東日本電信電話(以下、NTT東日本)は1月24日、プライベートイベント「NTT東日本グループ 地域ミライ共創フォーラム2024」をNTT中央研修センタ(東京都 調布市)内のNTTe-city Laboにて開催した。イベントでは代表取締役社長を務める澁谷直樹氏が登場し、「循環型社会の共創~ICTとデジタルで実現する新しいミライのカタチ~」と題して基調講演を行った。

NTT東日本は「地域のミライを支えるソーシャルイノベーション企業」へと変貌中

澁谷氏が社長に就任して以来、同社は「地域の未来を支えるソーシャルイノベーション」を目標に掲げて事業を進めてきた。自然環境や食文化、祭りなど、その土地ならではの資源を生かした循環型社会の実現に向けた共創に注力している。

講演の冒頭、「最近は、『NTT東日本は通信事業者かと思ってたけど、何の会社なの?』と聞かれるくらいに、いろいろな事業に挑戦している。ただ、一つ明確なことは、地域の方々と一緒にその地域の課題解決や価値創造に取り組んでいるということ」と語り、笑顔を見せた。

  • NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員 澁谷直樹氏

    NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員 澁谷直樹氏

下図は、同社が目指す地域循環型社会のイメージである。この図によると、都市部では壁面の緑化やオフィスビルのエネルギー負荷削減、廃熱を再利用する空調など、都市部としてのサステナビリティを目指す。地方は地方で、各地域の気候に合わせた再生可能エネルギーの産出やその地域ならではの特産品を生かした産業の創出を目指す。地方の人手不足はデジタル技術やロボットなどで補う構想だ。このように、NTT東日本は各地域の特徴や特色に応じて循環型社会を目指す。

  • 地域ごとの特色を生かした循環型社会のイメージ

    地域ごとの特色を生かした循環型社会のイメージ

地域循環型社会の起点となるのは人材。地域の自然や地域の特性に応じて生み出される再生可能エネルギー、放棄地や廃校を活用した一次産業、ここにデータ分析やデジタル技術を加えることで、さらなる効率化を図るのだという。

  • 人材を起点とする循環型社会のサイクル

    人材を起点とする循環型社会のサイクル

「青森ねぶた」など、その地域ならでは価値を創出した3つの事例を紹介

ここで改めて、「地域の課題解決を超えて、新しい価値の創造にも挑戦する」と澁谷氏が強調した。

地方には豊かな土地がたくさんあり、農業や漁業がさかんに受け継がれてきた。しかし近年の人口減少と高齢化に伴って、次世代の担い手不足はどの地方でも課題となっている。NTT東日本は遠隔営農指導など、次世代園芸に資する技術で一次産業の生産性効率を上げながら、若い層が一次産業に挑戦できるよう人材育成も含めた支援を行う。

ここから、澁谷氏は地域の価値創出に取り組んだという3つの事例を紹介した。

事例1:青森ねぶたの魅力を国内外に発信

1つ目の事例は祭りだ。2022年のねぶた祭り開催に合わせて、ねぶたを3D映像としてライブ配信。準備段階から終了後までの地域の様子はアーカイブとして記録している。子供向けに開催したワークショップでは、国内外をオンラインでつないでねぶたの魅力を伝えるような取り組みを実施した。

  • 青森ねぶた祭りの事例

    青森ねぶた祭りの事例

事例2:農業の6次産業化

2つ目は農業。同社では現在までに100人以上の社員が農業専門のスタッフとして活動しているそうだ。スマートグラスを活用した遠隔営農指導や人材育成など、大小さまざまではあるが約50のプロジェクトを推進中だ。

「当社は農業でもうけようとしていない。農業のノウハウを全農や農研機構と磨くことで、たくさんの人が農業に参加できるようにしたい。6次産業化し、産業として大きくすることで農業を支えたい」(澁谷氏)

  • 農業の6次産業化の事例

    農業の6次産業化の事例

事例3:地域循環型社会の挑戦

3つ目の事例は、伊香保温泉がある群馬県渋川市を舞台とした地域循環型社会への挑戦だ。この地はもともと林業が盛んだったようだが、ここで出た未利用材や木質チップを用いてバイオマス発電を実施。この熱をシイタケ栽培やドライフード作りに活用しているという。テスラのバッテリーを導入して余剰の電気エネルギーも有効に活用している。

「テクノロジーですべての課題を解決できるとは思わない。テクノロジーはあくまで裏方として人を助けるもので、各地域の価値のベースとなるのはその土地ならではの特産品であり、民芸品や祭りである。それらの価値を上げていく取り組みをしたい」と澁谷氏は語った。

  • 未活用の資源を循環型社会に生かす事例

    未活用の資源を循環型社会に生かす事例

"通信事業者"だったNTT東日本がなぜ地域の価値創造に取り組むのか?

なぜ、通信事業者であるNTT東日本がこれほどまでに地域を主とした価値創造に注力するのだろうか。そこには、これまで地域密着型の営業スタイルを貫いてきた同社なりのアプローチがあるようだ。

産業革命以降、人口増加に伴って森林の減少や二酸化炭素排出量の増加、食料およびエネルギー確保の限界など、さまざまな課題が顕在化している。国の競争力が高まり、企業も利益重視の成長競争を続けている。生活スタイルも大量生産・大量消費へとシフトし、都市の一極集中が進んだ時期だ。

現代は急激な少子高齢化に直面しており、1950年には12.1人の若者で1人の高齢者を支えていたものが、2050年には1.4人の若者で1人の高齢者を支えなければいけないとの試算もあるとのことだ。こうした状況をどのように乗り越えるのかが課題となる。

以前であれば、都市部が豊かになることで周囲の地方はその恩恵を受けることができた。しかし昨今は都市でも人口減少が進んでいる。このような環境では、それぞれの地域が自立して循環型社会を形成する必要があるのだ。

地域ごとに企業や行政、地域の人々が力を合わせて持続可能な成長を遂げるべく、しかも各地域で異なる食や文化や自然環境を活用すべく、地域密着型の営業スタイルでNTT東日本は挑戦する。

  • 地域循環型社会への転換が求められる

    地域循環型社会への転換が求められる

澁谷社長「共感型の営業で新しい未来の仕組みを作りたい」

NTTグループが研究開発しているIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)やREIWA(Regional Edge with Interconnected Wide-Area Network)、LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)「tsuzumi」など、最先端の技術が同社の強みだ。社内に300人の研究開発者がいるという。

加えて、各地域の現場で汗をかく通信エンジニアが1万1000人、デジタル人材が5000人いるそうだ。また、地域密着型の営業スタイルを持つ地域コンサルタントは3000人、街づくりコンサルタントは400人。こうした人員をフルに活用しながら、地域ごとのサステナビリティに貢献するとしている。

  • NTT東日本は地域の価値創造に挑戦する

    NTT東日本は地域の価値創造に挑戦する

澁谷氏は「最近はNTT法の話題などもあるが、法律がどうあろうと、半官半民でユニバーサルサービスを維持するとともに地域に向き合い続けることは間違いなく当社のミッション。社員もそんなNTT東日本に憧れて入社する社員ばかり。地域密着型でフィールドでの実践、これを私たちの泥臭い持ち味としながら、共感型で皆さんと共に新しい未来の仕組みを作り上げていきたい」と聴衆に力強く訴えかけて、講演を結んだ。

  • NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員 澁谷直樹氏