米NetApp(ネットアップ)は10月23日~25日に米国ラスベガスで年次カンファレンス「NetApp INSIGHT 2023」を開催した。リアルでの開催は約4年ぶりとなり、本稿では米NetApp CEOのジョージ・クリアン氏の基調講演の話を紹介する。
企業、組織がデータドリブンでAIに対応していく必要性
今年のキーワードは「the it factor(その要素)」だ。クリアン氏は冒頭にINSIGHTの目的、現在のグローバルにおける環境について以下のように話した。
「講演者同士がお互いから学び、あらゆる混乱をすべての人にとってチャンスに変えるにはどうすればよいかについて学びます。私たちは変化の速度と混乱の影響が加速し、リスクが増大する世界で事業を行っています。これらには、地政学リスク、マクロ経済リスク、ビジネスおよびテクノロジーのリスク、顧客需要の変化に加え、自身にも課題があるでしょう。 アプリケーションとインフラストラクチャの最新化と増大する技術的負債の解消し、広範なサイバー脅威、特にデジタル資産とデータを狙った国家主体の大規模な攻撃人材不足への対応などもあります」(クリアン氏)
同氏によると、テクノロジーの進歩に遅れをとらないようにすること自体に企業・組織はストレスを感じており、ITインフラの環境を簡素化、標準化、自動化していく必要があるという。
クリアン氏は「数年前まではクラウドは万能薬であり、すべてを解決できる答えであると考えられていました。ただ、多くのお客様が認識していることはクラウドへの移行のペースには時間を要するとともに複雑であり、過去数年間で多くのことを学んできたことです」と振り返った。
続けて「したがって、現状の解決策はハイブリッド/マルチクラウドアーキテクチャによる長期間運用と想定されています。データとデータ管理は現代における成功への鍵です。調査結果によると、リーダー企業の30%が2024年末までに収益を10%以上増加すると予想し、後発企業のデータリーダーは13%でした。これは大きなギャップです。2022年はリーダー企業が16%、後発企業が11%と予想していましたが、今回の調査はデータドリブンによるメリットが拡大していることを意味しています」と、同氏は話す。
データドリブンは収益の増加だけでなく、あらゆる重要なビジネス指標、コスト管理、生産性、顧客満足度、ROI(投資利益率)などにも影響を与え、AIにより、その差はさらに広がることになるという。
また、AIは典型的なハイブリッドクラウドのワークロードであり、クラウド上で迅速にテストし、本番環境(場合によってはデータセンターまたはクラウド上)を拡張する必要がある。そのため、ハイブリッドクラウドに対応している組織間のギャップもAIによって拡大するとの見立てだ。
データドリブンでAIに対応する3つの要件
では、データドリブンでAIに対応するには組織として何が必要なのだろうか。課題はデータテクノロジー、データの規模・量、さまざまなデータタイプが急速に進化する一方で、データ投資が短期的な価値を提供すると同時に、企業・組織においては自身のユーザーを支援するための基盤を築かなければならないとのことだ。
同氏はビッグデータのデータタイプが進化し、分析環境が大幅に進歩したため失敗したケースやPoC(概念実証)で大量のパイロットが作成されたが、どれも製品化されていないことなどを挙げている。これらは、日本でも聞いたことがある実例だ。
そして、クリアン氏はデータドリブンでAIに対応するための要件として「一貫したデータ戦略と組織」「製品としてのデータ」「モダンデータアーキテクチャ」の3つを挙げている。
同氏は「まずは、一貫したデータ戦略と組織を持つことからスタートします。具体的には、ビジネスへの影響を促進するためにどのようなデータが必要かを理解し、データチームのアナリスト、エンジニア、アーキテクト、データサイエンティストが協力して本番ユースケースの設計と展開を行うことです」と説明した。
続けて、製品としてのデータについて同氏は運用モデルとテクノロジー戦略が必要と説く。同氏は「運用面で一貫したデータ戦略と組織を持つことに加えて、“データを製品として”捉える必要があります。 それはどういう意味か。つまり、顧客、製品、サプライヤー、ベンダー、従業員などの各ドメインのデータが統合され、複数のアプリケーションやユースケースに対応する単一のソースとして扱うことです」と話す。
クリアン氏によると、顧客はビジネスプロセスの運用やその基盤となるシステム、すなわちCRM(Customer Relationship Management)やBI(ビジネスインテリジェンス)、サプライチェーンシステムなどに注目しがちだという。
同氏は「しかし実際には、データドリブンやAIに対応するためには、基盤となるシステムから抽象化され、急速に変化する顧客のニーズに合わせてビジネスを変革できる幅広いアプリケーションに対応したデータモデルの基盤を形成が必要です。顧客や従業員に関するまとまったデータセットを束ねることです」と強調した。
そして、モダンデータアーキテクチャに関して、同氏は柔軟性や迅速な変更、変革を可能にする一方で、統合、標準化、バランスを取ることで、ビジネスの混乱に迅速に対応することを可能にするという。
「私たちは、スタックのすべてのレイヤーを変革せよと言うつもりはありません。なぜなら、段階的な改善と柔軟性に対するリスクを最大化するからです」(クリアン氏)
