企業が直面するビジネス環境の変化や人材不足といった課題を解決し得る手法として注目を集めているのがローコード/ノーコード開発だ。これにより、従来であれば外注していたアプリ開発を業務担当者自身が行い、内製化を実現させることで、業務効率化や新たなイノベーション創出につながる可能性も広がる。

では、ローコード/ノーコード開発を成功させるためには、どのように取り組むべきなのだろうか。

10月19日に開催された「TECH+セミナー ローコード/ノーコード開発 Day 2023 Oct. 自走で差がつくビジネス戦略」にアイ・ティ・アール(以下、ITR) シニア・アナリストの入谷光浩氏が登壇。ローコード/ノーコード開発による“市民開発”を成功させる方法について語った。

背景にある急速な変化と課題

ITRは企業や組織におけるIT課題の解決とビジネス成長、イノベーション創出などを支援するリサーチ&コンサルティング企業である。中立性や客観性を重視し、豊富なデータとアナリストの知見に裏打ちされたアドバイスを提供している。

そんなITRでシニア・アナリストを務める入谷氏は、現状のビジネス環境を次のように分析する。

「特にコロナ禍以降、DXやデジタルシフトの浸透、新しいワークスタイルの定着、生成AIなどの技術の飛躍的な進化など、ビジネス環境に急速な変化が訪れています。一方でCO2削減などのサステナビリティへの対応が求められたり、人材不足とそれに伴う人件費の高騰といった課題も深刻化しています」(入谷氏)

こうした課題は企業のシステム開発にも影響を与えている。人材不足であるが故にベンダーへの丸投げが多くなり、人材とスキルの空洞化が進んだり、その結果システムがブラックボックス化するといった技術的負債が増したりしているのだ。

このような現状を打破するために注目が集まっているのが、ローコード/ノーコードによるシステム開発の内製化である。

ITRの調査によると、内製化をすでに実施している企業は全体の約20%となっており、38%が今後実施予定だという。従業員数5,000名以上の大企業に限定すると内製化実施率は31%、実施予定は42%とさらに高まる。今、ローコード/ノーコード開発を活用したシステム内製化への機運は急速に高まっていると言えるのだ。

  • 企業におけるシステム内製開発の実施状況

ローコード/ノーコード開発とは

ローコード/ノーコード開発を行うには、そのためのプラットフォームを導入して活用するのが一般的だ。

では、ローコード/ノーコード開発プラットフォームとはどのようなものなのか。

最大の特徴とも言えるのが「ビジュアルモデリング」、すなわちドラッグ&ドロップなどの簡単な操作でコンポーネントを組み合わせながら、アプリケーション開発を進められることである。

また、あらかじめデータモデルやテンプレートが用意されており、さらにAPI連携やワークフローの構築まで容易に行える点もローコード/ノーコード開発プラットフォームのメリットとなる。

加えて、デプロイ、テスト、モニタリングなどのアプリケーションライフサイクル全体を管理できる点も大きい。アプリの開発だけでなく、実行環境が備わっているからこそ、ローコード/ノーコード開発“プラットフォーム”なのだ。

なお、従来のアプリ開発のような専門性の高いコーディングが不要という点ではローコードとノーコードは近い存在だが、とは言え、「ロー」と「ノー」ではやはり違いはある。

ローコードはプラットフォームで用意されているコンポーネントに加えて、多少のコーディングにより独自の機能やロジック、画面などを実装できるため、よりアプリ開発の拡張性が高い。よって、業務担当者の中でもITスキルの高い人や、本職のエンジニアなどが主な対象ユーザーと言えるだろう。

一方、ノーコードはコーディングを一切せず、プラットフォームで用意されているコンポーネントの範囲内で開発を行う。そのため、ITスキルがそれほど高くない業務担当者や開発者以外のITエンジニアなど、対象ユーザーの幅は広くなる。ただし、独自機能の追加など拡張性についてはローコードよりも低いため、シンプルなアプリの開発に適していると言える。

  • ノーコードとローコードの違い

もっとも、入谷氏によると、現在ではノーコードとローコードの両方に対応したプラットフォームも増えているそうだ。