I'ROM GROUP(以下、アイロムグループ)とNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は11月29日、治療薬の開発期間短縮などを目的とする協業を開始することを発表し、記者向けの説明会を開いた。

両社はこの協業の第一弾として、NTTドコモのdポイントクラブ会員のうちプレミアパネル会員約700万人に対し、治験情報の提示や治験参加者(被験者)の募集を実施する。プレミアパネル会員の属性に応じて、新薬に関する情報提供や治験に参加可能な医療機関の紹介を行うことで、被験者の早期確保を狙う。

将来的には、アイロムグループが提携する全国4500超の医療機関の連携と、NTT Comが提供するICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)ソリューションを融合して、治験期間の短縮や業務の効率化と品質向上に取り組むという。

  • NTT Comとアイロムグループが連携を開始する

    NTT Comとアイロムグループが協業を開始する

海外の承認薬が日本で使えない「ドラッグ・ラグ」が課題に

2021年時点で世界で売上上位となっている医薬品300品目を見ると、うち53品目が日本で上市されておらず使用できない状況だ。また、欧米で新たに承認された医薬品で、日本では未承認となっているものは約7割相当に上るという。このように、国外と比較して日本では新薬が使えないドラッグ・ラグやドラッグ・ロスが懸念されている。

その要因の一つとなっているのは、日本で実施される治験や臨床試験の長期化だ。特に被験者確保の遅延が顕在化し、治験全体の長期化につながっている。製薬会社の視点から見ると、日本での治験実施は海外と比較すると長期化とコスト増大がリスクとなり得る。

  • 被験者募集の遅延が課題となっている

    被験者募集の遅延が課題となっている

日本における被験者募集の課題は大きく2つ挙げられる。1つは治験に関する情報提供の手段が限られるために、本来であれば治験に参加可能な患者を取りこぼしていること。そしてもう1つは、特にがんや希少疾患の分野において、主要都市の病院や大学病院での治験実施が中心となるため遠方からの通院が困難となることだ。

  • 被験者募集の遅延につながる要因

    被験者募集の遅延につながる要因

アイロムとNTT Comの連携により被験者募集を活性化

被験者募集において課題となる情報提供手段の少なさに対して、アイロムグループとNTT Comはdポイント会員のプレミアパネルを対象に、本人の同意の上で治験情報の提供と被験者募集を実施する。生活圏や会員の属性に応じて適切な情報を提供し効率的に潜在的な被験者の掘り起こしをしながら、治験実施機関へ誘導により治験期間の短縮を目指す。

プレミアパネルとは、dポイントクラブ会員に対しアンケート形式のプロモーションやリサーチを行うサービス。目的や用途に合わせて、性別や年齢層など属性情報によってセグメントを分けながら調査が可能。今回は許諾を得た患者を対象に治験情報を提示する。

  • 治験情報の提供を実施する

    治験情報の提供を実施する

もう一方の課題である、遠方からの治験参加が困難な点については、NTTグループが持つICTソリューションを活用する。具体的には、オンライン上で治験への参加同意を取得できるeConsentの仕組みや、全国の医療機関をつなぐネットワークの構築などだ。必ずしも大きな病院に通院しなくても、近隣のかかりつけ医のもとで治験に参加できるような体制を目指す。

加えて、ePRO(electric Patient-reported-outcome)も活用する。ePROとは、スマートフォンなどを活用して電子的にアウトカム(治療経過や症状に関する患者の主観的評価)を収集する仕組み。タイムリーな情報収集を支援するとともに入力漏れを軽減し、信頼性の高いデータ取得と治験業務の効率化につなげる。

また、NTT Comは院内の治験データを保護するセキュリティ対策も支援するようだ。合わせて、アイロムグループが提携する全国の医療機関の(デジタルトランスフォーメーション)を促し、オンラインでの治験を実現するようなICTソリューションの導入を進めるとのことだ。

  • ICTで医療機関のDXを支援する

    ICTで医療機関のDXを支援する

NTT Comは今後、医療情報など機微な情報を管理するためのプラットフォーム「Smart Data Platform for Healthcare」も活用する。アイロムグループとも協力しながら医療機関同士のデータ連携と利活用を強化する方針だ。

NTT Comの執行役員を務める福田亜希子氏は「まずは治験情報が受け入れられやすい環境を作って、患者個人が医療情報を適切に入手して治療方針を選択できるような世の中を目指したい。国内の患者さんが最新かつ最良の治療を選択できる世界、ひいては持続可能な医療の実現に貢献したい」と展望を語っていた。

福田氏によると、プレミアパネルにとっての最大のメリットは医療情報へアクセスする選択が増えること、そして、居住地から離れた病院で実施している治験にも参加できるチャンスが生まれることだという。なお、dポイントの付与などは倫理上の課題もクリアする必要があるため、今後の検討材料となるそうだ。

  • NTT Com 執行役員 ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部長 福田亜希子氏

    NTT Com 執行役員 ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部長 福田亜希子氏

またアイロムグループの代表取締役社長である森豊隆氏は、NTTグループと連携する意義について、「これまでは医療機関や被験者を募集する企業を通じて情報を発信していたので、患者さんが情報にアクセスするまで時間を要していた。ドコモグループと連携することでdポイント会員に直接情報を発信できる点が最大の魅力であり強み」とコメントしていた。

  • アイロムグループ 代表取締役社長 森豊隆氏

    アイロムグループ 代表取締役社長 森豊隆氏