DNPと三重県桑名市は1月26日、行政サービス向上と窓口業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けて、自治体の行政事務を取り扱う役所機能をバーチャル空間内に展開するサービス「メタバース役所(仮称)」の実証事業を2月末に開始することを発表した。

同実証事業の開始に伴い、両者はメディア向けにバーチャル空間(メタバース)内での協定締結式と、「メタバース役所」の内覧会を開催。桑名市長の伊藤徳宇氏とDNP 常務執行役員の金沢貴人氏がメタバース空間に登壇し、同事業について説明した。

  • バーチャルの協定式の様子 左から伊藤徳宇氏とDNP 常務執行役員の金沢貴人氏のアバター

    バーチャルの協定式の様子 左から伊藤徳宇氏とDNP 常務執行役員の金沢貴人氏のアバター

メタバース役所で行う3つのこと

今回の実証実験は、メタバース役所を通じて、「行政が発信する情報やオンライン申請手続きの活用」「移動手段や時間の制約を取り除くことで相談や交流会への参加」の促進を検証するために実施されるもの。

これらを目的として開設された桑名市の総合窓口を模したメタバース役所では、市民が直接市役所などに行くことなく、自宅や遠隔地から電子申請手続きの問い合わせや各種相談、市民交流会などが実施できるという。

  • メタバース役所で提供するサービスのイメージ

    メタバース役所で提供するサービスのイメージ

具体的には、「電子申請手続きの総合窓口」「各種相談業務」「市民交流の場」という3点においてメタバース役所が活用されるという。

1.電子申請手続きの総合窓口

各種申請手続きの電子化をさらに推進するため、メタバース役所内に電子申請手続きの総合窓口を設置し、画面上で実際の申請画面を見ながら音声で記入方法や操作方法を案内することで、市民が迷うことなく電子申請を完結できるように支援する。

2.各種相談業務

桑名市では、生活・育児・教育・介護・母子/父子のひとり親・年金・税務」など、さまざまな分野の相談を対面や電話で行っている。メタバース役所では、物理的・心理的・身体的な制約を受けずに、こうした相談したい市民と相談員の2人だけで会話できる機密性が保たれた空間を提供する。また、メタバース内で自身の分身となるアバターを利用することで匿名性が確保されるため、市民がより相談しやすくなるようにして、課題の早期発見や解決につなげる。

3.市民交流の場

多くの自治体では、市民同士や市民と行政とのコミュニティ形成の一環で交流会などを開催しているものの、リアルな交流会は物理的な場所の確保や設営準備などの負荷が高く、実施の時間や回数が限られるなどの制約がある。これを踏まえて、メタバースでの交流会では、市民がどこにいても、また市役所の開庁時間以外でも参加できる仕組みとしている。

  • メタバース役所の内観イメージ

    メタバース役所の内観イメージ

2025年度に40自治体に導入

実証事業の検証観点としては、以下の4点が挙げられた。

  • インターネットやリアルの市役所と比較し自分に適した情報を得ることができ たか
  • 時間や場所の制約を感じず、相談や交流会に参加でき、コミュニケーションを 取ることができたか
  • 匿名での参加は対面やWEB会議ツールより話しやすく、本音を言うことがで きたか
  • 電子申請手続きのサポートを受けて迷いなく申請手続きが行えたか

両者は、これらの利用者と市役所職員の利便性、手続きの負担軽減、地域交流の活性化などの観点で効果検証を行うことで、誰一人取り残さないデジタル社会の実現を目指す構えだ。

今回、筆者も自身のアバターで協定締結式に参加したが、動かし方はシンプルで使いやすく、アバターでは伝えにくい感情を「アクション」という項目から選択できるのが分かりやすいと感じた。

これまでにメタバース空間で拍手や挙手ができるツールは使用したことがあったが、「地団太」や「敬礼」、「頭を抱える」など、ここまで多様な表現ができるものはなかなか用意されていることが少ない。これだけのアクションがあれば、オンライン上で起こりやすいすれ違いは起こりにくくなるだろう。

  • 筆者のアバターで「地団太」と「身構える」のアクションを行っている様子

    筆者のアバターで「地団太」と「身構える」のアクションを行っている様子

DNPは今回の実証事業を通じて、桑名市のDXを支援するとともに、さまざまな地域でも同様のサービスを展開することで、各地域の課題解決を支援し、2025年度に40自治体への導入を目指す。また、XR(クロスリアリティ)技術を活用した自治体業務の支援や住民向けサービスなどのラインアップ拡充や高度化を推進していきたい考えだ。