近年、都市部だけでなく、地方でも急速にDXが進められている。特に、人口減少やそれに伴う労働力不足に悩む地域では、デジタルの力を借りた生産性向上などが強く求められているのだ。だが、地方の中小規模事業者にとってはDXにかかるコストや労力の負担が大きく、スムーズに推進するのはなかなか難しいというのが現状だろう。
こうした状況に、地方自治体として解を見いだそうとしているのが大分県だ。別府や湯布院といった観光地で知られる大分県では今、県を挙げてDXを推進している。2022年3月には「大分県DX推進戦略」を策定し、DX共創促進事業「湧く沸くDXおおいた」を進めたり、デジタルツールを提供するベンダーと連携協定を締結したりと、DXの裾野を広げる取り組みに注力しているのだ。
今回は大分県におけるDX推進の取り組みについて、大分県 商工観光労働部 DX推進課 主任の佐藤圭氏に伺った。
中小企業にとって、DXはまだまだハードルが高い
佐藤氏は「ビジネス環境が激しく変化する中で、デジタルの力を使って、ビジネスモデルや組織、カルチャーを変えていくことが必要だ」と説明する。
だが、商工観光労働部が半期に一度行う大分県内の企業訪問活動でのヒアリングにおいて、26.6%の企業はDXに取り組む予定が「ない」「未定」と回答している。県内の事業者は約99%が中小事業者だが、小規模な事業者ほど、DXに取り組めていないという回答が多い。その要因は人材不足、ノウハウ不足、資金不足などだ。自身も企業訪問活動を行った佐藤氏は「DXは成果が見えづらく、売上には直結しないので、そこにリソースを割けないのではないか」と語る。
こうした課題を解消するべく、大分県では県内事業者のDX推進を積極的にサポートしている。そこにあるのは、「デジタルの力で社会や地域の課題を解消し、暮らしをより良くしたい。県民の笑顔を生み出したい」という思いだ。
3つの軸で事業者のDXを推進、一方で課題も
大分県では県内事業者のDX推進を加速すべく、2022年7月にDX共創促進事業「湧く沸くDXおおいた」を始動し、参画企業の募集を始めた。同事業は主に、DXに関するセミナーの開催、事例を創出することに同意した事例選定企業による事例づくり、DX化を希望する企業へベンダーやコンサルティング会社などを紹介するマッチングの3つの活動から成る。将来的にはこの事業を通じ、DXに関するコミュニティを生み出すことを目指しているという。運営初年度となった2023年はDXに取り組むことを宣言した「DX宣言企業」が88社、事例選定企業が10社、DX支援企業が82社集まった。
この成果について佐藤氏は「あえて反省を踏まえて話すと」と切り出した。同氏によると、湧く沸くDXおおいたのセミナーやコミュニティに参加する企業は「県内でも体力のあるところ」であり、すでにある程度のデジタル化ができていて、さらにDXを進めていこうという企業なのだ。一方で、県内事業者の多くはまだ、デジタル化にも至っていない。
このような課題を解決するため、大分県では2023年10月、中小企業などのデジタルスキル向上を支援する事業として「デジスキ」を立ち上げた。この事業では、クラウドサービス導入に関する費用補助を行うことに加え、サービス導入後のセットアップから使い方の指導などを含めた伴走支援を現地あるいはオンラインで実施する。すでに複数回の説明会が開催されており、サービスへの多数の申し込みがあるそうだ。
県自体のDXも強力に推進
県内事業者のDX推進を支援する大分県だが、県庁内の業務に関するDXにも積極的だ。その1つに2023年から県が進める「アナログ規制の見直し」がある。
行政の仕事の多くは条例により、さまざまなルールが定められている。例えば、書面により発行した証明書等を、特定の場所に提示することを求めているといったものだ。もちろん条例違反になってはいけないが、果たして今の時代にアナログである必要があるのかを見直そうというのが、この取り組みだ。実際、大分県ではアナログ規制点検対象962件のうち、約300件のアナログ規制に係る条例・規則等の改正を予定している。
「行政が県民や県内事業者にDXを勧めているのに、自分たちはアナログのままというわけにはいきません。その点でも、県自体のDXを強く推進しています」(佐藤氏)
LINE WORKSでコミュニケーションの円滑化を
さらに大分県では、県内の中小企業などのデジタル化推進のため、ビジネス現場のコミュニケーションツール「LINE WORKS」を提供するワークスモバイルジャパンと、2023年3月に包括連携協定を締結した。今後、県認定のコミュニケーションツールとしてLINE WORKSが県内事業者に推奨されるようになる。
LINE WORKSを選定した理由について佐藤氏は、ユーザーの使い勝手の良さや、一定アカウント数以下は無料で利用できる点などに加え、セキュリティ面での安全性の高さを挙げた。活用によって、県内事業者のデジタル化の促進や、コミュニケーションの円滑化、地域社会の活性化などを期待しているという。
もちろん、県でもLINE WORKSを積極的に活用している。メインとなるのは県職員と外部との対外的なコミュニケーションの場だ。例えば、農業生産者とJA職員、県職員がつながる営農指導のグループでは、頻繁に発生する契約周りの書類回収や、イベント開催に向けた進捗確認などが、LINE WORKSでやり取りされている。利用者からは「一度使い始めたら、もう元(のコミュニケーション方法)には戻れない」という声が上がるほど、好評だという。佐藤氏によると現在、県職員のアクティブユーザーは400名を超えており、対外的なコミュニケーションをするためのグループも150以上あるそうだ。
佐藤氏は、大分県が進めるDX支援について次のように語った。
「我々DX推進課は、企業の“在りたい姿”の実現に向け、後押しをする存在です。そのためには、デジタルツールだけでなく、幅広いソリューションに目を向ける必要があります。県民の皆さまの在りたい姿が実現し、喜んでもらえるよう、今後もありとあらゆる手段を用意していきたいです」(佐藤氏)