「ChatGPT」が世間を驚かせて1年が経過する。その“出来”から、AIが仕事を失う/変えるという未来をグッと身近に感じた人も多いだろう。
AIが変える労働環境
ChatGPTをはじめとした生成AIは、生産性を高めるなどプラス効果が期待される一方で、仕事への影響も感じさせている。AIは複雑な形で経済に波及することが予想されており、実際の効果を予測するのは難しく、確信をもって言えることは人類の利益のために、AIの大きな可能性を安全に活用するための政策を立てる必要があるという。
国際通貨基金(IMF)が「AI Will Transform the Global Economy. Let’s Make Sure It Benefits Humanity」として、これからAIとどのように共存すべきかを考察している。
IMFが1月に発表したレポートでは「先進国は、新興市場や発展途上国より早期にAIのメリットと落とし穴を経験することになる」としている。
主な理由は、認知集約的な役割にフォーカスした雇用構造だからだ。高所得労働者とそうではない人の不平等が広がる可能性もあるが、AIによる生産性の向上が大きいことから多くの労働者の所得が上昇する可能性もある、と予想している。
IMFではAIが一気に仕事を置き換えるというより、人間の作業を補完する形を予想する。「世界の雇用の40%近くがAIの影響を受ける。これまで自動化とITは繰り返しの作業に影響を及ぼしてきたが、AIがこれまでと異なる点はスキルが高い仕事にも影響を与える点」と述べており、先述の先進国がAIの影響を受けやすいとのことだ。
チャンスも存在する
しかしチャンスもある。先進国の経済では約60%の雇用がAIの影響を受けるが、影響を受ける仕事の約半分がAIを取り入れることで生産性の改善などのメリットも享受できる。残りの半分は、AIが人間に代わって作業するため報酬が下がり、雇用も減るという。
新興国と低所得の国では、AIによる影響を受ける仕事の比率はそれぞれ40%、26%と推定している。直接、影響を受けることは少ないものの、これらの地域はインフラやスキルのある労働力が十分ではないため、AIの恩恵を活用するのに苦労するという可能性も指摘している。その場合、テクノロジーによる国家間の不平等のリスクが高まると警告している。
個人レベルでの影響も分析している。AIを活用できる労働者は生産性と報酬が上がり、活用できない労働者は後れを取るという「二極化」が起きる可能性がある。経験の浅い労働者はAIを活用して生産性を向上させることができるが、高齢の労働者は適応するのに苦労するかもしれない、とも記している。
また、AIを導入した企業は生産性が向上し、売り上げにも好影響が出ることから、高所得者に有利に働く可能性があるという。
「ほとんどのシナリオで、AIは全体的な不平等性をさらに悪化させる可能性が高い。政策を立案する人はAIが社会の緊張をさらに強くすることを防ぐべく、積極的に対処していく必要がある」と提言している。
AIドリブンのインクルーシブな世界
そのようなことから、IMFが提唱するのが「AIドリブンのインクルーシブな世界」だ。
IMFは「AI Preparedness Index」として、デジタルインフラ、人的資本と労働市場政策、イノベーションと経済の統合、規制と倫理についてAIの準備度を測定したインデックスを作成した。
例えば、人的資本と労働市場政策では、学校の就学年数や雇用の流動性、社会的なセーフティネットでカバーされている人口の割合などを評価している。「AIは世界中で急ピッチでビジネスに組み込まれており、政策立案者は行動を起こす必要がある」との見解を示している。