ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)は、2018年から2020年までの3年間をかけて、オンプレミス型がメインだったシステム基盤をフルクラウド化した。それを主導した同社 IT本部 本部長 グループエグゼクティブの金子俊一氏は「IT戦略はIT部門がリーダーシップを持って進めることが重要」だと語る。
12月6~7日に開催された「TECH+フォーラム クラウドインフラ Days 2023 Dec. クラウドネイティブへのシフト」に、DeNAの全てのITインフラを管掌する同氏が登壇。フルクラウド化に際しての意思決定の背景を紹介するとともに、IT戦略の立案と実行のために重要なことについて解説した。
システムの継続稼働のために必要な“QCD”
講演冒頭で金子氏は、DeNAがエンターテインメントと社会課題の両軸で事業を展開しており、ゲームやライブストリーミングからスポーツ、ヘルスケア、メディカルまで、提供するサービスもバリエーションに富んでいることを紹介した。グループ全体のITを横断して管理しているIT部門としては、サービスごとに考慮すべき点が異なるところに苦労しているという。
こうした多様な事業を継続するためにはシステムを動かし続けなければならない。同社ではそのためには“QCD”、つまり品質(Quality)、費用(Cost)、提供(Delivery)の3つが必要だと定義している。質が良くてもコストが高ければ維持できないし、提供が遅れれば使えない。金子氏は「この困難なミッションをエンジニアリングで実現するのがIT部門の仕事」だと述べた。
自組織にとって今、必要なことが最適解
では、IT部門が目指すべき“ITの最適解”とは何か。それは、自組織のITにとって今、必要なことだ。既存事業の成長加速や主要事業の効率化、新規事業の立ち上げなど、組織によって重視することは異なるし、経営資源や事業の状況も常に変化する。
「これらの状況に対して今、必要なことがITの最適解であるはずです」(金子氏)
その最適解を考えて実現する、つまりIT戦略の立案とその実施を行うのは、自組織のITやシステムを最も理解しているIT部門に他ならない。
DeNAの最適解はフルクラウド化
DeNAは2018年にフルクラウド化に踏み切った。現況を認識したうえで、それが最適解だと判断したためである。当時、同社はメインのシステム基盤をオンプレミス環境で利用する一方で、海外事業では短期間でのサービス提供を実現するため、時間を要するオンプレミスではなく、パブリッククラウドを利用していた。また、オンプレミスについては納期の長さという弱点があったため、その出口戦略としてオンプレ型のプライベートクラウドも使い始めていた。
事業サービスが多様化したことで課題も抱えていた。例えば、ゲームとヘルスケアでは求められるセキュリティも従うべき法制も異なるなど、非機能要件も多様化する。システム基盤はサービスに応じて選択していたので、ベアメタル、仮想化、プライベートクラウドなど、システム基盤や技術要素も多様化し、技術課題が各所で散発、トータルコストも増加した。その対応のためにエンジニアリング工数も分散し、逼迫していたという。そこで、品質とコストを維持し、限られた工数と人材の流動性を維持することを必須の条件としながら、次期システム基盤を検討することになったという。
QCDを最大化するために、IaaSをメインとして使い倒す
この条件をクリアする最適解としてたどり着いたのがフルクラウド化だったが、このときいくつかの大きな意思決定をしたという。まず、ポリシーを適材適所から全体最適、選択と集中へと変え、その集中する先としてパブリッククラウドを選択した。
「単にパブリッククラウドを使うだけでなく、IaaSをメインとして使い倒そうと決めた」(金子氏)
それはQCDを最大化するためだったと同氏は説明する。IaaSであれば既存のオンプレの運用ノウハウをそのまま活用でき、高品質のシステムを構築できる公算が高くなる。DeNAはクラウド会社ではなく事業会社なので、事業開発やモノづくりに専念すべく、この選択をしたそうだ。
金子氏は、この移行プロジェクトを3カ年計画として立案した。クラウドの長所である“Delivery”を活かしつつ、短所の“Cost”を克服するために、仮説を立てて検証、評価するという入念な準備を行えるよう、3年という計画にした。
「クラウドありきではなく、課題を認識、分析して最善の答えとして結果的に導かれたのがフルクラウドだったのです」(金子氏)