ガートナー ジャパンは11月3日~15日、年次カンファレンス「Gartner IT Symposium/Xpo 2023」を開催した。本稿では、同社 ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストの亦賀忠明氏が「新たな時代に獲得すべきマインドセット2024」と題して登壇したセッションの内容をレポートする。

  • ガートナー ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストの亦賀忠明氏

世界的な変化にどうすべきか悩むリーダーが半数以上

亦賀氏は冒頭、気候変動や地政学的なパワーバランスの変化、スーパーパワー・テクノロジーの台頭などにより、世界情勢は見えづらい部分がまだまだあるとした。一方で、ガートナーの調査では「グローバル化やビジネス環境の変化に関し、どのように対応しようとしていますか」という質問に対し、「対応すべき方向性が分からない」「変えられない」という回答が約57%であったという。同氏はこの状況に警鐘を鳴らし、「時代は確実に動いている。変化に対応する新しいマインドセットが必要不可欠」だと強調した。

ここで亦賀氏が挙げたキーワードが「江戸時代からNew Worldへ」である。オフィス中心、リアル中心、紙や印鑑を用いる業務中心といった“江戸時代”から、ビジネスの自動化、ハイブリッドワーク、AIとの共生といった“New World”へ、「歴史の転換、産業革命が起こっている」と、同氏は力を込めた。

このような時代において重要なのは“人”である。テクノロジーだけあっても使いこなせる人がいなければ意味がない。そして、テクノロジーを使いこなせる企業、組織、人であるために必要なのが、新たなマインドセットなのだ。

2024年に獲得すべき、新たなマインドセットとは

亦賀氏はここから2024年に獲得すべきマインドセットとして、17項目を挙げた。以降ではその主なものを取り上げる。

産業革命のマインドセット

新たなテクノロジーにより、新たな産業が起こる現代においては、何かの業務にデジタルを“活用”するという発想ではなく、デジタルが前提のビジネスが重要となる。亦賀氏はこれを井戸と水道になぞらえ、「水道が登場したとき、誰も水道をどう井戸に活用できるかとは言わなかった」と説く。

これは、ビジネスにおいても同様のことが言えるという。

「デジタルを“活用”するのではなく、小売業はデジタル小売業に、製造業はデジタル製造業に変わっていかなければ、衰退、消滅してしまいます」(亦賀氏)

作業者からクリエイターへ

テクノロジーの進化により、業務におけるルーティーンワークはAIやハイパーオートメーションへの置き換えが進む。その中で、ITエンジニアはどのようなポジションを目指すべきなのか。亦賀氏はMicrosoftの見解の中にある「プロンプト・エンジニアリングは芸術である」という言葉を挙げ、エンジニアはクリエイターになるべきだと述べた。さらに、企業側はIT部門やエンジニアを下請けと見なさない、IT部門やエンジニアは自身を“安売り”しないという考えが重要だとした。

また、テクノロジーとの向き合い方にも新たなマインドセットが必要になる。

「『ツール』が使えるかではなく、『あなた』が使えるかが試されています」(亦賀氏)

業務とビジネス

亦賀氏は、業務はお金が絡まないもの、ビジネスはお金が絡むものを指すと定義。その上で“産業革命”に対応するためには、「業務の延長のマインドセットでは通用しない」と断言する。ガートナーの調査によると、2030年までに事務的な業務の8割はハイパーオートメーションで自動化されるという。

では、人は必要ないのか。同氏は、このような時代だからこそ、「ビジネスよりも倫理、People-Centricが求められる」と述べた。

「テクノロジーにできることはテクノロジーに任せて、人がより“人間らしい”仕事をする時代に入るのです」(亦賀氏)

「何でも松」から「松竹梅」へ

ここで言う「何でも松」とは製品やサービス、仕事の仕方などを含めて、全てに完ぺきを求めがちな姿勢を表している。その例として亦賀氏が挙げたのは、かつての日本企業で見られた、「用紙の罫線は、このようなカーブで太さはこのくらい」といった細かなルールを徹底していたことだ。しかし今の時代、「何でも松」にしていては、非合理的で無駄が多い。そこで、慣習的に過剰な“松”になっていないかを点検し、コストをかける部分、かけない部分を決め、「松竹梅」にしていくことが求められているのだ。

時代に合わせて変える

時代が変われば、役割も当然変わる。亦賀氏は、企業経営を司るCEOや、CFO、CTOと並び、「CIRO、チーフ産業革命オフィサーを立てる」ことを推奨した。CIROの役割は中長期的な戦略を立て、戦略的なマインドセットとアプローチを採用することにあるという。

その戦略とは「変化する状態の中において『生き残り』『勝つ』ためのシナリオ」(亦賀氏)である。ただし、「完ぺきな計画を立てる必要はない」と同氏は語る。時代は変化し続けるものなので、戦略は重要だが、計画、つまり「予定通り実行すべきシナリオ」は不要なのだ。

New Worldの創造を楽しめるリーダーを目指す

亦賀氏は最後にガートナーからの提言として、リーダーは今回取り上げた新たなマインドセットを半年以内に全従業員やパートナーに定着させること、日々の行動を「議論・検討」から「実践」へと切り替えること、経営者は「自分事」として、人材への投資、マインドセットの獲得をリードすること、新たなマインドセット獲得のためにもCOE/CoPを設立し、New Worldへの第一歩を踏み出すことを示した。そして「マインドセットの獲得・定着による『New Worldの創造』を楽しみましょう」と呼びかけ、セッションを締めくくった。