タイピングの練習がてらにラジオ番組などの音声の一部を文字起こししてみると、実際に聞いていた和やかな雰囲気とは異なる文字の羅列になってしまう。切り取られると前後の文脈がなく、笑い声などをカットしてしまうと冗談やジョークなどその場の雰囲気が伝わらない。

番組を常に聞いているリスナーであれば、文字だけの書き起こしでも雰囲気を即座に把握できるのだが、全く知らない人に伝えるには、(笑)や絵文字😄などで補ってなんとか伝わるくらいで、核心たる番組の雰囲気を伝えるのは難しい。ラジオDJのパーソナリティはもちろんのこと、効果音だったり、選曲だったりと言葉以外の部分にもずいぶん左右される。番組によっては、時折、"ピー音"が入ることもある。漏らしてはいけない情報を消すための編集業務であるが、音や映像にいくつもの手間を加えて臨場感を醸成し、ひとつの番組が成立している。

テレワークやハイブリッドワークが普及しオンラインでの会議や打ち合わせが浸透したが、他者に見せるための目的では無いにしても、映像や音声で構成されるという点では、オンライン会議をひとつのライブ番組として考えることもできよう。出演者である会議参加者は、白熱した会議に通常より大きな声で長時間の独演をしてしまう。ハッと我に返ると、断片的に聞き取られては誤解の生じる単語やフレーズ、場所や場合によっては、機密に相当する情報を発信していた。急いでいたため、喫茶店の奥で小声で話していたつもりだったのだが・・・・左の方を見ると意味深にニヤッと笑う男が足早に立ち去る・・・というシリアスな展開も考えられないわけではない。

周囲数メートルに居るまったくの部外者に会社の重要な情報を流してしまったというストーリーだが、リアルなゴミ箱から情報詐取をするソーシャルエンジニアリング手法は昔からあったそうだ(「欺術(ぎじゅつ)―史上最強のハッカーが明かす禁断の技法」ケビン・ミトニック/ウィリアム・サイモン著)。スマートフォンが隅々まで浸透した現在では、これに相当するのがアナログな音声なのかもしれない。端末のセキュリティが厳しい昨今、パケットをキャプチャしてデータを摘まみだすよりも遥かに容易い。そう考えると、会話によるアナログな情報の漏えいにも気を配らないといけないことになる。

Privacy Talk(同社資料より)

少なくとも、知らない人が居る空間では、ひと手間を加えてボリュームのコントロールくらいは、注意したいものだ。ラジオをBGMにそんなことを妄想していると装着型減音デバイスのが入った。キヤノンマーケティングジャパン初の企業内起業ichikara Lab(イチカラ ラボ)から生まれた"Privacy Talk"は、イヤホン・マイク・ファンを搭載する装着型減音デバイスで、特殊構造のマスクで装着時に発した声を減音し、イヤホンとマイクでオンライン会議でのコミュニケーションを推し進める。

ファンも搭載されているため、マスクの息苦しさも大幅に軽減されるという優れもの。迷路のような構造を持つ独自の音響メタマテリアル技術では20db程度の減音が期待できるそうで、Makuakeプロジェクトでは応援購入総額が1,000万円を超え、「日経トレンディ2024年ヒット予測ベスト30」で6位に選出されるなど注目度も高い。4月下旬に発売が予定されているが、多くの憂慮を払拭してくれそうな新スタイルのツールだけに動向が気になるところだ。