電通は4月10日、電通のデータ戦略、および企業の事業成長のための次世代マーケティングモデル「Marketing for Growth」に関する記者説明会を開催した。説明会には、電通 統括執行役員 ストラテジーの鈴木禎久史、同社 執行役員 ストラテジーの深田欧介氏、dentsu Japan グロースオフィサー/チーフデータオフィサーの松永久氏が登壇した。
dentsu Japanのデータ戦略
最初に登壇した松永氏は「dentsu Japanのデータ戦略と独自データ基盤」というタイトルで同社のデータ戦略を紹介した。
dentsu Japanのデータ戦略においては、「人」を起点とした統合マーケティングをデリバリーするためのデータ基盤として、「データ:データそのもの」「人:分析やプランニングをする人および人に帰属するノウハウやスキル」「テクノロジー:テクノロジーを活用したプロダクトやプラットフォーム」という3つの項目が定義されている。
そして、これまでdentsu Japanのデータ戦略では、顧客企業のカスタマーデータプラットフォーム(CDP)、電通グループ独自のデータマネジメントプラットフォーム(DMP)「People Driven DMP」、Date Clean Room(DCR)の3点を連携させてきた。
ここに挙げられる電通の統合マーケティングフレームワークであるPeople Driven DMPは、「『人』起点に『人』を動かす」フレームワークで、人を起点に行動データと意識データからプランニングを行い、広告に留まらない最高の顧客体験の創出に寄与するものだとしている。
しかし、近年では、世の中のユーザープライバシーの潮流の変化から従来のデータ戦略におけるPeople Driven DMPの役割は縮小しているという。
2022年4月に改正個人情報保護法が施行されたことをはじめ、改正電気通信事業法といった法律の変化が起きていることに加え、ITP(Intelligent Tracking Prevention)の進展やCookie制限などのブラウザの利用制限といったプラットフォーム事業者の面での変化も起きているのだ。
この両方の側面からユーザープライバシーの保護が強化されているため、求められるものに変化が起きているという。
「法律とプラットフォーム事業者の両面でユーザープライバシーの保護が強化されていることに伴い、生活者に対して、データの利用目的の具体的提示と明示的な同意許諾の取得が求められる世の中になっています」(松永氏)
これらの潮流の変化に伴い、「ユーザープライバシーの保護」と「顧客企業のマーケティングニーズ」の両立が重要視される中、dentsu Japanは、Date Clean Room(DCR)の取り組みを強化している。
Date Clean Room(DCR)とは、プラットフォーム事業者が提供するクラウド環境において、クライアントの1st Partyデータとプラットフォーム事業者のデータをセキュアに連携し、マーケティングの継続的なPDCAを実行するデータ基盤のことを指す。
電通グループは、独自のDate Clean Roomである「TOBIRAS」を開発した。このTOBIRASは、複数のDate Clean Roomと1st Partyデータ、2nd Partyデータをつなぐシステム基盤で、Date Clean Roomごとに異なる仕様を統一し、TOBIRASの画面上の単純な作業だけで、一元的に分析を実行できるものとなっている。
またdentsu Japanの取り組みとして、2023年度には5000人の従業員(電通:2500人/電通デジタル:1900人、その他各社:600人)を対象としたデータガバナンス研修と、1000人の従業員を対象にしたデータクリーンルーム研修を実施するなど、全社的なデータガバナンスの強化に向けた取り組みが行われているという。
電通のミッション「mROIの最大化」
続いて登壇した鈴木氏は「データ戦略をマーケティングに転換すること」について説明した。鈴木氏がキーワードとして挙げたのは、マーケティング投資対効果を最大化することを指す「mROI」という言葉だ。
同社はmROI追及のために必要な要素として、「誰に届けるべきなのか(WHO)」「何を届けるべきなのか(WHAT)」「どのように届けるべきなのか(HOW)」という3つを挙げた。
「今のシーズンの『お花見』を例に考えてみます。WHOをお花見に行く人に定めた場合、WHATは『お花見に合うアルコールや飲料』ということになります。そして、HOWとして4月の第1週頃にマーケティング施策を行う、といったことが考えられます」(鈴木氏)
上記のようにコンテンツの届け方を説明した上で、鈴木氏は「誰にコンテンツを届けないか」というポイントが重要になると説明した。
お花見の例で考えると、同じ時期に行うマーケティング施策であっても、地域によっては桜がすでに散ってしまっているケースがあり、その人たちは「企業の製品・サービスを必要としない人」となる。
また、WEBサイトを訪れる見込みのない人や店舗に足を運ばない人といった「顧客になりえない消費者」を特定してマーケティング施策を行う必要性があるという。
「私たちのミッションは『mROIの最大化』です。より分母をミニマムに、より分子をマキシマムに、ということが必要になってくるのです」(鈴木氏)
次世代モデル「Marketing for Growth」
同社は、このようなmROIがより一層求められる時代において、企業の事業グロースに必要なマーケティングの在り方(要素・プロセス)を改めて捉え直し、体系化した次世代モデル「Marketing for Growth」を構築した。
Marketing for Growthは、これまで電通グループがマーケティングの高度化・効率化のために提供してきたさまざまなソリューションやこれから開発していくサービスを同サービスのもとで整理し、シームレスに連携させていくことで、顧客企業のマーケティング変革を統合的に支援し、事業グロースに貢献していくというものだ。
「Marketing for Growthでは、各種データをシームレスにつなぐ『Data Infrastructure』と、そこから専門コンサルタントが新たなインサイトやビジネスチャンスを発見し、一貫性ある戦略や実行のストーリーを構築していく『Marketing Consulting』という2つの要素を基盤としています」(深田氏)
深田氏は、Data InfrastructureとMarketing Consultingの2つが動脈と静脈のように相互連携することで、マーケティング活動全体に血が通い活性化していくこと表現した概念図を紹介した。
最後に深田氏は、同社の考える「マーケティング」について以下のように説明し、会見を締めくくった。
「生活がデジタル化された現代、その顧客創造におけるROI(Return On Investment:投資収益率)向上支援は、『データの向こうに人の生活を想像する』『人の新しい行動を創造する』『そのためのプロジェクトをマネジメントする』という、弊社らしさがお役に立てるのではないかと考えています」(深田氏)