小林製薬といえば医薬品やオーラルケア、芳香消臭剤、スキンケア、日用雑貨品などさまざまなジャンルの製品を提供する企業だ。「アンメルツヨコヨコ」や「のどぬ~る」など一度聞いたら忘れないユニークな商品名でも知られており、大ヒット商品を数多く生み出している。
そんな小林製薬のシステム開発体制がこの数年で大きく変わったという。ベンダー依存だった状況を改革し、ローコードツールを導入することで開発の内製化を実現したのだ。従業員数3,000人以上、連結子会社36社という規模の企業で、何十年も続いた体制を変革するのは容易なことではない。
小林製薬はなぜ開発の内製化を進めるのか。そして、ローコードツールの導入をどのように成功させたのか。
10月19日に開催された「TECH+セミナー ローコード/ノーコード開発 Day 2023 Oct.自走で差がつくビジネス戦略」に小林製薬 CDOユニット 販売システム部 営業・マーケシステムGの鈴木章史氏が登壇。内製化への具体的施策について語った。
ローコード導入の目的はベンダー依存の脱却と人員不足解消
そもそも小林製薬はなぜ開発の内製化を決めたのか。その背景にあるのが、何十年と続く開発体制における課題の顕在化だった。
同社は元々、アプリケーションなどの開発をベンダーに頼っており、社内には常に多くのベンダーが常駐している状況だったという。
「ベンダーが身近にいるのが当たり前の環境で、小林製薬の社員は調整を中心に担当していました。そのため、ノウハウが社内に蓄積されていかなかったのです」(鈴木氏)
ベンダーとの契約が続いている状態であれば、それでも問題はなかった。ところが、最近になって長年契約していたベンダー2社との契約が事情により終了してしまったのだ。
ここで響いてきたのが、社内における人材とノウハウ不足だった。IT業界で慢性的な人材不足が続く昨今、経験豊富な開発者は見つかりにくく、いたとしても月単価が高く契約できない。かと言って経験の浅い開発者を雇っても、教育できる環境が社内にはない。
では、別のベンダーを探すべきなのか。
この点についても課題が浮かび上がってきた。そもそもベンダー任せになっていた時代、システムに関する質問や調査を行うのに毎回ベンダーに依頼しており、解決するまでにかなりの時間がかかっていた。さらに、二次バグや先祖返りといった品質に関する課題もあり、社内では「ITは仕事が遅く、品質も悪い」というイメージが定着してしまっていたという。
開発のスピードと品質を上げるためにもベンダー依存からは脱却しなければならない。しかし、経験豊富なエンジニアと契約したり社内でエンジニアを教育したりすることも難しい。
これらの課題を解決する手段として同社が選んだのが、ローコードツールの採用だった。
なぜノーコードではなく、ローコードを選んだのか
ツールの選定で重視したのは「開発速度」と「高い品質」、さらに誰でも開発できるツールであることや社内で開発者の教育ができることである。
また、従来のシステムはフルスクラッチで開発されており、細かい機能などが“至れり尽くせり”の状態だった。そうした環境面をできるだけ再現するためにも、高いカスタマイズ性を持つツールであることも重要だったという。
ノーコードツールとも比較した結果、前述のような条件を満たせることから小林製薬はローコードツールの方を選択した。
選定においてはさらに2つの観点から検証を行った。
まず、「本当に開発スピードを高速化できるのか」という点だ。社内アプリの開発速度を従来の開発方法とローコードツールで比較した結果、マスタ検索画面の構築やワークフロー申請画面の構築において、それぞれローコードツールの方が70%以上の速度上昇を達成する結果となった。
さらに必要な機能の網羅性についても、標準機能に加えてカスタマイズを施すことによりローコードツールでも十分対応できることがわかった。
「開発速度も早く、機能も網羅できているということで、まずは自部門での展開を開始しました。期間は6カ月間、社員2名と常駐開発員3名という体制です。具体的な活動としては、常駐開発員の教育、テンプレートを用いての速度や保守性の検証、本番アプリの開発です」(鈴木氏)
その結果、2つの大きな成果が得られた。まず、社内で教育した担当者がアプリを開発できるまでになったことだ。これにより、属人化の排除や人材不足解消への目処が立った。
さらに、月平均1~2回の改修を実施。これにより、開発・改修スピードの向上と高い保守性を実現した。
この成功事例をもって、鈴木氏はローコード開発による内製化体制の構築が可能と判断。全社展開する運びとなった。
しかし、最初の全社展開は頓挫した。
その理由は、展開先のIT部門のメンバーにローコードツールのメリットを感じてもらえなかったことだ。IT部門を対象に3時間の研修の実施と、PDF研修資料の配布を行ったが、ローコードツールを定着させるにはそれだけでは足りなかったのだ。
この反省を基に、鈴木氏はあらためて全社展開プロジェクトを発足した。