変化する顧客の要求に応えるため、データのアプリケーションやユースケースは幅広く、急速に進化する必要があるほか、ビジネスのニーズも常時変化している。そのため、統合された方法で取引システム内のデータを使用するだけでなく、没入型の体験を作成するために外部データソースを使用する可能性がある。
クリアン氏は「例えば、複数のチャネルを統合した顧客ポータルです。真に没入感のある顧客体験を顧客に提供するには、このレイヤのアーキテクチャに柔軟性が不可欠であり、各ドメインのデータが統合され、複数のユースケースに対応した単一のソースとして扱われる安定したデータモデル上で実行される必要があります」と説明する。
運用面では、各ドメインのデータは基盤となるトランザクションシステムから独立した製品として扱われる必要があるという。
こうした状況をふまえ、同氏は「これらのデータ製品は、柔軟性の高いトランザクショナルデータレイヤの上に置かれており、アプリケーションやデータベース、データレイク、データファブリック、データミッションの置き換えや近代化であれ、急速に進化するデータ、データタイプ、膨大に増大する非構造化データ、最新のAIアナリティクスオープンソーステクノロジーのスケーラビリティや機能要件であれ、変化するテクノロジーの割合が高い部分です。そのため、柔軟性を維持する必要があります」との認識だ。
インテリジェントで統合されたサイロのないデータ基盤を構築する必要があり、ハイブリッド/マルチクラウド時代において、あらゆるアプリケーションやワークロード、データタイプ、場所のニーズを満たすように進化することが望まれるという。最新のデータアーキテクチャは、データドリブン型企業の技術的な基盤になるとのことだ。
クリアン氏は「要約すると、データドリブン型になるにはまとまったデータ戦略と組織、データを製品として扱う運用モデル、そしてインテリジェントなデータインフラストラクチャに構築される最新のデータアーキテクチャが必要です」と念を押す。
データから最大限の価値を引き出すことを支援するNetApp
クリアン氏が言及した、インテリジェントなデータインフラストラクチャを構築するには、どのような施策が必要なのかは気になるところだ。その点、同社はこれらの基盤の構築に関して、他社と比較しても一日の長があると自認しているようだ。
同氏は「当社は、あらゆる企業のデータインフラストラクチャのインテリジェント化を支援できると確信しています。これにより、データを“機会”に変える力にすることができます。数年前、当社はこうした言葉がハイブリッド/マルチクラウドになるだろうと話しましたが、これを実現してきました。データファブリックを使用すると、データがマネージドサービス環境のデータセンターにあるのか、パブリッククラウドにあるのか、あるいはすべての組み合わせにあるのかに関係なく、ビジネスがあらゆる環境にわたってパフォーマンスとシンプルさでデータを管理できるようになるのです」と胸を張る。
近年において、顧客、テクノロジーパートナーと協業する中でデータ管理に対するニーズがプライバシーやデータ保護、ガバナンスに対する要件が拡大しており、AIやクラウドネイティブ、オープンソースアプリケーションのような、ダイナミックな新しいワークロードをサポートする必要がある。
2028年までに、大半の企業で非構造化データがデータ基盤の80%を占め、分散する動的なインフラストラクチャとインテリジェントデータインフラストラクチャの観測可能性の最適化、自動化が求められている。
クリアン氏は「最適なデータ管理を可能にするために、観測可能性とAIを活用したデータサービスを利用したインフラストラクチャから始まります。当社が提供するすべての機能は設計上、ハイブリッド/マルチクラウドです。インテリジェントデータインフラは統合データサービス、サイバーレジリエンス、ポリシーベースのデータガバナンスによって強化されます。インテリジェントで効率的なクラウド運用ソリューションでサポートされる、あらゆるデータ用のストレージOS、ネイティブなクラウド統合と統合制御により、あらゆる環境にわたってデータストレージを組み合わせます」と述べた。
これにより、蓄積されたデータの価値を最大限に引き出すために、シームレスで柔軟な運用を可能にするという。また、AIを活用することでインフラとチーム全体の生産性を最大化することができるとも話す。同氏は「AIは現代のIT時代を大きく破壊するものです。最終的には、世界のGDPを7%引き上げることが見込まれています」との見通しを語った。
これはインターネットが生み出したものをはるかに上回る数値ではあるものの、その報酬は偏在する可能性があるとも同氏は指摘する。
クリアン氏は「なぜなら、データドリブンでAIに対応したリーダーは、後発企業を劇的に上回る可能性があるからです。あなたを勝者の一員にするために、私たちは明白でシンプルなことを聞きます。当社には市場での経験があり、NVIDIAなど業界リーダーと協力して予測AIを可能にし、何百もの顧客向けソリューションを持っています。AIはデータに基づいて実行されます。データは統合データサービス上で実行されるため、データから最大限の価値を引き出し、企業全体でAIを拡張することがはるかに簡単になるのです」と、企業・組織をデータドリブンでAIに対応できるよう支援すると、強調していた。