富士通は4月18日、日本国内のデータセンターでデータを保管するソブリンクラウドを展開することを発表した。利用するのは、Oracleの「Oracle Alloy」。

発表の場となったOracleのイベント「Oracle CloudWorld Tour Tokyo 2024」では、基調講演に富士通 執行役員 SEVP システムプラットフォーム 古賀一司氏が登場し、「顧客がクラウド移行に躊躇する要因を低減できる」と期待を語った。

  • 富士通 執行役員 SEVP システムプラットフォーム 古賀一司氏。ソブリンクラウド提供について語った

Oracle Alloyでソブリンクラウドを構築する富士通、3つの理由

4月18日に都内で開催されたOracle CloudWorld Tour Tokyo 2024は、Oracleが世界8都市で開催するイベントで、東京は7回目の開催都市となった。

基調講演で日本オラクル 取締役 執行役 社長の三澤智光氏は、「日本オラクルは日本のためのクラウド、日本の顧客のためのAIを重点施策にしてきた」と切り出した。その戦略が奏功し、この一年でOCIとSaaSで多数の顧客がOracleのクラウドを採用したと胸を張った。パートナーとしては、NRIが「Oracle Alloy」の稼働を開始したばかりだ。

  • 「Oracle CloudWorld Tour Tokyo 2024」に登壇した日本オラクル 取締役 執行役 社長 三澤智光氏

Oracle Alloyは、パートナーや顧客が自分たちのクラウドサービスを提供できるプラットフォームだ。

三澤氏と共にステージに立った富士通の古賀氏は、Alloyを採用する理由として、「クラウド移行を躊躇する要因を低減できる」「ハイパースケーラー(OCI)と同等の機能をタイムリーに提供できる」「データ主権、ソブリン性への対応を一緒に進めることができる」の3点を挙げた。

古賀氏は、「Oracle Alloyを富士通が運用するデータセンターに設置し、富士通がサービス運用のガバナンスを確保することで、クラウド環境の自動アップデートやパッチ適用による不具合の可能性といったパブリッククラウド利用時の課題を大きく低減できる」と語った。

AlloyではOCIの機能を利用でき、新しい機能もほぼ同じタイミングで反映できるという。

データ主権については、「クラウドに取り組む中で、経済安全保障を含め、日本における機密性、ソブリン性要件の対応を検討してきた」と古賀氏。「要件に対応する実装の壁は大きかったが、今回「Oracleは100以上の必要要件に応じてくれた。顧客の期待に応えるサービスを提供できると考えている」と続けた。

富士通のソブリンクラウドは2025年に提供を予定している。古賀氏によると、日本でスタートした後にグローバル展開するほか、ソブリンクラウドを提供したい企業が提供できるようにサポートしていく計画もあるという。

Alloyは、オンプレミスのOracle Databaseを利用する顧客のクラウド移行の用途としても提供する。同時に運用のコンサルティングサービスやクラウド運用の最適化を支援する「Fujitsu Cloud Managed Service」も提供する。また、同社が進める社会課題の解決にフォーカスしたサービス「Fujitsu Uvance」においても、「Hybrid IT」として進めるマルチクラウド戦略でAlloyを活用すると話した。

KDDIは基幹システムのモダン化でOCIを採用

基調講演では富士通に加えて、KDDI、日本経済新聞のOracleのクラウド活用状況も紹介された。

KDDIは同日、基幹システムのモダナイゼーションを目的にOCIを採用したことを発表した。同社の取締役執行役員専務 CTO コア技術統括本部長 吉村和幸氏は、中期経営戦略として掲げる”サテライトグロース戦略”において、クラウド活用は欠かせない、と述べた。「クラウドは我々のビジネスニーズに応じてスケーラブルにリソースを調節できる。それだけでなく、急速に変動する市場の需要に迅速、柔軟に対応できる」(吉村氏)

  • KDDI 取締役執行役員専務 CTO コア技術統括本部長 吉村和幸氏

大規模な基幹システムのモダナイゼーションにOCIを活用することについては、「中期経営戦略の中核である通信を支える基幹システムをサステナブルにしたい」と語った吉村氏。現在オンプレミスが多くを占めるが、ハードウェアやミドルウェアの保守が限界に達しつつあること、変化のスピードに柔軟に対応していく必要があることなどから、OCIを活用することにしたそうだ。

「Oracleは長年の実績があり、コストや性能に優れ、堅牢でセキュアなクラウドを提供している。これはわれわれの判断基準を満たすもの」と吉村氏。

これまでもDRサイトや料金計算生産システムなどでOCIのリフトを実現しており、2024年度末までに9つのシステムのOCIリフトが完了する予定だという。それ以降は、数千万人の顧客をサポートするシステムのクラウドリフトに着手する。

AIについても、「OCIとの連携によりさらなるコストの低減と運用の高度化、アプリケーション開発など開発プロセス、開発品質の向上、さらには新たなビジネス創出にもつなげたい」と、吉村氏は期待を語っていた。

抗えない変化には“待ち伏せ” - 日経新聞の電子版成功の舞台裏

日本経済新聞はOracle Cloud Applications、OCIを活用している。同社の取締役副社長 CDIO サブスクリプション事業統括 渡辺洋之氏は、メディアビジネスの変遷とテクノロジーの関係について話した。

  • 日本経済新聞 取締役副社長 CDIO サブスクリプション事業統括 渡辺洋之氏

2010年に電子版を立ち上げた日経新聞、有料版の購読者数はゼロから90万人以上になった。渡辺氏は成功した要因の1つにiPhone、つまりスマートフォン対応を挙げた。「抗うことができる変化か、抗えないのか――抗えないとすれば、待ち伏せしようということになった」(同氏)

そうやってスマホアプリを作成したものの、次の課題に直面する。評価だ。アプリストアで評価が悪いアプリは誰もダウンロードしようと思わない。それまでは良いコンテンツがあれば売れると考えていたが、「新聞史上初めて、コンテンツが課題ではなくデジタルサービスが会社の成果に関わる課題になった」と渡辺氏は振り返る。

そこで、同社は内製化に舵を切る。すると、エンジニアからは「面な他の作業をやめたい」という声が上がった。こうした経緯から、クラウドを導入することにしたという。

現在同社には、約100人のアプリケーションサービスの開発者とデータサイエンティストがおり、現在独自の“日経LLM”の構築を進めている。

OracleのCloud ERP採用については、「クラウドネイティブなERPを使いたい」という理由で採用、これを通じて業務の整理を進め、中核ではない業務のアウトソーシングなどを進めることができたという。

渡辺氏はOracleに対して、「多数の顧客、多数の事例を知っている立場から、常に刺激を与えてほしい」と期待を語っていた。