政府の情報収集衛星光学8号機を搭載した大型ロケット「H2A」48号機が12日午後1時44分26秒、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。衛星を所定の軌道に投入し、打ち上げは成功した。後継機「H3」初号機が昨年3月、電気系の異常で打ち上げに失敗しており、原因となった疑いがありH2Aに共通する要因について、同9月の47号機に続き、対策を施した。

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    情報収集衛星光学8号機を搭載し打ち上げられるH2Aロケット48号機=12日、鹿児島県南種子町(三菱重工業提供)

H2Aの連続成功により、来月15日のH3・2号機打ち上げに向けて弾みをつけた形だ。打ち上げを執行した三菱重工業の江口雅之執行役員防衛・宇宙セグメント長は会見で「信頼度が高まり、非常に大きなステップを得られた。H3へと邁進(まいしん)したい」とした。

H3初号機が2段エンジンに着火せず失敗した原因について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は昨年8月までに、エンジンの着火装置に絡むショートや過電流など、シナリオを3通りまで絞り込んだ。これらのうちH2Aに共通する要因について、47、48号機に絶縁処置や検査強化などを講じた。

H2Aの成功率は97.91%、2020年に運用を終えた強化型のH2Bと合わせると98.24%となった。政府が先月改訂した宇宙基本計画工程表によると、来年度に2回打ち上げて退役する。

情報収集衛星は安全保障や大規模災害対応などの危機管理のため、地上の状況を観測する。北朝鮮の軍事施設などを監視する事実上の偵察衛星とされ、性能は非公表。カメラを搭載した光学衛星と、電磁波を出してその反射を捉え、夜間や悪天候でも観測できるレーダー衛星の2タイプがある。

光学8号機は設計上の寿命を過ぎた6号機の後継機で、開発費は約372億円、打ち上げ費用は約118億円。運用する内閣衛星情報センターは「大型光学センサーの搭載により、分解能などの画質を大幅に向上した」としている。北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射など、日本を取り巻く安全保障上の懸念が高まる中での打ち上げとなった。

同センターは今月11日、情報収集衛星が撮影した能登半島地震の被災地の画像を公開した。安田浩己次長は「関係機関に速やかに配付したが、国民一般にもご覧頂くことが適切と考えた。被災者への対策に結びつくよう期待している」と話した。

特定秘密保護法で特定秘密とされ通常は公開しないが、これまでも衛星の性能が分からないよう加工した上で、鬼怒川の堤防(茨城県)が決壊した2015年の東日本豪雨、18年の霧島山・新燃岳(しんもえだけ=宮崎、鹿児島県)噴火などの際、発生地域の画像を公開してきた。

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    情報収集衛星が撮影した石川県輪島市中心部=5日午前(内閣衛星情報センター提供)

政府は光学、レーダー衛星各2基を維持し、地上の特定地点を1日1回観測できる態勢を整えている。観測運用中の衛星は設計上の寿命を過ぎたものを含め光学3基、レーダー6基(予備機1基含む)の計9基と、観測データを地上受信局に転送する「データ中継衛星」の1基。来年度にはレーダー8号機を打ち上げる。撮影頻度を高めるための衛星を加えた10基態勢を2029年度にも構築する。このほか、情報収集衛星に不測の事態が発生した際に代替となる「短期打ち上げ型小型衛星」の実証機を今年度中に打ち上げる。

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