップ例