ユニフォームやセールスプロモーション、空間デザイン等、法人向けに幅広い領域でビジネスを展開するオンワードコーポレートデザイン。同社では2023年3月に「ONWARD Corporate Design Sustainable Digital Transformation(OSDX)」と名付けたDX推進プロジェクトを立ち上げた。 それから約1年が経った今、どのような成果が出ているのか。今回は、オンワードコーポレートデザイン リソースデザイングループ ビジネスプロモーションDiv. デジタルソリューション課の中村一成氏に話を伺った。
業界と組織、それぞれの課題をDXで解消
中村氏はまず、DX推進の背景にある課題を、法人向けサービスならではのものと組織由来のものに分けて説明した。
法人向けサービスにおける課題とは、購買プロセスの急激なデジタル化とそれに伴い、顧客との接点が失われ始めていることだ。従来、オンワードコーポレートデザインの営業活動は営業パーソンが主体だった。ほとんどの顧客は直接営業パーソンと接する中で情報を入手し、検討を経て契約に至っていた。しかし、現在は多くの顧客がWebサイトなどから情報を得る。逆に言えば、情報をWeb上で展開していない企業は顧客の目に留まらなくなってしまう。
懸念を抱いた中村氏は、社内の営業活動を可視化し、見込み顧客獲得から受注までのプロセスにおいて、どの分野に取り組めているのかを洗い出した。その結果、オンラインでの接点づくりや、自社サイトでの集客といったマーケティングの分野はほぼ未開拓の状態であることが判明。このままでは顧客との接点が失われてしまうという危機感を持ったそうだ。
では、組織由来の課題は何か。中村氏は以下の3つを挙げた。
1つ目は営業という軸での課題だ。前述のように、同社は営業パーソン主体の営業を得意としてきた。一方で、営業活動の可視化や営業情報の共有はあまりできていなかったと同氏は振り返る。
「会社全体では、それぞれが持つ営業の知識を活かし戦っていきたいと考えていますが、現場からすると、可視化や共有は手間になってしまいます。そうすることでどんな効果があるのかが見えづらいということもあり、なかなか自分ごとにならないという課題がありました」(中村氏)
2つ目は意思決定のタイミングに関する課題だ。同社では年に4回、事業毎に全社員が参加する事業会議で四半期ごとの振り返りや向き直りなど、今後の施策について話し合う。すなわち、振り返りや向き直りで問い直すタイミングをこの4回とする文化が醸成されてしまっており、リアルタイムでの判断や決断の有効性や実現性に目が向いていなかった。
3つ目はDX人材育成に関する課題である。中村氏によると、「アナログ文化への問題意識や課題感、危機感が欠如している傾向にあり、目指すべきゴールの設定が現状の延長線上でしかできていなかった」という。
これらの課題を踏まえ、同社は2023年3月、DXビジョンを策定し、OSDX計画を始動したわけだ。
コロナ禍の対応が、本来のDX推進を阻む
しかし、世間でDXの重要性が叫ばれるようになってから久しい。2023年からのスタートとは少し遅いのではないか。筆者の疑問に中村氏は「実は2019年に準備組織を立ち上げていた」と明かした。この時、オンワードコーポレートデザインとしてDXに取り組むため、これまでオンワードホールディングスが担っていた情報システムの役割を、新たにオンワードコーポレートデザイン社内に設置したシステム部門に移管したのだ。始動しようとしたその矢先、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生。システム部門は業務のリモート化への対応を最優先に取り組まざるを得なくなった。リモート化の対応が進めば、それに伴うペーパーレス化も必要だ。このように「コロナ禍に対応するためのDXをしていた」(中村氏)が、2022年、ついに「基幹システムの刷新プロジェクト」というかたちで、本来のDXが前進する動きを見せた。だが、このプロジェクトは見直しが入り白紙に戻る。
「基幹システムを刷新するためには、変革方針を定義する必要があります。その過程で持ち上がったのが、『我々が求めているのは、基幹システムを刷新することで得られる現場の効率化ではなく、データドリブンな経営ができる状態ではないか』という議論です。データ分析基盤が欲しいのに、基幹システムの刷新をすることに意味があるのかという話になり、このプロジェクトは見直されたのです」(中村氏)
