生成AI旋風が吹き荒れた2023年。果たして、2024年はどのような技術がトレンドになるのだろうか?ハイテク企業の幹部に聞いた10のトレンド予測を紹介する。

10のITトレンドとは

1. 主役は引き続きAI、理論から実践へ

Dell TechnologiesのグローバルCTO、John Roese氏の推しはAI。とは言っても、2023年のブームとは違って、地に足が着いたものになりそうだ。

「生成AIはビジネスや世界をどのように変革するかという点で、創造的なアイディアを出してくれるが、現実の世界で生成AIが関連した活動で拡張性のある形で進んでいるものはない。2024年に向けて、生成AIを活用するエンタープライズレベルのプロジェクトの最初の波が起こり、初期に理解されていなかった生成AIの重要な側面を明らかにするレベルに達するだろう」(Roese氏)

2. ITとセキュリティチームが融合

セキュリティの重要さは増す一方だ。脅威は高度化する一方であるのに対し、システムは複雑になっており、管理にすら手を焼いている状態というところも少なくないだろう。

CrowdStrikeの欧州担当CTO、Zeki Turedi氏は、これまで分かれていたITとセキュリティの責任領域が融合していくとみる。

「ITインフラに直接影響を与えるセキュリティリスクが進化している」「インフラとセキュリティの両方を同時に狙う脅威が増加しており、統一された対応が求められている」とTuredi氏、両チームのコラボレーションのためにはテクノロジーとプラットフォームを共有する必要があるが、そのようなプラットフォームが台頭しつつあるという。

「ITチーム向けに特化した新しいサイバーセキュリティプラットフォームが登場しており、これを使ってIT運用とシームレスに統合できる。セキュリティ・インシデントの際にはリアルタイムの洞察と自動応答を提供することで応答時間を短縮し、全体的なセキュリティ体制を強化するように設計されている」(Turedi氏)

3. クラウド事業者とAIモデルの協業

生成AIは古いデータを使ってトレーニングされており、最新の情報に基づいていない。大手クラウド事業者(ハイパースケーラー)とAIモデルが協業することで、データ分析の分野が大きく変わると予想するのはAI向け半導体のSambaNova SystemsのCEO、Rodrigo Liang氏。

「リアルタイムのファインチューニングへのシフトが始まる。これによりモデルが現在のデータに対応して理解できるようになり、あらゆる産業でAIのアプリケーションが進化するだろう。高度なチップとハイパースケーラーのデータ機能が組み合わさることで強力なエコシステムが生まれ、マーケティング、広告、ヘルスケア、機構、銀行などの分野で、今日よりもさらに複雑なユースケースに対応する大規模なエキスパートモデルの開発が可能になる」(Liang氏)。

4. ゼロトラストへの新しいフォーカス

クラウドのセキュリティモデルとして注目を集めるゼロトラストだが、2024年はもう1つレイヤが加わるとSmartsheetのCISO兼セキュリティ担当上級バイスプレジデント、Chris Peake氏は予想する。

「例えば、役割ベースのセキュリティを追加することで、さまざまなタイプのユーザーに対して役割を定義して、それに応じたアクセスを管理できる」とPeake氏は説明する。

これにより、機密情報など守るべきものを保護しつつ、適切な人に情報へのアクセスの障壁を下げることができる。また、同氏は「生成AIはデータセキュリティを強化し、保護レイヤを追加するという点で大きな可能性を秘めている」と付け加えている。

5. IT投資におけるビジネス上の成果にフォーカスが高まる

IT投資から最大限の価値を引き出すことにさらなるフォーカスがなされると予想するのは、Lenovoの最高執行責任者兼戦略担当トップのLinda Yao氏。

例えば、収益増のためのIT投資なのか、経費削減のためのIT投資なのか、といった目的を明確にすることが求められる。

「ITの導入によりビジネスの成果を直接的にサポートし、推進することを重視するようなる。ビジネスと切り離してITを導入・維持するのではなく、顧客体験、持続可能性、処理能力といった指標に結びつけるようになる。結果として、レガシーインフラから次世代の技術への支出へのシフトが進む」とYao氏は述べている。

