新年度を迎えた4月1日、全国各地の多くの企業で入社式が開かれた。今年の新入社員の多くは、大学入学前にコロナ禍が始まった「コロナネイティブ」と呼ばれる世代だ。コロナ禍を前提とした学生生活を送ってきた彼らに、企業のトップはどのような言葉を投げかけたのだろうか。IT業界を中心に紹介しよう。
日立製作所 小島社長「入社式とは呼ばない」
日立製作所は「入社式」という名称を使わなかった。昨年に引き続き「社会の一員としてのキャリアスタートを祝う日」と位置付ける「キャリア・キックオフ・セッション」と呼ぶ式典を開いた。
執行役社長兼CEOの小島啓二氏は約780人の新入社員に向けて以下のスピーチを行った。
小島氏:皆さんにとって、社会に出て、日立という新しい環境で仕事を始めるということは大きな変化ですよね。この変化に不安を感じる方もおられるかと思います。一方で、この変化を自らの成長機会と捉えれば、ポジティブに仕事に挑戦できます。変化は常に成長のチャンスです。これは人も会社も、そして社会も同じです。さまざまな変化をチャンスと捉えて、皆さんが、自らの成長、日立の成長、そして社会の成長を考えるような、そんな感性豊かで、挑戦が好きな人になって頂ければ、私としては、こんなに嬉しいことはありません。
日立の歴史の中で大きな転換点がいくつかあったのですが、一番最近の転機は皆さんの多くが小学生のころ、2008年のリーマンブラザーズの破綻に端を発した世界金融危機、いわゆるリーマンショックでした。この時に日立も日本製造業最大と言われる7873億円の赤字を出してまさに存亡の危機に直面しました。
この危機に立ち向かわれた川村名誉会長は、「二度とこうした危機を起こさない」という不退転の覚悟のもと、会社を立て直してV字回復を実現。その後を継いだ、中西前会長は、「日立の優れた製品、OT、ITを活用して世界のお客様と共に社会課題を解決する」という「社会イノベーション事業」を、日立の中心的な事業にしようと構想しました。東原会長は、「社会イノベーション事業のグローバルリーダーになる」という大きなビジョンを掲げ、データから価値を生む事業基盤である「Lumada(ルマーダ)」を構築して強力に進めるとともに、日立のグローバル化に向けて大きな経営改革を断行しました。
日立はいま、「社会イノベーション事業」、すなわち「データとテクノロジーでお客さまと共にサステナブルな社会を実現し、人々の幸せを支える」ことをめざしています。私たちは、この社会イノベーション事業を世界各地域で展開することで、地球環境を守りつつ、一人一人が快適で活躍できる社会を築き、経済を発展させていこうと決意しています。皆さんの中に、「なぜ日立に就職したの?」と聞かれたら「社会イノベーションをやろうと思って」、と答える方が増えることを私はひそかに期待しています。
世界中の仲間と力を合わせる、これをOne Hitachiと言っているのですが、One Hitachiで社会課題の解決に挑戦する、これが、日立がめざしていることです。皆さんにも、新たな力としてこれに加わって頂きたいのです。自らが成長のチャンスだと考えたことに果敢に挑戦し、仲間と信頼関係を育み、失敗や成功から学ぶことで、皆さんは間違いなく成長するでしょう。
パナソニック コネクト樋口社長、AIアバターで登壇
パナソニック ホールディングス(HD)傘下でシステム開発を手掛けるパナソニック コネクトは、一風変わった入社式を実施した。式のドレスコードは「自分を表現する色の服」。新入社員らはスーツではなく、思い思いのスタイルで式に臨んだ。
また、新入社員向けのスピーチには生成AI(人工知能)を活用。代表取締役 執行役員 社長・CEOの樋口泰行氏のAIアバターが登壇し、新入社員らを激励した。
樋口氏(AIアバター):新入社員の皆さん、今日は入社おめでとうございます。私はCEOの樋口泰行です。ようこそ、パナソニック コネクトへ。みなさんが私たちの仲間に加わることを心から歓迎いたします。今日からみなさんは当社の一員として、新しいスタートを切ります。みなさんがそれぞれの個性や能力を活かし、会社とともに成長していくことを期待しています。それでは、ここでリアルの樋口さんに登場してもらいましょう。では、樋口さん、どうぞ。
樋口氏(リアル):改めましてパナソニック コネクトの樋口泰行です。今、ご覧頂いたのは生成AIで作った動画ですが、気づきましたか。実は昨年も生成AIで作った動画で挨拶をしましたが、写真が少し動くというレベルでした。
今回は声や動きも私そっくりなので、一見すると本物と区別がつかないレベルになっています。画像や動画の生成、音声合成、対話型AIなど、AI関連の技術はこの一年で目覚ましい進歩を遂げています。
入社式で使用している音楽も生成AIで作っています。パナソニック コネクトは昨年2月、日本企業としていち早く「Connect(コネクト)AI」という生成AIを社内展開しました。社員は日常的に生成AIを活用し、1日に5000回以上も利用されています。
現在、自社データを組み合わせて回答できるようにすることで、さらに業務への活用を進化させようとしています。これからのビジネスにおいてはオープンなテクノロジーをいち早く取り入れること、そして、失敗を経験値に変えるという考え方が必要です。
