「学生時代の一番の思い出はなんですか?」と聞かれて、「文化祭」と答える人は少なくないはずだ。期間限定で超絶な人気を得る学生バンドのステージや、冷凍食品なのになぜかおいしい屋台の食べ物、怖いというより物理的に痛いお化け屋敷など、人それぞれいろんな思い出を大切に持っていると思う。普段は関わらない先輩や後輩と交流できることも文化祭の魅力の一つだ。

かく言う筆者も高校3年生時の文化祭で、クラスの出し物の準備期間中に「キニナルアノコ」と急接近して交際に発展し、「セイシュン」という言葉の意味をそのとき初めて知った。俗に言う「文化祭マジック」に浮かれてしまった筆者は、その後1年間の浪人生活を余儀なくされた。

どんな形であれ、文化祭は、勉強ばかりの単調な日々に、彩りを与えてくれる特別なイベントに違いない。嗚呼、1日だけタイムスリップできるなら高校生の文化祭のあの日に戻りたい……。

チームラボの文化祭に潜入

そんなどうしようもないことを思っていたところ、あの有名なイーロン・マスクさんが電撃訪問したことで話題になった『チームラボプラネッツ TOKYO 豊洲』を作ったチームラボが「文化祭のような社員旅行を行う」という噂を耳にした。

その社員旅行は9月30日~10月1日の2日間、山梨県の富士河口湖町で実施されるみたいだ。全社員約1000名のうち、社員の家族も含め400人以上が参加し、23年入社の新入社員約100名がイベントを企画し、運営を担当するらしい。

筆者の稚拙な願いをかなえさせてくださいと担当者にお願いし、特別にチームラボ一行に同行させてもらえることになった。よしあのワクワクする気持ちを再体験するぞ。

人々の心を魅了し続けるアート集団の文化祭とは一体どのようなものなのだろうか。「大人の文化祭」に潜入してみた。

  • チームラボの文化祭「ラボフェス」の様子

    チームラボの文化祭「ラボフェス」の様子

サーキット創造競争で共創を

東京都千代田区にあるチームラボ本社に集合した社員たちはまず、9台もの高速バスで富士河口湖町の町民体育館へと向かった。

最初のイベントは、普段関わることの少ない社員同士の交流を深めるグループワーク。このグループワークでは、タミヤ製動力付き自動車模型が走るコースを段ボールやクリアファイル、割りばしなどの材料で作り、課題をクリアして高得点を目指すといったもの。

  • グループワーク「 Labtic HighWay ~ラボティック・ハイウェイ~」の様子

    グループワーク「 Labtic HighWay ~ラボティック・ハイウェイ~」の様子

高得点を叩き出すためには、橋や坂、ジャンプ台、カーブといったさまざまなコースを作ってコースに高さを出したり、より多くのチェックポイントを作ったりする必要がある。コースを作る時間は1時間。何度でも試走はできるが、計測の本番は一度きり。1チームあたり約6人のチーム約50組が得点を競い合った。

  • 自動車模型を整備する担当者もいた

    自動車模型を整備する担当者もいた

印象的だったのは、コースの形が十人十色だったこと。シンプルにカーブや高低差をたくさん作ってチェックポイントをたくさん通ろうとするチームや、無限ループする円形のコースを作って何度もチェックポイントを通過する仕組みを利用するチームなど、それぞれの戦略を形にしていた。目を輝かせて試行錯誤している大人たちの様子は、まるで少年少女のようだった。

