NetAppは10月中旬に米国ラスベガスで年次カンファレンス「NetApp INSIGHT 2023」を開催した。同カンファレンスは、筆者としては従来のNetAppの印象からは異なる姿が見えていた。今回、米NetApp CMO(最高マーケティング責任者)のGabrielle Boko氏にカンファレンスを総括してもらうとともに、同社のマーケティング戦略に関した話を紹介する。
“幅広さ”を意識した「NetApp INSIGHT 2023」
--「NetApp INSIGHT 2023」を振り返ってみて、いかがでしょうか?
Boko氏(以下、敬称略):ジョージ・クリアンCEOがデータの話をするときは「インテリジェントデータインフラストラクチャ」という概念がベースになっています。過去を振り返れば、われわれのイノベーションは基本的に「データファブリック」を中心としていました。
これからの25年は、これまでさまざまな領域で進展を遂げてきたNetAppのポートフォリオを活かしていきます。これにはクラウドサービスや従来からのストレージ、ユニファイドストレージなども含まれます。また、AIやセキュリティ、サステナビリティをはじめ、われわれのポートフォリオに与える影響も駆使していきます。
だからこそ、INSIGHT 2023におけるメッセージは新しいユニファイドデータストレージのデータ戦略と打ち出しているのです。地球上で最もセキュアなストレージを謳っており、その上にNetAppが乗るというイメージです。
サブスクリプションサービスの「NetApp Keystone」はシンプルさが反映されており、今後25年のイノベーションを見据えたときに、お客さまが当社からどのようにソリューションを購入するのかということがカギになります。シンプルにしていくことを考えたときに、as a Serviceで購入できるということは重要なポイントになります。
--4年前の「NetApp INSIGHT 2019」と比べると、NetApp INSIGHT 2023における初日の基調講演は製品の発表というよりは、将来的なビジョンを語るなど従来とは異なり、強く印象に残りました。
Boko:5年ぶりに大型のリアルイベントをラスベガスで開催し、これまでとは異なるNetAppを打ち出していこうということを意識していました。ビジョンの話やプロダクトの話、パートナーの話もするなど“幅広さ”ということに注力しました。
そして、新しいブランドである“インテリジェントなデータインフラストラクチャカンパニー”であることも意識していました。過去3年にわたり、お客さまやパートナーとのコミュニケーションが最適な環境ではありませんでした。
今回のタイミングを上手く活かして、改めてNetAppという企業がどういう企業なのかということを幅広い視点から紹介しました。会社の設立から30年が経過し、これからの30年間も存在していくということを示せたかと思います。この5年間を見ても、NetAppのポートフォリオは大きく変化しています。
お客さまやパートナー、マーケットからは、なぜCloudOps(クラウド運用)を導入したのか?なぜクラウドストレージをやるの?など、さまざまな問いかけがありました。そのため、われわれは今回のカンファレンスを通して理由を知らせるチャンスだったのです。そして、ロードマップを認知してもらう機会となりました。
NetAppは、とにかくお客さまを中心に据えることに注力しています。お客さまをメインに考えるため、目線を合わせています。製品ですと内向きな話も多いことから、お客さまにフォーカスすることで、重要なポイントに目を向けることができます。
データがエキサイティングであることを体感してもらう
--確かにパートナーなどの展示スペースを見ても、イベント自体を「楽しむ」という意図が伝わってきました。
Boko:それも意識しています。データをプロダクトとして扱うことは難しい話になりがちなので、あえてイベントを通してデータがエキサイティングであることを体感してもらいたいと考えました。
そのため“データフェスティバル”という概念で開催しました。これからも、こうした取り組みは続けていきたいと思います。データに関して、ワクワクしながら学びたいと言ってもらえるのは嬉しいことです。
これをきっかけにお客さま同士で話をしたり、1 on 1のセッションも増加したりしました。NetAppの歴史で最も来場者が多いカンファレンスになりました。来場者としてもオンライン(2000人)を含めると6000人以上が来場しました。
優れたマーケティング戦略は優良なブランドを打ち出すこと
--話は変わりますが直近1年間で生成AIが盛り上がり、データ処理のニーズが高まっています。こうした状況下において企業がAIを活用する際に、どのような点で競合他社にはない強みがありますか?また、データドリブンマーケティングについて教えてください。
Boko:ご存知の通りAIのベースにはデータがあります。そのため、データを活用するためには、データの整合性を担保しなければなりません。ここで言うデータというのは構造化データ、非構造化データを指します。このようなことからAIのベースになっているのはデータであり、NetAppが支えています。
データドリブンについては、お客さま自身がAIも含めてデータドリブンマーケティングをけん引していくことが望まれます。NetAppが代替するわけではありませんが、AIは各事業部門に影響を与え、もちろんマーケティングも該当します。
例えば、NetApp社内においてもAIをマーケティングのデータに活用しているため、ベストプラクティスを持っています。こうしたベストプラクティスをお客さまやパートナー、テクノロジー産業に対して適用できると思います。
--グローバル、日本における今後のマーケティング戦略について教えてください。
Boko:まず、マーケティング戦略として最も重視していることが、可能な限りお客さまの身近な存在になることです。
ブランドメッセージは、先ほども述べたようにインテリジェントデータインフラストラクチャです。これは、過去に打ち出したメッセージにお客さまが満足していなかったという背景があります。お客さまが興味を持つ分野、それはお客さま自身が現在どのような課題に直面しているのか、ということに触れるようなメッセージでした。
どの企業も同じだと思いますが、優れたマーケティング戦略は優良なブランドを打ち出すことであり、需要を創出することです。NetAppが最上位で掲げているものは何度も言っていますが、インテリジェントデータインフラストラクチャで、これを絞り込んでいくと個々のお客さまのニーズを満たしていかなければなりません。
現在、マーケティング戦略を大きく変更し、マーケティングのリソースの半分は各地域のニーズに注力することにしました。これは会社としてブランドの認知向上を図るとともに、日本を含めた各国のニーズを認識しながらブランドを根付かせようという意図があります。
日本に関してですが、NetAppはNAS(Network Attached Storage)について相当ローカライズをしています。そのため、今後も日本におけるニーズを掘り下げていくことがブランド的にも非常に重要となってきます。
こうした視点から当社は、インテリジェントデータインフラストラクチャを提供できるのだという認識を持ってもらいたいです。日本のお客さま側からもニーズに対応してほしいという声もありましたので、お客さまのニーズを反映させています。お客さまを中心に全社でブランディングに取り組んでいきます。