米Adobeは12月18日(現地時間)、デザイン共同編集ツールを提供するFigmaの買収を撤回すると発表した。欧州の規制当局が、この取り引きはデザインツール市場の競争を阻害する恐れがあるという強い懸念を示しており、AdobeとFigmaは買収が承認を得る見込みがないと判断した。

Adobeは2022年9月にFigma買収を発表した。買収総額は約200億ドルで、これは2018年のAdobeによるMarketo買収(マーケティングオートメーション:47億5000万ドル)を大きく上回る。同社は2023年に取り引きが完了する見通しを示していたが、AdobeにはFigmaと競合する「Adobe XD」があり、Figmaとの合併取引に関して規制当局が懸念を示す動きが相次いだ。また、デザイナーコミュニティからも、Figmaの繁栄を支えるコミュニティ精神が失われる可能性など懸念が広がっていた。

Adobeは、クラウドベースで完結するFigmaに対して、XDはデスクトップアプリケーションの要素が強いハイブリッドソリューションであり、市場が異なると指摘している。合併後もFigmaを独立して運営する考えを強調し、Figmaのコミュニティやカルチャーは保たれ、より多くがデザイン共同編集ツールを利用する市場の活性化につながると指摘していた。

英国の競争市場庁(CMA)は11月に、買収が製品デザイン・ソフトウェア市場に悪影響を及ぼすという暫定判断を下し、Adobeに対して買収スキームの見直しを求めた。しかし、競争条件を回復するための資産の売却を求めるCMAの提案をAdobeは拒否した。また、欧州委員会も買収が競争を阻害する可能性の調査に乗り出していた(Adobeの発表を受けて、調査を取り下げた)。

Adobeは合併契約取引の終了に関する発表の中で、「合併のメリットと競争を促進する利益を引き続き信じている」と強調している。だが、規制当局からの承認に関して、欧州委員会とCMAと合意する方法を見いだせないと判断し、取引を終了することで相互に合意した。両社はすでに契約解除契約に署名している。Adobeのシャンタヌ・ナラヤンCEOは「独立して前進することがそれぞれの最善の利益になると信じている」とコメント。Figmaのディラン・フィールドCEOは、「世界中の規制当局と何千時間も費やして、両社の事業、製品、サービスを提供する市場の違いを詳しく説明したにもかかわらず、この取引が規制当局の承認を得る道は見えない」とコメントしている。