  • カーブをたくさん作るチーム

    カーブをたくさん作るチーム

  • 無限ループする円形のコースで高得点を狙うチーム

    無限ループする円形のコースで高得点を狙うチーム

  • 優勝チーム。結果発表の瞬間

    優勝チーム。結果発表の瞬間

いざ、夜の文化祭へ

グループワークでの熱戦後、チームラボ社員一行は富士山が見える温泉で一息。その後に向かった先は、富士五湖最西の湖である本栖湖に面した富士山が目の前にある宿泊施設。

  • 「夜の文化祭」会場マップ

    「夜の文化祭」会場マップ

貸し切り状態の会場で「夜の文化祭」が開催された。ライブステージや屋台グルメ、ボードゲーム、手持ち花火など、お祭りを感じられるさまざまな企画が用意されていた。

体育館のステージでは音楽ライブフェスが行われ、ロックバンドやダンス、DJ、弾き語りなど、社内屈指のアーティストたちによる圧巻のパフォーマンスが披露された。

  • 社内屈指のアーティストたちによる圧巻のパフォーマンス

    社内屈指のアーティストたちによる圧巻のパフォーマンス

  • 音響機材も本格的

    音響機材も本格的

屋台グルメは、焼きそばやたこやき、焼き鳥など、文化祭らしい食べ物が提供されていた。「道頓ぼりぼり堂」や「まんまる食堂」など店名のセンスも光っていた。

普段は関わる機会が少ない同僚たちと一緒にバーベキューをしたり、手持ち花火ではしゃいだり、ボードゲームに興じたり、焚き火を囲んだりと、各々が好き好きに夜の時間を楽しんでいた。

今回の文化祭の準備は決して順調に進んだわけでなはい。まず、運営者の新入社員たちは参加者集めに苦戦した。当初の参加人数の目標は300人だったが、チャットツールやメールで告知しても反応がないのはいつも通りだったという。

そこで、このイベントのためだけの特設サイトを作成したり、チラシを配布したり、飲食付き説明会を開き不参加層に不安払拭をアピールしたり、さまざまな広報活動を通じて参加者を集めた。努力が実を結び、最終的には目標人数以上の406人が参加した。

  • 社員旅行のための特設サイトを作成

    社員旅行のための特設サイトを作成

運営リーダーを務めた佐藤里杏人さんは「参加した社員の方からも今までで一番楽しい旅行だったと声をかけられた。大成功したと思います。また旅行後にアサインされた案件で、旅行で共に働いた新卒の人と仕事する機会があり、スムーズに仕事を始める事ができました」と、笑顔を見せてくれた。

  • 新入社員でイベントのリーダーを務めた佐藤里杏人さん

    新入社員でイベントのリーダーを務めた佐藤里杏人さん

社員旅行の狙いは「垣根を超えた交流」

チームラボはなぜ、これほどまでに社員旅行に力を入れるのだろうか。取締役の堺大輔さんは「普段会わないメンバーと会って、イベントを通じてどういう人かを知る。そこで得たつながりを、本業のものづくりに生かしてもらいたい」と狙いを語る。

  • チームラボ 取締役の堺大輔さん

    チームラボ 取締役の堺大輔さん

チームラボと聞いて、多くの人がぱっと思い浮べるのは、アート施設の「チームラボプラネッツ」ではないだろうか。しかし、同社はこういった空間演出事業だけでなく、Webサイトやアプリ、インフラの構築・保守運用などさまざまなソリューション事業を手掛けている。例えば、三菱UFJフィナンシャル・グループのカードアプリや、三井ショッピングパークのアプリ、サイネージ型の自動販売機「acure pass」などは、チームラボが開発したものだ。

そんなチームラボの特徴とも言えるのが「営業を行わず、売上目標も持っていない」こと。約1000人の社員のうち70%がエンジニアであり、10%がデザイナー、カタリスト(触媒役)と呼ばれるプロジェクトマネージャー的な存在が15%といった割合で、バックオフィスメンバーはごく少数。カタリストが社内のさまざまな専門家を集めてチームを組み、受注案件を進めていくスタイルだ。

堺さんは、「社内にどんな人がいるのかを知っておくことは非常に大事です。そしてものを作るときが一番人を知ることができる。そういった垣根を超えて交流させるのが社員旅行の狙いです。特に新入社員にとってはいい機会になるはずです」と語っていた。

  • 社員旅行の運営を担当した新入社員たち

    社員旅行の運営を担当した新入社員たち

部外者であるにもかかわらず筆者を温かく迎え入れてくれたチームラボのみなさん。冒頭の願いごとを撤回させてほしい。もし1日だけタイムスリップできるなら、2023年9月30日に戻りたい。