経済産業省(経産省)と日本ロボット工業会は3月21日、「令和5年度 ロボフレ事業報告会」を東京都内で開催し、惣菜盛り付け全工程のロボット化や、その実際の食品工場への実装に向けた取り組みなどの取り組みを報告した。

「ロボフレ」とは何か?

近年、さまざまな業界でロボットの導入が進みつつあるものの、我々の生活における「食」を支える食品製造業では、人手不足や労働生産性などのさまざまな課題が山積しているにもかかわらず、特に惣菜や弁当製造の現場では、高い重量精度と品位が求められるためロボットの導入が難しいとされ、機械化が遅れているのが実情だという。

  • 食品製造でも機械化が遅れているのが惣菜や弁当の製造工程

    食品製造分野の中でも機械化が遅れているのが繊細な作業が求められる惣菜や弁当の製造工程となる

そうした中、日本惣菜協会はロボットシステムの社会実装を高速化するには、ユーザーサイドの導入環境におけるイノベーションが必要だとし、2023年度の経産省の事業「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」および、農林水産省(農水省)の事業「生産工程高度化推進委託事業」において2023年9月に採択され、官民が連携して総菜盛り付け工程のロボット化に取り組んできた。

ロボフレは、こうした現場の作業プロセスや施設環境がロボットを導入しやすいロボットフレンドリーな環境になることを目指したもので、その最大の特徴は従来のロボット導入方法は、個々のユーザーごとに要件を決めて導入を行うことから、ほかの用途ではオーバースペックになったり、カスタマイズなどによって価格も高くなってしまうという課題を克服することを目的に、ユーザーごとではなく、できる限り汎用的なシステムにすることで、導入コストを下げ、ロボットの社会実装の促進を促そうという点である。

総菜盛り付けのために開発されたさまざまなロボットシステム

今回の取り組みでは、そうしたロボフレ事業のコンセプトを踏襲する形で、ユーザーである小売りや惣菜製造企業と、課題解決のためのトップ技術を持つベンダー・協力企業が連携しながら、約半年間という短い期間で、ロボットの開発から製造現場への実装を実現することに成功した。

新たに開発されたキーとなるロボットシステムは、「惣菜盛付全工程ロボット化統合システム」「CVS(コンビニエンスストア)ベンダー向け高精度惣菜盛付ロボットシステム」「触覚ハンド活用多品種対応弁当盛付ロボットシステム」「高速蓋閉ロボットシステム用清流機」「製品移載、番重移載連動ロボットシステム」の5つで、これらはすべて世界に先駆けて総菜盛り付け工程の現場に実装されたロボットシステムになったとのこと。

  • CVSベンダー向け高精度惣菜盛付ロボットシステム

    CVSベンダー向け高精度惣菜盛付ロボットシステム

  • 触覚ハンド活用多品種対応弁当盛付ロボットシステム

    触覚ハンド活用多品種対応弁当盛付ロボットシステム

惣菜盛付全工程ロボット化統合システムでは、さまざまな形状やサイズの容器を供給するロボットや惣菜を盛り付けるロボットシステムの改良、盛り付け品位を検査するAI品位検査装置や自動計量ラベラーなどを一連の統合ラインとして開発し、マックスバリュ東海の長泉工場の惣菜製造現場に導入されたという。

  • AI品位検査装置

    AI品位検査装置

総菜・サラダの盛り付けは全工程の約50%を占めており、その部分に対する人的負担をどうにかして解決したいという思いから開発を進めてきたと語ったのはマックスバリュ東海の執行役員 商品本部デリカ商品統括部長 兼 ダイバーシティ推進室長である遠藤真由美氏。開発されたロボットシステムを令和3年度から、ポテトサラダやマカロニサラダなどの惣菜盛り付けラインに導入することで、1ラインにつき従来は7人の人員が必要だったところが3人(+ロボット4機)に削減できるようになったとのことで、概算レベルではあるが人件費だけで年間約1000万円以上の削減効果があったとのこと。(令和3~4年度の成果)そして、令和5年度には、さらに盛り付け難易度の高い和惣菜の盛り付けラインにロボットを導入し、7人から2.5人への省人化を達成。今後も継続して事業を進めていくとしている。

  • 盛り付けロボット、AI検査機、ガス置換トップシール、不定貫で盛り付けされた和惣菜

    盛り付けロボット、AI検査機、ガス置換トップシール、不定貫で盛り付けされた和惣菜

遠藤氏は「ロボットの導入後、作業効率も上がり、盛り付けの仕上がりもよく、売れております。お客様の反応も良いです。これはこれまでと変わらない美味しさを届けられているからだと思います」と、ロボットを導入することで品質が落ちるのではないかという不安は現在一切感じていないことを述べていた。そして「まだまだ(盛り付け工程には)人が必要で単純作業が多い。だからこそ、このような取り組みはまだまだ必要です。成功あるのみ。これからも、ロボット事業に取り組み、省人化あるいは無人化に挑戦していきたい」と締めくくった。

日本惣菜協会は、惣菜盛付全工程ロボット化統合システムの開発に加えてロボット導入の障壁を下げるためのロボフレ環境の構築に向け、「不定貫ガス置換トップシール惣菜」、「デジタルツイン、量子コンピューター用データフォーマットの標準化検討」、「ロボフレ標準番重検討」、「システム横展開検討」、「食品工場におけるロボット導入衛生管理ガイドライン策定」などさまざまなテーマに取り組み事業を進めてきたとも説明している。

なお、このロボフレ事業を促進するにはサービスが多少いびつでも、ロボットを導入するユーザーや、そこで作られた惣菜を購入する消費者など、関わる人々の“寛容さ”が重要であり、人々が受け入れることで技術進歩も爆発的に加速するだろうとのことで、今後も協会あげて開発を推進していくとしていた。