弥生は4月4日、「『年収の壁』についての意識調査」の結果を公表した。同社サービスのユーザーである中小企業経営者と労務担当者1217名が回答。年収の壁対策に対する認知は高い一方で、具体的な内容の理解や実際の活用はまだ進んでいないことがうかがえる結果となった。

年収の壁とは

年収の壁とは、税金や社会保険料がかかり始める年収の金額を指す。具体的には、106万円の壁と130万円の壁が知られる。この年収の壁を超えると手取り収入が減るため、パートタイムで働く人の多くが労働時間を調整しているとされる。年収の壁の影響によってパートタイム労働者の稼働時間が限定されると、多くの企業で人手不足が懸念される。

年収の壁対策として、厚生労働省が新設した「年収の壁・支援強化パッケージ」が利用可能。106万円の壁についてはキャリアアップ助成金の社会保険適用時処遇改善コースにより、年収106万円を超えて働くなどして新たに社会保険適用となった労働者の収入を増加する取組を行った事業主に助成される。130万円の壁については、事業主の証明によって、収入が一時的に上がり年収130万円を超えたとしても被扶養者認定を受けられる制度がある。

年収の壁対策は高い認知度

調査の結果、2023年10月に厚生労働省より施行された年収の壁・支援強化パッケージの認知率は87.7%となった。しかし、施策の具体的な内容を知っている人は9.5%であり、認知しているものの内容を理解していない人は31.4%と、内容の理解についてはまだ進んでいない状況があるようだ。

  • 年収の壁対策の認知度は高いようだ(資料:弥生)

    年収の壁対策の認知度は高いようだ(資料:弥生)

年収の壁対策について認知していると回答した人のうち、「実際に利用している」、また「申請手続き中」の人は15.1%だった。利用していない人の利用意向を聞くと、34.6%が利用したいと考えており、31.7%は利用しないと回答、33.7%は未定という結果となった。

利用したいと考える理由としては、「人材確保につながるから」「従業員のモチベーションが高まるから」との回答が挙げられ、中小企業が人材面で課題を抱えていることが示唆された。一方で、利用しないまたは未定の理由としては、「申請手続きが煩雑 / 面倒」「制度が理解できていない」といった課題が挙げられた。

  • 年収の壁対策の利用意向(資料:弥生)

    年収の壁対策の利用意向(資料:弥生)

  • 年収の壁対策を利用したい理由(資料:弥生)

    年収の壁対策を利用したい理由(資料:弥生)

  • 年収の壁対策を利用しない/未定の理由(資料:弥生)

    年収の壁対策を利用しない/未定の理由(資料:弥生)

具体的な困りごとの内容

年収の壁について具体的な困りごとを聞くと、以下のような回答があったという。

・扶養の範囲内で働きたいアルバイトのシフト調整。本人も労働意欲がありこちらも仕事があるのに出勤調整をしなければならない。それが年末の忙しい時期に重なるのでかなり困る(経営者 / 従業員2~5名)

・時給や特別手当などの金額を上げると年収の壁にぶつかり、時間を減らすと雇用保険の要件(月20時間)を満たさない場合がある。人手不足もあり悩ましいです。(経営者 / 従業員20~30人)

・130万円年収制限のパート職員がいる。夫の会社の配偶者手当の関係で130万未満で働いている。もっと働いてもらいたい。(労務部門管理職 / 従業員2~5人)

・人材不足 高齢化が進み若い人でスキルが高く向上心の高い人が入らない(労務部門管理職 / 従業員20~30人)

・出来るだけ従業員の要望に沿えるようにとしたら、勤怠管理が複雑になった。年収の関係で有給ではなく欠勤にしたり、早退したりなど。(労務担当 / 従業員20~30人)

・会社と従業員双方が社会保険料のかからない範囲内でと思っている。当然就業時間が短くなるが仕事量は変わらない。サービス残業や持ち帰りが増えるのではと心配している。盛期、給与が変わるので計算や届け出が面倒に思う。(労務担当 / 従業員5~10人)