パナソニック コネクトは「強くて優しい会社」を目指しています。ゆるくて楽な会社、全然怒られない会社という意味ではありません。人間は平等に生まれてきているという考えを前提に、「社員の人権は必ず守り、生き生きと働ける会社」を目指しているのです。
社員が生き生きと働いてる状態っていうのは、生産性が一番高い状態です。誰かに言われたことだけをやるのではなくて、自分が学び、考え、行動する。そんな組織を目指しております。明日から研修が始まりますが、分からないことがあれば、恥ずかしがらずに何でも聞くようにしてください。デジタルは進歩しましたが、人は人から学ばないとわからないこともたくさんあります。これから一緒に頑張っていきましょう。
ソフトバンクG 孫会長「必ずAIは人間よりも賢くなる」
ソフトバンクグループ(ソフトバンクG)の合同入社式では、会長兼社長の孫正義氏が登壇。新入社員約890人に向け、AGI(汎用人工知能)の可能性を訴えた。
孫氏:これからの5年間は、人類の歴史の中で最も重要な5年間になるのではないかと思っています。AGI(Artificial General Intelligence)はいつ来るのか。AIが人間よりも賢いのか、人間より賢いAIが生まれるのかという議論がいまだに起こっています。答えはシンプルで、必ずAIは人間よりも賢くなります。
金魚がどんなに優れたトレーニングや経験をしようとも、人間より賢くならない。何が違うのかというと、脳の働きは、脳細胞の中のニューロンの数によって決まりますが、金魚と人間のニューロンの差は約1万倍。これだけ差があると、どんなに優れた金魚でも平均的な人間より賢くなることはあり得ないわけです。
私が考えるAGIの定義は、人間の叡智の総和の約10倍ということです。昨年、ChatGPTが知られ始めました。今はGPT4ですが、それの50万倍から100万倍の能力を持つに至る頃には、AGIがほぼ来るのではないかと私は考えています。みなさんは大変重要な時期に生まれたということです。
5年以内にAGIが来る。仮に5年、10年ずれたとしても、それは10万年、20万年の人類の歴史で考えれば誤差です。そういう世界が来た時に、自分たちは何をすべきか。われわれグループの皆さんは、人々を幸せにするために情報革命をやっているのだ、AGIの一部分をわれわれのグループが担ってやっていくのだ、という思いでやっていただきたいと思います。少なくとも日本では間違いなくトップグループになる。私は世界でそのトップグループの一社になろうと本気で思って毎日過ごしています。
言いたいことは一つです。AGIは来る。すぐそばにある。われわれがそのAGIの世界を、日本であるいは世界で一日も早く実現させて、人々を幸せにしたい、悲しみを減らしたい、喜びを増やしたい。そのためにわれわれは仕事をする。それがわれわれの理念であり、存在価値だということです。入社したら、いろいろな仕事が待っていますが、それも経験だと思います。不満がある時は上司とぶつかり合っていいと思います。そのくらいして進化していきましょう、発想を解き放っていきましょう。みなさん一緒にがんばりましょう。
NEC 森田社長「『クライアントゼロ』で創意工夫を」
NECは、新入社員全員が対面形式で一堂に集まる入社式を2019年度以来5年ぶりに開催した。入社式の名称は「NEC Welcome Session」。約680人の新入社員らは、代表執行役社長兼CEOの森田隆之氏のスピーチに耳を傾けた。
森田氏:ようこそNECへ、新入社員である皆さんの入社をNECの仲間みんなが楽しみに待っていました。皆さんが人生におけるキャリアのスタートにNECを選び、本日皆さんを迎え入れることができて嬉しく思います。
今はきっと、これから始まる社会人生活への期待に胸をふくらませ、ワクワクした気持ちだと思います。今後日常となる仕事の中で、今の気持ちをいかに維持するかがとても大事であり、常に新しい視線で眺め、初心や好奇心を忘れずに挑戦し続けてほしいです。また、仕事とは学びの場でもあり、自己成長の場でもあります。NECには幅広い業務と12万人の仲間がいます。NECに入社したというこの縁を活かして、自分が成長できる場を見つけてほしいと思います。
NECは目的組織であり、その目的は「NEC Way」に書かれています。NECの存在意義であるパーパスは「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指す」こと。ここで大切にしてほしいのはインテグリティ(高い倫理感と誠実さ)です。お客様に対する誠実さ、社会に対する誠実さ、取引先・パートナーに対する誠実さ、社員や仲間に対する誠実さ、そして自分自身に対する誠実さを忘れないでほしいと思います。
NECは、世界トップクラスのNECの顔認証技術を使った入退場システムや、高い日本語性能を持つNECの生成AI「cotomi(コトミ)」といった最新のテクノロジーを、業務で実際に使用することができます。私たちはそれを「クライアントゼロ」と呼び、自らがユーザーとなってフィードバックをしながら創意工夫を重ね、さらなるブラッシュアップを図っています。若い皆さんの積極的な貢献を期待し、これから共に働けることを楽しみにしています。