【農林水産省】「食料の武器化」阻止へ WTOに条件明確化を提案

日本政府は10月、食料の輸出規制措置について、発動条件を明確化したり、各国・地域の状況を評価したりするよう世界貿易機関(WTO)の農業交渉会合に提案した。ロシアによるウクライナ侵攻で穀物の供給が滞るなど「食料の武器化」の脅威が高まる中、輸出制限の濫用防止に向けてWTOで議論を主導することを目指す。

 WTOは食料不足への対応として食料の輸出制限を認めている。ただ、事前通報などのルールは必ずしも守られておらず、突如として供給が途絶するリスクが指摘されている。最近では、最大の米輸出国であるインドが7月、国内供給を確保するために大規模な米の輸出制限に踏み切り、世界に混乱が広がった。

 食料純輸入国であり、カロリーベースの食料自給率が38%に留まる日本は、他国による食料輸出制限が「アキレス腱」になりかねない。このため、かねてから輸出規制措置の透明化には強い関心を持っていた。

 宮下一郎農林水産相は記者会見で「ルールはあっても守られていない。本来のあるべき姿に戻っていく手立てだ」と提案の狙いを語った。

 その後、10月下旬に大阪、堺両市で開催された先進7カ国(G7)貿易相会合の閣僚声明には、議長国の日本が主導し、農業・食料貿易を促進するために「輸出規制の規律と透明性を強化すること」が盛り込まれた。日本としては、G7声明を生かし、来年2月にアラブ首長国連邦の首都アブダビで開かれるWTO閣僚会議で合意にこぎつけたい考えだ。

 ただ、一部の新興国は自国の食料安全保障を確保する観点から日本の提案に難色を示しており、合意まで持ち込むのは「なかなか難しい」(農水省幹部)。

 食料安全保障の他、気候変動問題への対応など農業を巡る課題は山積しており、通商関係者は「輸出制限の透明化は、他の農業問題とセットで扱われる可能性がある」との見方を示している。

BNPパリバ証券チーフエコノミスト・河野龍太郎氏の提言「日銀は米欧の教訓を生かせるか」