引き続き、AIに関連したトレンドが先行する

6. 量子技術は前進、だが起爆はまだ先

数年前から実装に向けて各社が取り組んでいる量子コンピュータだが、その時代にはもう少し時間がかかりそうだ。

Ciscoの最高戦略責任者兼アプリケーション担当ゼネラルマネージャー、Liz Centoni氏は、2024年はポスト量子暗号(PQC)が採用され、将来予想される量子攻撃からデータを保護するために従来のシステムと連携するソフトウェアベースのアプローチを取る動きが進む、と予想する。

「PQCは、ブラウザ、OS、ライブラリに採用され、先進的な人たちは暗号を管理するSSL/TLS 1.3のようなプロトコルに統合して実験を行うだろう。また、ポスト量子世界におけるデータ・セキュリティの確保を目指す企業にも、PQCが浸透し始める」(Centoni氏)

7. AI導入には人間のスキルが不可欠

CX(カスタマーエクスペリエンス)のやり取りの多くが依然として人の介在を必要としており、カスタマージャーニーの重要な部分である、とNTTの「2023 Global CX Report」は予想。

同社のCXサービス担当バイスプレジデント、Sashen Naidu氏は「5社に4社が、今後12カ月でCXにAIを組み込む予定」という予想を示しながら「企業が自動化がどのように人の能力を補完・強化できるのかに注目するようになるにつれて、AI実現に向けた課題であるスキル不足を解消することにスポットが当たる」と話している。

8. ソーシャルエンジニアリング攻撃が増加

CrowdStrikeのThreat Hunting Reportでは、80%の侵害が漏洩したIDを使っているという。同社のTuredi氏は、IDを狙った攻撃は2024年も脅威の主要な武器になるとみている。

「アンダーグラウンドから購入した脆弱な認証情報など、あらゆる形式の身分証明書や認証情報を使ってフィッシングをはじめ、ソーシャルエンジニアリングの手法を高めている。IDの保護は2024年、企業の保護にとって最も重要度が高くなる」(Turedi氏)

9. AIの進化によりエネルギー消費量が増加

気候変動は待ったなしの重要課題だが、AIは膨大な処理能力が必要であり、それにはエネルギー消費を伴う。CiscoのCentoni氏は、小規模なAIモデルを選択することで、一般的なシステムと比較してエネルギー消費コストを削減しようとするとの見立てだ。

加えて、「ソフトウェア定義型ネットワーキングと直流マイクログリッドで構成される電力システムの機能を組み合わせたエネルギーネットワーキングというカテゴリが急成長中で、これもエネルギー効率に貢献するだろう」と述べている。

10. AIリスク削減のためのガードレール策定

企業において、AI導入にあたってどのようなリスクがあるのか、どのような性質なのかなどについての認識が高まる。これにより、リスク軽減のために活動の幅を狭める動きが増えるだろうとLenovoの最高情報責任者兼シニアバイスプレジデントのArt Hu氏は予想する。

例として挙げるのが、RAG(Retrieval Augmented Generation)だ。これにより、LLM(大規模言語モデル)が権限のあるソースから結果を生成できるようになるとしている。

Hu氏は「トレーニングデータの品質と忠実性を確保し、トレーニング(人間のフィードバックに基づく強化学習)と最もデリケートなシナリオの推論の両方で、人をループに加えるなどの追加テクニックは、生成AIがもたらす拡張されたインテリジェンスのバランスをとる方法になる。AIが生成するコンテンツのテストと検証、システム全体のモニタリングの組み込みなどしっかりしたガバナンスのポリシー、プロセス、ツール導入に向けた動きは増えるだろう」と予測している。

一連の予測はTechnology Magazineのオンライン版が「Top 10: Technology trends for 2024」として挙げている。