年が明けたばかりの1月1日。正月ムードの中を大きな震災が襲い、能登地域を中心に北陸地方は特に大きな被害を受けた。筆者も年末年始の帰省に伴い富山県に滞在していたため、恐ろしい揺れを経験することとなった。避難所となっている小学校の窓ガラスが割られて、屋上まで近隣住民が避難する様子などを目撃した。
また、3月11日で発生から13年が経過した東日本大震災も、現地にはいまだ大きな爪痕を残す。今回はそうしたタイミングに合わせて、富山県に本社を置くインテックに防災に対する取り組みを取材した。今回発生した能登半島地震においても、同社の技術は活用されたようだ。
富山県×インテックのこれまでの取り組み
インテックは5年ほど前から、地方自治体向けにIoT(Internet of Things:モノのインターネット)を利用したプラットフォームを都市OSとしてデータ連携基盤を構築する事業を手掛けている。同事業は現在「エリアデータ利活用サービス」として提供され、観光や防災といった地域課題の解決を支援している。
富山県はこれまで大きな地震や台風の被害こそ発生していないものの、県内には7つの大きな川が流れ、その支流も多いため、河川の水位監視については非常に需要が高まっていたそうだ。そのため、両者はデータ連携基盤の実証実験にも積極的だ。
2022年には富山県総合防災訓練において、IoTプラットフォームとAIを活用して避難所の混雑を検知する実証実験を実施。広域避難を想定した訓練において、分散する情報をいかに効率的に集約するかを検討した。
インテックの地域DXソリューション課で主任を務める當流谷(とうりゅうだに)牧子氏は実証の成果について「県の担当者もデータ連携に関して有益だと認識している。今後はデータ連携基盤の構築により、地図上にハザードマップやリアルタイムな気象データなども重ねて、より使いやすいように改良したい」と語る。
先日の能登半島地震では、正月の夕方に発生したこともあり、多くの人がテレビのアラートを見て避難所に一気に押し寄せた。筆者が目撃したように窓ガラスを近隣住民が割って中に入った例だけでなく、窓ガラスを割って良いのか分からずにパニックになった例などもあったようだ。
「避難訓練はさまざまな条件が整っている前提で進められる。しかし実際に災害が起こったときには、往々にして訓練通りにはいかないもの。電源や通信が障害により遮断される場合なども想定しながらデジタル技術に投資しなければいけないことが浮き彫りになった」と、同氏は振り返った。
現地の様子から明らかになりつつある、地震発生時にデジタル技術ができること
石川県羽咋市では、以前からインテックのエリアデータ利活用サービスを導入していたという。県が管理している道路や河川の監視カメラ、および、積雪深を測定するセンサーのデータを地図データ上にプロットし可視化していた。元はといえば、砂浜でドライブができる千里浜の様子を気軽に確認するような場面で活用していたそうだ。
地震発生時には、このデータ連携基盤をそのまま活用した。寸断された道路や周囲の交通状況などを可視化し、迅速な情報把握と復旧につなげたとのことだ。
當流谷氏は今回の震災を受けて、「今後、実際の被災対応などの状況をデータ連携基盤に還元できるような仕組みを検討したい。道路の寸断や液状化の状況をリアルタイムに反映したり、給水の状況を可視化したりできれば、より有益なソリューションとなるはず」と、展望を示した。
今のところ現地では被災対応に追われており、當流谷氏らもまだ現地担当者の詳細な実情を聞き出せてはいないそうだ。自治体DXソリューション部部長の石浦亮氏らは、今後は実際の被災地の様子なども反映しながら改良していくという。
また、上記の学校の窓ガラスの鍵の例のように、いざ震災が発生した場合には、デジタル技術で解決できる点とできない点があるだろう。電源確保のために太陽光発電やLPWA(Low Power Wide Area)を使う仕組みや、通信が遮断された際のためにデジタルとアナログを切り替えられる仕組みなど、より現実に合わせたソリューションが必要になる。
ローカル5Gも通信の確保には有益だが、アンテナを立てる際には事前に届出が求められるため迅速性には欠ける。ドローンなども含めて多段階で現場を支援する仕組みが必要となる。
より安全な地域を作るためのソリューションのために
自治体と共に防災ソリューションを構築する難しさについて、「防災関連の取り組みは投資的な側面が強く、どの程度の備えが必要かは判断が難しい。今すぐに必要というわけではないものについて、なぜその投資が必要で、どのような効果が得られるのかを市民に伝えていく必要がある」と、當流谷氏は語る。
自治体が管理する道路や森林、河川の情報は、県や市区町村で縦のつながりが強い反面、横のつながりが弱い場合も多いという。また、リスクを把握していても予算がなく対処できていない場合も多いそうだ。
こうした課題に対しても、地域のデータを連携して可視化するソリューションは有用に思える。複数のデータを重ねて単一のプラットフォーム上で管理できれば、重点的に対応すべき内容を同じ土俵で議論できるようになる。
インテックと富山県は今後、被災地の実際の様子などを聞きながら、データ連携基盤に必要な情報の取捨選択を進める予定だ。さらには専門家の意見なども取り入れより強固なソリューションの構築を目指す。
今回の地震発生時は、不幸中の幸いというべきか、若い人が多く帰省するタイミングだったため、高齢者の避難や避難所の運営がスムーズに進んだというポジティブな面もある。しかしその一方で、普段はその地域に暮らしていない人が多かったため避難所の物資が足りないといったネガティブな面も見られた。
「デジタル技術が震災に対してどれだけ有効なのかすぐには分からない。しかし、マイナポータルとの連携などで避難者が普段服用している薬の情報を確認する仕組みや、地域内の実態に合わせた人流の把握とコントロールなどにおいて、IoTやデジタル技術は活用できるはず」(當流谷氏)
今回の震災で、改めて自然災害の恐ろしさが顕在化した。日本に住む限り自然災害は避けられないともいえるが、少しでも安心安全な地域を作るために尽力してくれている人たちに感謝するとともに、自身の日々の備えも見直す機会としたい。
最後になるが、地震発生時に避難する筆者ら家族を暖かく受け入れ衣食住を提供してくれた金龍山 安立寺に、この場を借りてお礼を述べたい。