こうして2023年3月、明確なDXビジョンが策定され、いよいよDX推進プロジェクトとしてOSDXが立ち上げられたのである。
初年度は3つの分野のDXに注力
オンワードコーポレートデザインではOSDXを2023年度から2025年度までの3カ年計画で進めている。OSDX1.0にあたる2023年度は「営業のDX」「業務のDX」「人材のDX」の3つに注力した。2024年度~2025年度はOSDX2.0、組織のDXとして、再度基幹システム刷新による業務変革を予定している。
営業のDXでは、従来強みとしている営業パーソンによる営業を強化するため、営業活動を可視化したり、情報を共有したりできるよう、SFAやCRM、BIツールの導入を進めている。これにより、リアルタイムで経営状態を可視化し、スピーディーな意思決定ができる環境を整える。また、BtoBマーケティングに力を入れるため、オウンドメディアやサービスサイトの整備、マーケティングツールや体制の整備にも着手。中村氏はこれを「『いつもの営業』の強みと、『デジタル』の強みを足し算したモデル」だと説明する。
業務のDXでは、脱Excelを掲げ、ツールのデジタル化、プロセスのデジタル化を進めている。これにより、業務の最適化、効率の向上を狙っている。
人材のDXは、全社員向けのアセスメントを実施し、自分のなりたい姿の設定を行った。これにより、学ぶべきことが見え、学習に向かいやすくなるというわけだ。また、部長職以上のメンバーを対象に、DX人材の活かし方を学ぶ場として年4回のDXセミナーを開催している。中村氏は「DX人材の育成には、会社や組織にとってのメリットだけでなく、個人のメリットも必要」だと話す。オンワードコーポレートデザインではスキル向上、キャリアアップの機会、柔軟な働き方の実現、組織内での影響力の向上の4つを個人のメリットに位置付け、それぞれに役立つ情報を発信している。
DX人材育成では“実践の場”を重視
同社が人材のDXの一環として行ったのが社内イベント「クリエイティブチャレンジ」だ。「学んだことの実践の場」だと中村氏が言うこのイベントでは、デジタルを活用した「会社を良くする取り組み」をテーマに3チームが自ら課題を設定、その解決策を立案し、プレゼンテーションを行った。同氏はこの取り組みを振り返り、次のように評価した。
「改善に向けた課題を洗い出し、具体的な施策立案を実現することができました。一方で、打ち手や、やりたいことに比重を置いた提案が多く、問題点や課題が解消されることでどのような成果が得られるのかの説明が弱かったと感じています。この点を解決するために今後は、ロジカルシンキング、デザインシンキングの手法の活用を検討しています」(中村氏)
このイベントで出た案については今後、プロジェクト化すべく、体制の構築や案件骨子の作成を進めていく予定だ。
また、部長職と希望した課長職以上のメンバーで行うセミナーでは、生成AIを使ったワークショップを採り入れた。DXビジョンやDX計画の立案に携わるメンバーに、キャンバスモデル作成のフレームワークをするための壁打ち相手として生成AIを配布したという。こちらも実践の場であることがポイントだと中村氏は話した。
KPI達成に向け、全社で同じ方向を
OSDXにおけるKPIは明確だ。中村氏が「DXの導入期間」だと位置付ける2023年度はDX人材の成長10%、オウンドメディア整備、新営業モデルの確立が挙げられている。DX人材の成長は、アセスメントの結果で判断するため、厳格な計測基準を設けているそうだ。
「DXの活用期間」にあたる2024年度はDX人材の成長50%、オウンドメディア起点の受注10%、データドリブン営業率20%を設定。2025年度、「全社的トランスフォーメーションを起こす期間」にはオウンドメディア起点の受注20%、データドリブン率50%を掲げる。
まもなく2023年度が終わりを迎える今、中村氏はどのように感じているのか。
「弊社全体がDXを推進する方向に向いており、“巻き込まれてくれる”人がたくさんいるので、すごく進めやすい環境ですし、上手く進んでいると感じています。各所と密にコミュニケーションがとれており、“やらされ感”が少ないのも、上手くいっているポイントではないでしょうか」(中村氏)
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コロナ禍による紆余曲折を経て、本格始動をしたオンワードコーポレートデザインのDX推進プロジェクト。同社が2025年度、どのようなトランスフォーメーションを起こすのか。大いに期待しながら見守りたい。