アマゾン ウェブ サービス(AWS)ジャパンは10月13日、金融領域における生成系AI活用事例に関する記者説明会を開催した。金融事業開発本部 本部長 飯田哲夫氏は、生成AIに関する同社の取り組みの動向として、「グローバルでの事例の増加」「Amazon Bedrockの東京リージョンでのローンチ」「サポートする基盤モデルの拡充」「」国内の金融領域の取り組みの進展」を挙げた。
同社は、金融ビジネスにおいて、インフラ プロバイダーから戦略パートナーにシフトする戦略「Vision 2025」を掲げているが、生成AIに関しても同様に、顧客課題を起点としたビジネス変革支援のアプローチをとる構えだ。
技術統括本部 技術推進グループ 本部長 小林正人氏は、生成AI関連の新サービスとして、「Agents for Amazon Bedrock」を紹介した。同サービスは、数ステップで生成系AIアプリケーションに必要なタスクを完了するものだ。
具体的には、「基盤モデルの選択」「基本的な指示を与える」「関連するデータソースの選択」「実行可能なアクションを指定」といったステップでタスクを分解して処理する。
また、小林氏は生成AIを始めるためのステップとして、「正しいユースケースを選択」「あらゆるスキルレベルのデベロッパーをスキルアップ」「Amazon Bedrockで基盤モデルを検討し、ユースケースのPoCを実施」の3つを挙げた。
三菱UFJ銀行:15のモデルを開発し、4件のユースケースを検証
続いて、AWSの生成AIサービスを利用している3社が自社の取り組みを紹介した。トップバッターは、三菱UFJ銀行 市場企画部市場エンジニアリング室 上席調査役 堀金哲雄氏だ。
同行では全社を挙げて生成AIの利用を進めており、「生成系AIの有用性と安全性を見極めた上で業務に取り入れ、業務のあり方を変革」「AIが全自動で業務を行うのではなく、良き相棒として行員と一緒になって業務を進める」「全行員がAIデフォルトでアナログなおもてなしの価値を最大化する」をゴールとして掲げている。
ChatGPTに関しては、業務横断型のプロジェクトを立ち上げ、PoCを実施した。今後は、110を超えるユースケースをもとに、精度の高いPoCを進めるという。堀金氏によると、行員からは即効性を感じているというフィードバックを受けているという。
AWSを活用した生成AIへの取り組みは、市場部門のAI・機械学習モデル内製開発チームが行っている。生成AIの円滑な実務適用に向けて、5月にプロジェクトチームを立ち上げたそうだ。「チームを立ち上げて半年経ったが、15のモデルを開発し、4件のユースケースを検証した」と堀金氏。
堀金氏は、AWSを活用した取り組みについて学んだことについて、次のように説明した。
「社内の情報を使えたため、実務に即したモデル評価ができた。LLM以外の周辺技術や運用体制など、課題が見えてきた。SageMakerを使ったので、若手でも検証を行えた」
堀金氏は、今後の展望について、「技術がどんどん進むので、至るところで生成AIを活用できる体制を整備することが重要と考えている。また、内製化を競争力の源泉と考えており、人材の採用と育成のいずれにおいても力を入れる」と語っていた。
ナウキャスト:基盤モデルの豊富さとアプリ実装の容易さからAWSを選定
ナウキャスト(Finatext グループ)プロダクトマネージャー 片山燎氏は、同社のLLM開発について説明した。同氏は、金融機関向けにLLMの導入支援やデータ基盤開発支援を推進している。
片山氏は、LLMの活用のポイントについて、「エンジニア目線で見ても、LLMはまだ課題が多いので、課題を認識したうえでテーマを選ぶことが重要」と述べた。課題とは、「プロンプト運用の難しさ」「レイテンシー」「ファインチューニングの難しさ」などだ。
さらに片山氏は、万能のツールと思わずに、自然言語処理の要素技術として捉え直してテーマを選定することが大切だと指摘した。同氏はよい良い開発テーマの評価軸として、以下4点を挙げた。
- タスクの正解が簡単に判断できる。もしくは正解がない
- 深いドメイン知識が必要ない。もしくはそのドメインに関する知識が世に広く出回っている
- タスクの完了に必要なコンテキストが少なく、かつコンテキストの言語化が容易
- ユーザーがプロンプトを入力しない
片山氏は、同社がAWSを選定した理由として、「基盤モデルの選択肢が多い」「アプリケーション実装の容易さ」を挙げた。LLMはBedrockによって提供されるAnthropicのAPIを利用するといい、Anthropicの提供もAWS採用の決め手となったそうだ。
シンプレクス: 生成AIによりミーティングの音声を起点とした業務効率化を実現
シンプレクス クロス・フロンティアディビジョン プリンシパル 氏弘一也氏は、生成AIを用いた業務効率化の取り組みについて説明した。同氏は、AIエンジニアとして、AIプロダクト開発や分析プロジェクトを推進している。
同社はAIエンジニアを中心とする生成系AI専門チームを設立。金融システムベンダーとして、より良いシステムを早く提供できるよう、社内の業務効率化にフォーカスしたAI活用を検討している。
同社は、ユーザーからのフィードバックを生かすため、ミーティングの音声から発話を起こし、インサイト整理といった業務に時間を費やしているという。そこで、生成系AIを用いてその音声から情報整理を行い業務効率化に貢献できるか検証を実施した。
具体的には、5時間分のミーティングの音声を対象に評価が行われた。Amazon Bedrockにより最先端の言語モデルを容易に利用して、迅速に検証が行えたという。氏弘氏は、3人日の作業を1人日に削減できることがわかったと話した。また、ミーティング中にメモをとる必要がなくなるため、メンバー全員がミーティングに集中できるようになったという。
音声を起点とする業務の効率化に言語モデルが有用であることが検証できたことから、今後は、言語モデルを扱って、企業固有のデータを業務ナレッジの整理や顧客接点の改善に応用することを考えているとのことだ。